第143話:手がかり
楓人達が動くのは、白銀の騎士から以前に渡された手掛かりを追う為だ。
白銀の騎士とは戦ったこともあるものの、今の所は完全な敵として動いているとは思えないので手掛かりにも意味はあると考えて良い。
偽物の黒の騎士、火の玉による傷害事件、紅月柊について、と今の内に調べておくべきことは多かった。
故にメンバーには念の為に報告をしておき、学校をサボるという決断に至った。
こういう時に活きるのが親戚と言う設定で、法事ということにして学校には怜司に頼んで連絡しておいたのだ。
―――流し素麺パーティーは早めの時間に解散し、月曜日を迎える。
楓人とカンナは蒼葉東に向かう電車に揺られていた。
平日の朝とあって、人はそれなりに混んでいるが、運よく席は確保できたので腰を落ち着けながら小声で会話する。
「それにしても俺を騙るなんて許せないよな」
「放っておいて悪いことされちゃったら困るよね」
「それなんだよ、一番そこを心配してる」
黒の騎士は今まで極力犠牲は避けて、犯罪者だろうと収監する方向性を取っていることは変位者達の中でも周知の事実だ。
それ故に心ある者からの指示は得られており、裏掲示板にある黒の騎士に関するスレッドも管理局の犬だの言われることもあるが概ね好意的な意見が多い。
しかし、偽物がもし大量殺人を冒すようなことがあればどうなるか。
ロア・ガーデンには黒の騎士に似た姿で動いている変異者がいる旨は簡単に記載してあるが、黒の騎士に関する悪評が立ってしまえばそんなものを信用されない可能性だってあるのだ。
今回の件に関しては早めにカタを付ける必要がある。
電車に揺られること四十分ほどで目的地の最寄り駅には着いた。
蒼葉東の中でも必然的に学生の出入りが激しい、
蒼葉市内で通う大学といえば一つ、目の前にある蒼葉大学の中に白銀の騎士は訪ねるべき人物を指定してきたのだ。
蒼葉大学は経済学部、経営学部を始めとした一般的な大学が備える学部に加えて、都市開発系の専門知識も学べる場所だ。
キャンパス内は大災害の影響があった場所を市が修復し、敷地は蒼葉北高校とは比べ物にならない。
内部を移動するなら、自転車程度は欲しい所だ。ちなみに、何人いるか不明瞭な中で目的の人物を探すには手っ取り早い方法があった。
「そういえば、楓人って大学行くんだよね?」
「ああ、そのつもりだよ。学費くらいは今でも十分払えるしな。カンナはどうするんだ?別にお前だって通えるんだからな」
エンプレス・ロアが管理局から得ている報酬は命が掛かっているせいか高額で大学に通う分は問題なく捻出できる。
父親である遼一も学費に関しては出すと言っているが、出来れば頼らずに自立したいというのが本音だった。
カンナに関しては管理局の力を借りて身分を保証させ、強引に高校には入学させたのだ。
彼女には色々なものを見て、人間として生きて欲しいという気持ちがあった。
今回も管理局のパワーを利用すれば何とか入学を果たすことは出来るだろう。
普段、矢面に立って命を懸けているのだからこの程度は協力させよう。
「それなら・・・・・・行きたいな、大学」
「ああ、明璃を見てる限りキャンパスライフってのも楽しそうだ」
「私は行くなら楓人と一緒のとこがいいな」
にっこり笑うカンナの表情からは楓人への好意だとか隠すことのない愛情だとかがはっきりと感じ取れて、むず痒い気持ちになる。
あそこまではっきりと告白されれば嫌でも意識するしかない。
「・・・・・・まあ、一緒に入れればいいな。学部は別になるかもしれないけど」
「す、好きな人と一緒に通えるってだけで私は十分だよ」
「お前、何か前にも増してストレートに言うようになったな」
「わ、私だって恥ずかしいけど・・・・・・がんばるって、言ったから」
顔を赤くしながらぴったりと寄り添って歩く彼女に自然と鼓動が高鳴るのを感じて、一体自分はどうしたいのだろうと頭を掻いた。
カンナは自分を好きになって貰えるようにと前に進んでくれている。
変異者のことがあるとはいえ、この鼓動が何なのかに答えを出せるのはきっとそう遠くはない気がした。
むず痒さに耐えながら辿り着いたのは、学生が学び舎での手続き等を行う場所である学生科だ。
生徒を呼び出すのなら、ここでアナウンスさせるのが手っ取り早いだろうと考えたのだ。
メモは事前に暗記してあるので間違えることもないし、企業が主催したデザイン系のコンテストで好成績を残したことからネットで調べるだけで所属も知れた。
楓人達は直接には会っていないが、直接カタを付ける為に来たのだ。
明璃も連れて行こうか迷ったのだが、彼女は建物も違うのでわざわざ来て貰わなくても楓人とカンナがいれば十分だと判断した。
訪ねる相手は以前に明璃や燐花が鉄壁の防御に苦しんだ男。
スカーレット・フォースの
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