第38話:終戦
「それにしても・・・・・・どうすんだよ、これ」
今は使っていないようだが、戦っていた駐車場はめちゃくちゃだ。
地面に杭は突き刺さっているし、地面は抉れ放題なので次に訪れた人間は仰天するだろう。
「少し戻しておきましょう」
真面目な彼女は全てとは行かなくても杭を元の場所に戻すのを見ると、遠隔操作で勝手に戻っていくので便利そうだった。
ケイの能力は非常に汎用性が高く、爆発の残弾に限りがあったせいで今回は相性が良かった。
もしも楓人以外が相手であれば、相当な力を発揮できるはずだ。
「あんた、俺に負けたら処罰とかされないよな?」
「我々のリーダーはそんなことはしません。あなたはするのですか?」
「するわけないだろ。もし、処罰されるなら何か手を考えようと思ってな」
「・・・・・・本当にあなたは普通ですね。ここまで能天気な変異者は初めて見ました」
ケイはくすりと笑うと楓人を一瞥し、修復作業を続ける。
「能天気なわけじゃないけど、うちはオンオフはっきりしてるからな」
「・・・・・・そのようですね」
「そもそも、こうして戦ってることが普通じゃない。だから、俺達でも普通に生きられるようにしたいわけ。変異者だろうと普通のままでいいんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
懸命の説得に何か感じるものがあったのか黙り込むケイ。
変異者になれば戦いに巻き込まれる危険性があるのは、変異者として覚醒した時から理解できる。
普通じゃない世界が普通なのだと受け入れる人間がほとんどだ。
人間の多くは取り巻く環境に逆らうことなく生きているのだから。
「普通に年食って普通に死にたいだろ。何かおかしいか?」
「いえ、おかしくないのがおかしいと言いますか・・・・・・」
「何だ、そりゃ。まあ、言いたいことはわかるけどな」
一戦交えた後とは思えない程に穏やかかつ友好的な雰囲気で会話が続く。
ケイの人柄は理解できたつもりだし、レギオン・レイドも全く話がわからない組織ではなさそうだ。
だが、ここからは少し勝者の特権を使わせて貰うとしよう。
「それでちょっと言うこと聞いてくれ。俺が勝ったし少しは要求してもいいだろ」
「意外といい性格してますね、あなたも」
「そっちのリーダーと話をさせて欲しいんだ。別に直接じゃなくてもいい。ついでに連絡先をくれ」
「・・・・・・今何してる?とかメッセージを送って来ないのであれば」
「どんな偏見だよ。コミュニティーと連絡取る用の番号があるんだろ?俺のもやるからさ」
どうやら過去にトラウマがあったのか、やたらと警戒した末にしぶしぶ携帯の番号を書いたメモを取り出すケイ。
こういった形でレギオン・レイドと繋がりを持ったことは大きい。
もしも、リーダーがまともな人間であるのなら考えたいこともあった。
お互いに無事に連絡先を交換するが、どちらも自分に直接繋がる個人の携帯番号やアドレスなど渡すはずがない。
すぐに“今、何してる?”とメッセージを送っておく。
さっきから、くだけた様子で接しているのは、連絡先を教えても大丈夫だという流れに持ち込む打算も少しだけあった。
ちなみにこのメッセージは番号が本当かを確かめる為だ。
「・・・・・・本当に変な人ですね」
恨めし気に睨まれたので笑うが、アスタロトの装甲で見えないだろう。
さて、これを機にエンプレス・ロアは次の段階に行けるかもしれない。
恐らくはレギオン・レイドも一緒で、こちらを利用しようとしているはずだ。
単純にエンプレス・ロアを信頼して仕事を頼んできたとは到底思えないし、最悪の場合はいずれ黒の騎士を潰そうと考えているかもしれないのだ。
だから、まずはリーダーと話さないことには何も進まない。
―――結局、楓人はケイを無事に返してやった。
表に出ると怜司と拘束された尖兵達がいたので解放してやる。
今は関係を損なうような行動は避けるべきで、敵の戦力を単純に削ればいいというものでもない。
後はさっきの番号に向こうのリーダーから連絡があれば成功だ。
「一先ずは順調ですかね」
「ああ、これできっかけは出来たからな」
どこかで勢力を拡大したいとは考えており、向こうから接してきたのは僥倖だ。
白銀の騎士に関しても考えねばならないし、まずは一旦ミーティングをしよう。
「さて、帰るぞ。あいつらにも伝えといてくれ。尾行は警戒しろよ」
「はい、了解しました」
そして、一通りの連絡は怜司に任せて楓人は一足先に戻ることにした。
楓人が撤退する時には他のメンバーよりも気を遣う。
尾行の警戒は元より、アスタロトをカンナに戻す瞬間を見られるわけにはいかないからだ。
かくして、今宵の戦いは終わる。
今後への大きな布石が打たれた夜でもあった。
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