第7話 リハルド
敵の本部はだだっ広い砂漠の中にあるらしい。とはいえ、むしろこの遮るものがない砂漠は都合のいい戦場になる。今は空中部隊は出てなさそうだった。
こうやって飛んでいると、地上では凄惨なことになっていても空中はとても静かな感じがする。
当然、警戒しつつ飛ばなければならないとはいえ地上に比べればだいぶ安全だ。
「というか、精霊族も空って飛べるんだな」
「精霊族でも水使いとか火を使う精霊は飛べないのですけどね」
ケルアにはもともと風魔法が使えるため、空が飛べる魔法が使えるだけである。地上を通るよりも空を飛んだほうが良い、というケミンズの判断だ。
龍族も空を飛べるのは知っていたが、基本的に移動は空を飛ぶのがスタンダードらしく、思ったよりもスピードが早い。魔力切れの心配がないのでこちらの方が空を飛ぶという意味では優れていそうだ。
「それにしてもリハルドか。かなりの魔法の使い手と言われているけど大丈夫なのか?」
「魔法の使い手というだけなら精霊族のほうが上手です。ただ、精鋭者だとそれ以外の能力もだいぶ高いと思いますが……」
リハルドの実力が分からないので憶測の域を出ない。だが、今ここで戦わなければ森を守るのが格段に難しくなることだけはよく分かる。
「そろそろ見えると思うんだが……、あったぞ。レジスタンスの本部、七星の塔が」
そういってケミンズが指さした先の建物。それは、塔というよりも巨大なオブジェだった。
地球儀のような白い球体と、ささえの部分にはめ込まれた七色の宝玉。宝玉は太陽の光を受けて怪しいほどに光っている。正直趣味が悪い。
「七星の塔は地上から見ると塔ではないように見えるが、地中奥深くまで伸びていてれっきとした塔なのだそうだ。下階層にいけば行くほど危険になる」
話によればこの塔を作った七精鋭の一人、ディアモルドは大地の力で、塔を作ってから周りの地形を無理やり砂で盛り上げたらしい。そんなレベルの人間がこの塔の中に七人もいるとなるとだいぶ危険な場所に来てしまったなと実感する。まあ、後に引く気はないが。
「それで、リハルドはどこにいるのでしょう?この塔に入るのは正直無理だと思いますが」
「いや、多少強引だけど、リハルドを呼び出すにはこれが一番手っ取り早いだろうよ」
ケミンズはそう言うと、七色の宝玉のうち、黄色く光る宝玉に向かって強烈なパンチを与える。
ささえの部分が多少揺れたものの、宝玉に目立った傷はできていない。しかし、ケミンズ曰く宝玉の主の方にとっては自分の身を殴られたのと同じことらしい。
地中からこちらの方へ光線が飛んでくると、その光の中からはものすごい光の魔力を持った人間……精鋭リハルドが現れたのだった。
「キミたちかい?手荒な方法でミーを呼んだのは」
表情はこっちを挑発するような薄ら笑いをしているが、内心かなりの憎悪が見える。
「おまえか、リハルドっていう奴は」
「うーん、気性が荒いね。反省しているようだったら見逃してあげてたかもしれないのにね?」
「こっちは見逃さないですけど。この前はえらくドールをいじめてくれましたね」
「ああ、あれねぇ。あんなにカワイイ娘がいたら虐めたくなるに決まってるじゃないか」
「おまえぇ!!」
一番最初に手を出したのは、ケミンズの方だった。その顔は怒りに狂っていたしおそらくドールのことはだいぶ心苦しかったのだろう。
だが、こいつに今手を出すべきではない。
「こんなわかりやすい挑発に引っかかっちゃうなんて、龍族は脳筋なのかね?」
「ガッ!?」
光魔法がゼロ距離でケミンズに降り注ぎ、彼女の体を焼いていく。
魔法耐性がなければ致命傷だっただろう。だが、ケミンズは魔法耐性がある羽を盾のようにしてなんとか防いでいた。
「ミーの技を防いじゃうなんて龍族も恐ろしいね、ただキミの翼はもう盾にはできそうにないけど」
ボロボロだ。あまり強い攻撃には防御力が見込めないわけだからこれでもよくやった方だろう。ケミンズはキッとリハルドを睨みつけたがリハルドは相変わらず薄ら笑いを浮かべている。
「それじゃあ、キミもミーに屈した龍族みたいにミーと戦うんだよね?」
「バカ言えよ」
ケルアにそもそも戦う気なんてない。それに精霊族はもともと争いを好まない種族。平和的解決が一番好ましいが、当然そうならないこともある。じゃあそのときはどうするのか。
__________圧倒的な魔力でねじ伏せるだけである。
「そろそろだな。リハルド、なにか音がしているのがわからないですか?」
「何をいっているの、かい……!?」
ゴゴゴゴゴ。それは地割れのような音。早くそして強く、地面を震わせる。
「ここらへんって、もともと埋め立てしてた土地だったようですよね」
「おいおまえ……」
リハルドの顔はもう生意気な笑いでも怒りですらもない。圧倒的な恐怖だ。
「無理やりな埋め立ては後々大災害を及ぼすって、そちら側に伝えておいてください」
大洪水。行き場を失った水があふれるようにすべてを押し流していく。土砂や様々なものを巻き込んで濁流となった水たちはのたうち回るようにして地形すらも変えていってしまった。
僕はケミンズを抱えて魔法で空中に退避した。
「これがお前らの結末だ」
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