第75話:新たな謎


『あの人らしいな。ここじゃ飯は食えてるし、プログラムやら研究やらを受けさせられるが、真面目にやってる分には居心地も悪くない』


 どうやら以前に確認した通りに収監されているようで、モルモットのように扱われていたりもしないのなら一安心だ。

 以前に聞いたことだが、暴れる収監者に関しては濃度を調整した鎮静剤を遠隔で打てる腕輪状の装備を着けさせているらしい。

 無理に外そうとすれば一瞬で鎮静剤が全身に回って、そんな力はなくなる。

 変異者は能力も身体能力もあれど、所詮は人間に過ぎないということだ。


「そうですか、何よりです。それよりもあなたにお聞きしたいことですが・・・・・・スカーレット・フォースというコミュニティーを知っていますか?」


『ああ、あるよ。ただ、直接会ったことはない。噂を聞いただけだよ』


「噂とは・・・・・・?」


『最近になって活動を始めたコミュニティーで、平和を目指してるとか言ってるらしい。リーダーは大災害のずっと前から変異者だった奴だとか―――』


「リーダーの素性は知っていますか?」


 大災害で変異者は急増した以前から変異者が存在した話は管理局より耳にしており、変異者達の間では知られていない情報だ。

 そのずっと前となれば、最初の変異者だった可能性だってある。


「いや、知らん。そういう噂が流れてるってだけだ。俺もそこまで顔は広くないんでね」


 スカーレット・フォースのことはこれ以上は情報を得られそうにないようだが、それ以外にもこの男には聞きたいことはある。

 まずは、渡から得た情報を含めて学校で交戦した時の状況を整理しよう。


 ちなみに蒼葉市の複数の学校で下駄箱鎌の噂を流したのは渡ではなく、学校内にで変異者が何かを企んでいると匿名で情報が来たから人員を送ったに過ぎない。


 渡は噂が流れる数か所を選んで、リスクを減らす為にも窃盗等に手を染めた変異者を選んで雇い、定期的に学校を変えながら現地に張り込ませた。

 梶浦は一度だけ殺人を犯した口で、まともに話が出来ているのが不思議だが。


 つまりは配備された梶浦の噂を律儀に広めて、楓人達を釣った人間がいるのだ。


 誰が、何の為に流した噂なのかを渡が知らなかった以上は、雇われの身の梶浦が知るはずもない。

 それ以上にこの男に確認しておかなければならない最後の要素がある。


「それではもう一つ。あなたは蒼葉北高校で変異者に制圧された。その日に、銀色の具現器アバターを纏った男と手を組んでいましたね?」


 あの日の学校には白銀の糸が張られており、明らかに梶浦はその糸を避ければ辿り着く場所に陣取っていた。

 二人の変異者がいると直感したものの、二人がどこまで連携を取っていたのかまでは判明しなかったのだ。


『手を組んではいない。ただ、あいつに糸が切れたら、倒す相手が近付いた証拠だって言われてさ。黙ってここにいれば手を貸してやるって条件だし、あいつは勝てる相手じゃないから従うしかなかったのさ』


 白銀の騎士はどうやら、この男をけしかけて何かを企んでいたようだ。

 楓人達が学校を巡っていたのが察知されたのは話し声を拾われたのではなく、目立たない所に配置された糸のせいだった。


 だが、妙なのは白銀の騎士はなぜあそこにいたのかだ。


 エンプレス・ロアの巡回か噂を知って張り込んでいなければ到底あの日に姿を現すことは出来ないだろう。

 そもそも首を飛ばす都市伝説を流したのが白銀の騎士だとすれば説明がつかなくはないが、何か釈然としないものがある。

 どちらにせよ、この男から得られる情報はこれくらいのものか。


「ご協力ありがとうございます、とても有意義でした。また、何かあれば教えてください。協力して貰えれば、ここから出るのが早まるように便宜は図ります」


『ああ、頼んだぜ。あまり外の人間と話す機会もなかったからな。気晴らしにはなった』


「ああ、もう一つだけ。スカーレット・フォースが勧誘しそうなフリーの変異者が集まる場所を知りませんか?」


『ネットの裏掲示板にあるのは見たことがある。後は・・・・・・レギオン・レイドの賭博場だな』


 それを聞き出すと楓人は再び礼を言って、牢の中との会話を終えてタブレットを遼一に差し出した。

 管理局や大人の連中と話す機会が多かったからか、子供だと侮られることもなく大人として上手く話は出来たとは思う。

 傍で遼一が牽制するかのように控えており、会話に何か妙な点はないかを監視する役目だったようだ。


「もういいのか・・・・・・?」


「ああ、これから予定もあるからな」


「送って行こう。蒼葉北駅でいいのか?」


「それでいいから頼む」


 言葉少なく再び帰りの車に乗り込むと会話のないままで移動を開始した。

 親子として元から会話が多い方でもなく、二人の間にある溝はまだ埋まったわけではないので当然か。

 再び駅のロータリーに車を付けると遼一は口を開く。


「こちらでも烏間については調べている。何かあれば連絡する」


「・・・・・・ああ、今度はカフェにも寄って行けよ。コーヒーくらいは出す」


実の親にコーヒーの一杯も出さないのでは、亡き母に叱られてしまう。


「・・・・・・変わったな、楓人。仲間を大切にな」


「言われなくてもそうするさ」


 親子としての時間は終わり、車が走り去っていくのを楓人は見送った。

 少しでも楓人も変わっているのだろうかと息を吐いて、ようやくカンナとの待ち合わせ場所へと歩き出した。

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