第12話 王城
「おっと、気づかれていたトハ。まあいいですケド」
表立ってこの国を守っていたのはレイウスだ。だが、その裏で権力をものにしていた人がいる。
ミュルドーだ。
「あなたがセスナをこの城に誘ったのでしょう?自分よりも魔力を持った人間を敵にしたくはなかったはずです」
「勘はイイ、だが少し違うカナ。ワタシは、彼女の力を吸収したカッタ」
「吸収?もしや……」
「そうデス。ワタシの魔力は大地からではナク、他のヒトの力を吸収して使っていたのですカラ」
おそらく禁呪の部類だ。魔法を使われれば使われるほど吸収して強くなっていく。おそらく、ミュルドー自身も相当の魔力量持ちで付き人妖精がいたのだろう。そして、その付き人妖精は。
_________喰われた。
こいつはすでに人間でもなんでもない。ただの魔力を欲する化物だ。
魔法が効かないなら、物理攻撃を仕掛けるしかない。ケルアはナイフを持つ。
「物騒でスネ。そんな物を持ってどうしようというのでスカ?」
「うぁぁぁぁぁ!!!!!」
駄目だ。簡単に払いのけられる。魔力でこいつの肉体も強化されていることだ。そうやすやすとはいかない事はわかっている。
「斬撃程度でも大丈夫そうでスネ」
魔法を使えば、確実にミュルドーに吸い取られてしまう。魔法の壁すら出すことが許されない。ならば……。
「切波斬撃(ウィンブロウ)」
今だ。今しかない。
僕はナイフの切っ先をミュルドーに突き立てた。確かに、その一撃は確実にミュルドーを狙えた。
同時に、僕は真正面から斬撃を喰らってしまう。血が飛び散ったのも分かる。痛い。熱い。
でも、一撃だけでも攻撃を入れてやった。ミュルドーの断末魔がきこえる。
遠くへ、とおくへ……………。
ミュルドーに刺さったナイフは内側からミュルドーの魔力を開放していった。魔力はすぐに力のある方へ向かってゆく。セスナの方だ。
ミュルドーは完全に魔力を失う。そして、魔力と同時に彼自身も一瞬で消えていった。ナイフだけを残して。
「セスナさん、ケルアの力が弱くなっていっています。おそらく、かなりの深手をを負ったのでしょう」
セスナは付き人の大精霊からそれを聞いたとたん、回れ右をしてケルアの方へ向かった。
「ひどいですね……、出ている血の量が尋常じゃないですよ……」
「そうね。でも、きっとこれを助けられなかったら彼の言っていた世界を救うことだって無理よ。とりあえず、回復魔法を使ってみるわ」
セスナは深呼吸をして目を閉じる。そして、ケルアの方に意識を向けた。
「黄金の神癒」
それは、回復魔法の最強位。金の糸が彼の傷口を塞ぎ、彼に魔力を与えた。そして、彼はゆっくりと目を開ける。
「あぁ、セスナさんが助けてくれたのか」
「あなたにはお礼をしなくちゃいけないし、これでも看護師だったんだから大怪我をしている人を見て見ぬふりなんてできないわよ」
ああ、そういうことか。彼女が人を殺すことに関して拒絶していたのは恐怖ではなく、彼女自身の正義だったのだ。実際、こうやって人を助けた後の彼女はどこか誇らしげに見える。
「ケルアさん、立てますか?」
「むしろ楽になったくらいですね」
「なら、こんなところで立ち止まっている暇はないわ。さっきから森の方がおかしいの」
私は何かを勘違いしていたのであろうか。彼女は私が思うよりもずっと強かったんだ。
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