第8話 最鋭者
「ぐぁ、ゲホッグホッ」
リハルドは確かに水に飲み込まれた。しかし、仮にも精鋭クラス。かなりのダメージを負ったものの、濁流からは逃げ出すことに成功していた。だが……。
「はぁ。まさかこんなところで出会うとは思いませんでしたが、リハルドさん?」
「お、まえは……最鋭レイウス・メキドニア!?」
「左様にも。ただ、それ以上のことは何もいいませんし、何も聞きません。それでは」
レイウスはそれだけ言うと、茂みへと姿を消した。そこには、すでに剣で体を貫かれたリハルドしかいなかったのだ。
「こう見ると、本当に塔だったんだなと思うよな」
ケミンズは洪水によって周りの砂が削られた七星の塔を見ながら言う。
「とりあえず逃げたほうが良さそうだね。ケミンズは羽、大丈夫?」
「ああ、もらった回復薬のおかげでだいぶな。まあ、全速力でもついていくのが精一杯かもしれないが」
「見つからないうちに早く逃げようか」
と、僕が言った瞬間だった。七星の塔のてっぺんのオブジェにはまっている黄色い宝玉が砕け散った。
「宝玉が、砕けた!?」
ケミンズが言うと、すぐに答えが帰ってきた。
「そうですね、おそらくあの宝玉の主が、力を失ったと考えられるではないでしょうか?」
「誰だ!?」「誰です!?」
ケルアとケミンズが一斉に振り向くと、そこには白いマントをした剣士の男がいる。
近くに何らかの気配があれば僕が気づかないはずはない。それなのに、彼は確かに自分たちの後ろに来るまで全く気配を感じなかった。まさか……
「魔力を保持していない?」
有り得ない。魔法を使えない人だって多少の魔力を保持しているはずだ。だが、この男は全くもって魔力を感じない。どうしてだろうと、隣を見てみる。
ケミンズは、なんだか様子が変だ。
「質問に答える前に、自己紹介を。私はレイウス・メキドニア。王国軍で剣士を使えています」
「最強の剣士、じゃないのか?最鋭レイウス」
「今は、ですけどね。聞くところによればレジスタンス軍には、えげつない速さで成長している剣士がいるらしいですよ」
「英雄クラスなのか?」
「私にはそれ以上のことはわからないのです。なにせ、私にはそういった魔法はおろか、魔力すら保持していませんので」
「それで、そんな情報を私達に教えてどうするつもりなんだ?」
「私もここらを通りがかっただけなんですがね。大洪水の上流へ来たところあなた達を見かけたのですよ」
真意はどうか。彼に魔力がないので僕にはわからない。だが、一つだけ言えるとするならば。
今は最鋭クラスに手を出さない方が良い、ということだ。
幸いにも彼も戦おうとはしていない。撤退のときだ。
「すまないが、ここらで撤退するよ。ケミンズ」
ケルアが言うと、ケミンズもうなずく。
「そうですか。それでは、私はレジスタンスの動向を確認だけしておきますかね」
「次会うときは、敵でないことを祈る」
「そうですね。戦争が終わっていればなお良いのですけどね」
それを聞くと、ケルアとケミンズは森へと戻っていった。レイウスは、少し微笑んでいるようにも見えた。
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