うちの娘が一番強くて可愛いの!~魔導人形技師ユフィールの愛情溢るる日常~

灯色ひろ

第1章

どうしてこうなってしまったのでしょう


「ど、どうしてこうなってしまったのでしょう……」


 困ってしまいました。

 ぐるりと見渡せば、コロシアムの会場は超満員。たくさんの人たちが私たちに注目しています。

 元々は『ルックス部門』のコンテストに参加するはずでしたが、なぜ『バトル部門』に参加することになってしまったのか、まだ少し混乱しています。それも特別なエキシビジョン戦です。何より私は、『ニナ』を戦わせることなんてしたくありません。


 だから、思いきって向かいの方に声を掛けてみました。


「あのぅ、すみません。やっぱり、バトルはやめられませんか? ドールたちが傷つくところは、見たくないんです」


 すると、大きなお腹のボーマンさんは、眉をひそめてこう答えました。


「――ふざけるなァ!」


 そのまま彼はドン、と思いきりコロシアム会場の床を踏んで、私は「ひゃっ」と一瞬だけ目を閉じてしまいました。

 ボーマンさんは鼻息を荒らげながら私の方を指差します。


「そ、そもそも先に挑発してきたのは君の方だろう! 歴史ある我が『ボーマンカンパニー』の『魔導人形マナドール』を貶すような発言をして! 社を束ねる者として許せん行為だ!」

「え? そ、そんな発言をした覚えはありませんよ? だって私は、ボーマンカンパニーのドールたちも大好きですから。その子もとっても素敵なドールですね! 素体ボディの新しいコーティングも、カンパニーの新製品である装備も興味深いです!」


 彼の後ろに控えるドール。この子もまた綺麗で可愛らしい子です。とっても手間が掛かっていることがここからでもよくわかります。ふふっ、一体どんなカスタマイズが施されているのか、じっくりチェックしてみたいです!


 そんなちょっぴり興奮した私を見て、ボーマンさんはなぜだか「ぐぬぬ」と苦々しい表情をしています。


「ど、どこまでも人をおちょくりおって……これだから田舎者の小娘は! フンッ、『ボーマンカンパニー』のドールの力、見せつけてやる! さっさと試合を始めるぞ!」

「そ、そんなっ、ボーマンさんっ」


 終始怒った様子のボーマンさんは、のっしのっしとドールの方へ歩いていってしまいます。部下の方が数名、慌てて付き添っていました。

 審判の方に下がるように言われ、私も戸惑いながら『ニナ』の元へ戻ります。バトル前の最終メンテナンス時間が始まってしまいました。本来は、この時間に戦うドールの『プログラム』をして備えなければなりませんが、私には出来ないことです。


「ごめんね、ニナ。止められなかったみたい……どうしよう……」


『…………』


 立ち尽くすニナの頬に触れても、彼女は目を閉じたまま何も答えてはくれません。当然です。ニナはまだ未完成のドール。答えられるはずもないのです。


 ニナ。それは私のドール。

 私よりも小さな体躯は子どものようですが、ドールですから、その実かなりの体重があります。

 銀色の艶やかな髪と、透きとおるように白く滑らかな肌は自慢です。今はまぶたを閉じていますが、瞳の素材もとってもお気に入りのものを使いました。

 また、ニナのために一から手作りしたドレスには、とびきり気合いを入れています。基本の素体と『魔導核ハート』のパーツだけはお祖母ちゃんから譲り受けたものなのですが、それ以外のすべては、私が十年をかけてカスタマイズしてきたものです。


 世界で一番可愛い私のドール。大切な大切なパートナー。まるで子どものように愛おしい存在です。

 そんなニナを、大衆の面前で戦わせることになってしまうなんて……どうしてこうなってしまったのでしょうか。

 ああ、今からでも止める方法はないでしょうか――!

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