第80話:パートナーⅡ
水族館を出ると二人はスカイタワーを登ることにした。
ここにも蒼葉市特有の色々な施設が入っていることもあり、折角なので展望台に行ってみようということになった。
「水族館はもう良かったのか?すげー気に入ってたみたいだけど」
「うん、良ければまた来たいな。色んな魚が見られたし」
「まあ、また一緒に行くか。俺も結構楽しかったからな」
こうしてドツボに嵌っていくのだとわかりつつもカンナにそう言った。
カンナとは二人で行動することもあったが、どこまでがデートなのかの境界を意識しながらも曖昧にしてきたのだ。
それは当然、褒められた行いでないことは理解している。
だが、今の楓人がカンナとの関係を考えるには過去を清算する必要があった。
人間でありながら
今の過去を引きずったままでは絶対に答えを出せないことだった。
また、それが大災害が楓人に残した呪いとも言える爪痕だったのだ。
「この上って展望台以外に何があるの?」
エスカレーターで上に運ばれながらカンナが訊ねる。
周囲の風景が空に向かって近付く光景はここでしか味わえない趣きがある。
「飯を食う場所とか土産屋が多い。カフェも大体はこっちだな」
「楓人、ざっくり調べた感じの割には詳しいね」
「・・・・・・こういう時だけ鋭いな」
「さりげなく舌打ちされた気がするけど、もしかして・・・・・・私が楽しめるようにって調べてくれたの?」
ようやく、いつもからかわれる意趣返しとばかりに上機嫌で笑うカンナ。
何となく内面を見透かされている、にやにやと擬音が表示されそうな笑みを楓人は気まずそうに受けていた。
だが、癪なことに彼女の言う通りなのは事実だった。
少しでも楽しんで欲しくて、笑顔を見ていたくて大して記憶もしていなかったスカイタワーを何度も調べた。
そもそも、行き先がスカイタワーでいいのかを決めるのにも時間を要したし、楓人なりにカンナの普段の働きに報いたい気持ちもあった。
「そうだよ。お前とのデートの為に俺なりに色々と考えたんだ」
照れ臭い気持ちを我慢し、冷静さを装って答える。
こうして正面から恥ずかしい言葉を叩き返せば、照れてカンナは引き下がる。
照れ屋の彼女に対する攻略法のようなものだった。
「・・・・・・ありがとう。すっごく嬉しい。私、幸せ過ぎてどうにかなっちゃいそう」
エスカレーターを登る時に放していた手を照れながらも今度はカンナの方から握ってきた。 今度は指と指を絡めて、しっかりと握り直してくる。
顔が真っ赤になって俯いた彼女の精一杯の勇気だと気づかないはずがなく、楓人はそれを受け入れて少しだけ手に力を込めた。
「お土産屋さん寄っていい?ちょっと見てみたくて」
「ああ、行きたい所があれば言ってくれ。デートプランなんてある程度は臨機応変にやるもんだ」
展望台の途中には色々な蒼葉市ゆかりのお菓子やキーホルダー等が売っている売店があった。どちらにせよ、ここには寄ろうと思っていたので丁度良かった。
そういえばカンナも蒼葉市という場所がどういう街なのかを肌で感じてはいても、客観的に見たことはあるまい。
展望台の上に資料館があったのをふと思い出して、後で連れて行ってやろうと思い立つ。
「楓人、このキャラクターって蒼葉市公式の子なの?」
「公式の子だな。名前はあおばくんだ」
葉っぱに蒼葉市の産物である梨の頭がくっついたような珍妙なキャラクターのキーホルダーが店先に置かれている。
昔から存在はしたのだが、蒼葉市が復興で脚光を浴びたことで表に出て来たゆるキャラだった。
「だいぶ、ストレートな名前だよね。あおばくんって」
「蒼葉市の名前を広げる目的でゴリ押しされ始めたからな。元は違う名前だったらしいが、覚えて貰えるように改名させられたそうだ」
「ゆるキャラにも色々あるんだね・・・・・・私も名前は貰ったものだし、何か親近感が湧いちゃうなぁ」
「懐かしいな、あの時は全力で考えたよ」
何を隠そう雲雀カンナという名前を彼女が持ったのも楓人によるものだった。
他の色もあるらしいが、庭で咲いていて印象に残っていた黄色の綺麗な花の名前を彼女に付けた。
母親から聞いた話だと黄色のカンナの花言葉は永遠といった意味があるそうだ。
雲雀の部分は、彼女の中で何故か印象深かった言葉を選んだ。
「何かの縁だし、買っていこうかな。何か可愛く見えてきちゃった」
カンナはあっさりと情に絆されて、あおばくんキーホルダーを購入した。
別にカンナの趣味にとやかく言う気はないし、彼女に支給している多めの小遣いの使い道は好きにすればいい。
パートナーが店を巡って、あおばくんをレジに持っていくわずかな隙に楓人は隣の店舗へ滑り込む。
少しばかり、この記念品売り場で買いたいものがあった。
「あれ、楓人どこ行ってたの?」
買い物を終えて外で待っていたカンナと再び合流する。
楓人は手に持っていた小さな紙袋を彼女へ向けて差し出した。
今まではあまり欲のないカンナにはプレゼントというものをしてやる機会もなかったのだ。
せめて、本当の意味で初デートの時くらいは何かプレゼントをしてやろうと思って、今いるフロアに寄る計画は最初から練っていた。
「・・・・・・開けていいの?」
「ああ、カンナへのプレゼントだと思ってくれ。センスなかったら泣いて寝込む」
「私は楓人がくれるものなら何でも嬉しいから大丈夫っ!!」
笑顔でフォローしながらも袋を開けるカンナの瞳が嬉しそうに輝くのを見て、楓人は照れ臭さ半分嬉しい半分で頬を掻いた。
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