第247話:発信源


 そして、楓人は考えていた質問を終えると息を吐く。


 用心深い烏間が西形には必要以上の情報を与えないままで、利用し続けていたのは話を聞いてよく理解できてしまう。

 マッド・ハッカーのメンバーに関する情報も幾つかあったが、直接の素性に繋がるような具体的な話はなかった。

 楓人が最も欲しかったのはマッド・ハッカーが“どう殺害依頼を受け、情報発信をしていたのか”という明確な手段だ。


 やはり、マッド・ハッカーも『ロア・ガーデン』と同じくインターネット上に情報を得る手段を持っていたようだった。


 その場所はメンバー内でも知る者は少ないが、組織内にいれば内容の断片だけは伝わってくるもので手掛かりはあった。

 ホームページデザイン、記載された情報の一部。念の為に調べてみるとしても、これだけでは辿り着くには情報が足りない。


「わかりました。もし、何かあればお聞きするかもしれません」


『ああ、どうせ誰も話相手もろくにいないからな』


「ありがとうございました。非常に有意義な時間でした」


 礼を告げるとタブレットの通信を切断して顔を上げる。

 マッド・ハッカーが情報をばら撒く手段を予想以上に持っているのなら、今までに分からなかった噂の出所も彼らかもしれない。

 例えそうでなくとも、そうだと推測して動けば別の答えが見つかるかもしれない。


 では、どう彼らが都市伝説の一部を流していたかを証明するか。


 それを証明できれば、管理局の力を使って出来ることがある。


 ここから先は、流れていた噂の検証を一から始めよう。

 ロア・ガーデンに流れていた話もマッド・ハッカーの関与を疑いながら、鋼の狼の頃から洗い直すことで真相に迫る。



 手始めに、最も手軽な情報収集は『人の噂』である。



 ―――そして、翌日。



「頼む、椿希。ちょっと協力してくれないか?」


 店を訪れた椿希に対して、手を合わせてお願いする。

 アイスコーヒーを飲んでいた椿希は怪訝そうな顔をして、木造りのカウンター席を挟んで楓人を一瞥した。


「別にいいけど、何か急ぎの用事?」


「それなりに急いで欲しいってのはあるけど、もちろん嫌なら断ってくれていい。それで頼みっていうのが―――」


 既にコミュニティーメンバーと渡には昨日の内に得た情報は共有してある。


 椿希は顔の広さと人望がカンナと違った面で活かせるので、変異薬のことまでは話せないものの出来るだけ正直に話をした。

 そして、その一方でメッセージを情報通の鈴木陽菜へと送ってある。


 今回、行おうとしているのは鋼の狼とほぼ同時に起きた事件の再確認。


 最初に『鋼の狼に人が食われる』と同じくして流れた二つの噂があった。

『トイレの冥子さん』と『下駄箱にて首を大鎌で狩られる』という二つの都市伝説にが蒼葉北高校では流れたのだ。

 過去にその検証をカンナと燐花で行った結果、白銀の騎士こと柳太郎と大鎌の変異者である梶浦が学校にいた事実は明らかになっている。

 元々、梶浦が渡に雇われて学校に配備されたのは『変異者が学校に現れる』と噂が都合よく流れたせいだ。


 最初に虚偽の噂を流したのは誰かを見つけ出す。


 今までの事件が一つに繋がっている疑惑が強まった今、最初から検証すれば変異薬に辿り着くことも不可能じゃない。

 要するに情報の出所から辿って、少なくとも蒼葉北への発信源を知って追いかけるられるはずだ。この方法で根源を探るのは紅月にも出来ない方法だ。


「いいわよ。誰に連絡を取ればいいの?その代わり、あまり危険なことに首を突っ込まないで欲しいわね」


 この街で起きた犯罪に関する情報収集だと話をすると、やや難色を示したものの椿希は思い直したように首を縦に振ってくれた。


「ありがとう、助かる。今すぐってわけじゃないんだけどさ。そろそろ陽菜から情報が来ると思うから、それ次第にはなる」


「わかったわ。大した手間じゃないし、いつでも言って」


 椿希は納得いかなかったり相手の為にならないと思えば、はっきりと意志表示をする性格なので断られたら仕方がないと覚悟していた。

 しかし、今回は問題ないと判断してくれたのか快く彼女は承諾してくれた。


 夏休みのカフェは時々だが休業が入り、店のドアや窓にも張り紙で休業の予定は予め記入はしてある。


 今日は休業日の内の一日で、メンバーの集合は強制ではない。

 無論、ミーティングをする時は必ず来て貰うようにしているし、定期的に集まる日を決めてあるので活動に問題はなかった。


「それにしても、お店の中は涼しいねー」


「そういや、楓人んち来るまでも一苦労だったな」


 テーブルにへたりこんだカンナが力のない声を出して柳太郎が応じる。

 業務用エアコンが効いた店内では、外は三十幾つの気温を誇るのも関係なく適度に快適な室温が保たれていた。

 先ほどまでは店の外を掃き掃除していたカンナは炎天下で大分へばったようだ。


店の中には楓人以外にはカンナ・椿希・柳太郎がいて怜司は二階だ。

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