第50話:ある都市伝説の真相
蓋を開けてみれば、話はあっけない程に簡単だった。
体温を持った幽霊など存在するのかもしれないが、先に幽霊ではないと疑った方が早いだろう。
トンネルの暗い所でしか悪戯が出来なかったのは、光を浴びれば普通の人間の姿を見られるからだ。
そして、なぜ同時に離れた場所の人間を触ることができたのか。
そのカラクリも都市伝説や幽霊の噂という感情を揺さぶるフィルターを取り除けば誰でもわかる陳腐なものだ。
無論、そこを恐怖に捕らわれずに最初に確信した光はさすがは最年長の風格と言うべきだが。
鬼ごっこで例えるのなら、そう。
―――鬼は二人いるというだけの話。
「ウチのメンバー怖がらせてくれたな、悪ガキ共」
ごく普通の都会にもいそうな男女の子供が気まずそうに照らし出されていた。
年齢は小学生の高学年は行っていないはずで、恐らくはこんな悪戯に手を染めた理由は一つ。
“共働きの夫婦が多い”と昼に料亭で出会った男達は零していたし、子供が遊びに来るのに今日はいないと駄菓子屋の店主も言っていた。
「とりあえず、トンネル出ようぜ。安心しろ、別に虐めたりしないから。事情を聞いたら帰すよ」
「うむ、先程の公園でいいだろう」
「はぁ・・・・・・もう、人騒がせね」
まずは子供達を安心させるべく声を掛け、再び駄菓子屋前の公園に戻ってきた。
さすがに一言は物申したかっただろう、気だるげな燐花の発言に子供達はおそるおそる顔を見わせた。
囲んでは怖がらせるだろうと少し離れた場所にいる柳太郎や光や燐花は、子供達を怯えさせないよう自主的に控える。
相手に警戒心を抱かせないカンナにここは任せることにした。
「話だけ聞かせてくれないかな?別に私達は二人に意地悪しようなんて全然思ってないから」
駄菓子屋の裏に戻ってきたのは、子供達が警戒心を少しでも解くようにという光なりの配慮だろう。
「二人が怪我したら危ないから、話を聞いているだけよ。本当のことを話してくれれば、そこのお兄さん達も絶対に怒らないわ」
アメ担当その二の椿希も極力優し気な口調を心掛けて説得にかかる。
子供達にはとにかく怯えさせないことが一番だ。
子供達二人の表情は決して純粋な悪意で今回のような観光客を狙い撃った悪戯はしないと思わせるものだった。
それに、大体こういう悪いとわかっていても悪戯を仕掛ける時は相場が決まっているのだ。
「・・・・・・お前ら、ご両親は出掛けてるのか?ああ、言いつける気なんかないからな」
「・・・・・・うん。お仕事だって」
男の子の方がようやく重い口を開いた。
カンナと椿希も楓人に何か考えがあるのかと一旦、話す役割を譲ってくれた。
「そうか、飯とかはちゃんと食ってるのか?」
「食べて、ます・・・・・・ご飯おいていってくれるから」
今度は女の子が口を開いて楓人は一つ頷いた。
事情は人の生き死にに関わるほど重くもないし、共働きの両親を持つ子供の悪戯に過ぎないとはわかっている。
だが、なぜか過去の自分と重ねて思い出してしまう。
あの大災害の日から、しばらく楓人は学校に行っていなかった。
今は管理局に務める父親と火から逃げ延びた楓人は火災から逃れた。
母親や近所の知人を亡くした楓人と違い、夏休みで蒼葉市を離れていた椿希一家も難を逃れて普通の家庭を築いている。
火災の時に負った傷もあり、楓人は一年と少しの間は学校に通うこともできなかったのだ。
カンナも今ほどに安定して楓人と会話が出来るほどでもなかったし、まだ彼女に対する信頼関係も不足していた。
・・・・・・だから、単に寂しかったのだ。
父親も仕事で多忙を極め、楓人は家を出るなと言われて時々来るお手伝いさんのような人と話をするだけ。
しかし、当時は大災害が心に残した傷跡を取り繕うことのできなかった楓人はお手伝いさんにも遠慮された。
大災害の直後は時折、意識を失うこともあったので家の近所の公園でこっそり遊んでいたものだ。
その後は椿希や柳太郎も落ち着いて会いに来たり、手紙を送ってきたりしてくれたお陰で今のように普通に話が出来るようになった。
二人は楓人が一つ年上であることを知りつつも普通に接してくれている。
“俺達はお前が一コ上だとか知らないつもりでダチやるからな”と一見すると冷たく思える宣言をした柳太郎にも本当に救われた。
でも、二人もカンナもいなかった時の寂しい感情だけは覚えている。
人間が一人で出来ることは限られている、という事実は変異者のコミュニティーにも通じる考え方だ。
あの日みたいな思いは二度としたくないから黒の騎士として強くなった。
それでも、一人では届かないからエンプレス・ロアを創った。
―――だが、その根幹には一人にはなりたくないという願いがある。
寂しい思いはしたくない、そんな願いに事情の重さの違いは大いにあれど楓人は弱かった。
故に子供達の表情に浮かんだ寂しさを見て、怒る気にはなれなかった。
「お前ら、遊びたかったのか・・・・・・?」
だから、楓人は口調を和らげて訊ねることにした。
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