第5話 ドール
神官の少女の名はアリミアといった。彼女は必死に涙を抑え、凛々しい顔でレリィたちとともに精霊の集落へと歩いていった。
レリィも、こちらへは心配そうな顔を向けず、一言「頑張って!」とだけ言ってアリミアとカミールを連れて行く。カミールは状況を知ってか知らずか、笑顔でケルアを元気づけてくれた。
寂しいけど、嬉しい。不思議な感情を押さえ込みながら、僕は精霊の集落へ歩く彼女たちを見守っていた。
「さてと、そろそろ本気でこの森を守ろうか」
ケミンズが言う。それは、彼女なりの元気づけなのだろうな、と思いながら僕はコクリと頷いたのだった。
王国軍対レジスタンスの戦争は今や都市部だけにとどまらず、農村地帯にも影響を及ぼしています。
さらに、時間がたつに連れて戦いで強くなった魔法使いがさらに強力な魔法を使い始めます。時間が経つにつれて戦争が激化していくのはこれが原因と言っても過言ではありません。
戦いが進めば進むほど、魔法使いや剣士の腕は上達していき、稀に「英雄」クラスまで上り詰めるものもいます。
「英雄」という称号を持った者は端的に言えばとてつもなく強く、その力は魔法使いで街を一つ消し飛ばせるほど、剣士だとその斬撃で地面をえぐることも出来るといい、いわゆるその道の「
今までの戦いでは「英雄」クラスが現れると甚大な被害が出る前に敵は降伏せざるを得ませんでした。
「それで、ケミンズには何か策はあったりするのか?」
「この森を守ることが前提条件になるが、レジスタンスが新しく基地を作ることにするそうだ。それでその基地が、このあたりの予定となっている」
と言ってケミンズが指さしたのは森のすぐ手前、少し開けたところにある草原の辺りだ。
「この基地を使えなくしておきたいよな、この場所にあると森が戦火に飲み込まれるのは明確だ」
たしかに、この場所にあればとんでもなく厄介なことになりそうなことは目に見えている。しかし、この場所にある基地を下手に触れば、レジスタンスがさらに暴走しかねないのではないか?
「それなんだが……」
自分の思っていたことを伝えるとケミンズはうーんと唸ってしまう。確かに、どの程度までなら手を出しても良いのかというのは正直言って境界線がわからない。
「なら、基地に関しては少し脅しておく必要がありそうですね。この手紙を無視して侵略すれば危険だということがわかるくらいに」
ケルアはそう言うと、紙を用意してそこに内容を書き連ねていく。
森の近くで基地を作るのをやめていただきたい、ここは精霊にとって重要な森である。これを飲んでいただけないようならこちらも対抗するしかない。
というような文をもう少し丁寧にした形で文章をまとめた。
「これをレジスタンス側に受け渡せばいいですね……、じゃあドールにお願いしますか」
「ドールって誰のことだ?」
「ああ、ドールは人形ですよ、精霊族が分身のようにして動く人形を作るんです。ドールは命令という形で作り手の用件に応えてくれるんです」
ははぁ、とケミンズが納得をしているうちに僕はドールを作る。
「ご主人様、ご用件は何でしょうか?」
「え、ドールって喋るのか!?」
「うん、こうやって見ると本当によくできたものだと思いますよね。それで、ドールにはこれをレジスタンス本部の所に持っていってほしいんだ」
「了解しました!ご主人様」
「可愛いものだなー」
ケミンズは表情がすごく和やかになっている。龍族でも可愛いって通じるんだね。
確かに、自分の言ったことを聞いて健気に依頼をこなそうとするドールは確かに可愛いよな。
「ドールが頑張ってるんですから、僕たちも頑張らないわけにはいきませんよね」
だいぶドールに気を奪われているようなのでケミンズに向かって念を押しておいた。
「そうだな……」と少し残念そうな顔をしながらケミンズは机に向かったのだった。
「さて、ちょっと巡回してくるわ」
と言ってケミンズは外に出る。僕は「いってらっしゃい」とだけ言ってケミンズを送り出す。
ドールを使いに送ってから一晩が経過し、とりあえず道中では何も起きていなさそうだ。この間に何もしないのもなんとなく落ち着かないので、外で魔法の練習でもすることにしよう。
魔法の練習と言っても、精霊が使える魔力は当然この森の力を土台にして使えるものだけで、全部の魔法が使えるわけではない。
だが、この森には様々な魔力がある。木、土、水、風などなど使える量に違いはあるものの幅は広い。特に、森には川があるのだが川からは良質な魔力が得られやすい。
なのでまずは水属性の魔法を使うことにした。
「アクア・プリズム」
これは水を壁のようにすることによって物理攻撃を多少軽減することと、光属性魔法の攻撃を捻じ曲げることが出来る魔法だ。使い方次第では光属性攻撃を受け流すことが可能なため割と強い。なお、物理攻撃に関してはおまけ程度のものだ。
ドールのような特殊な魔法以外は一つ一つ魔法を出していくだけなので、しょぼい。
当然魔力量を上げれば攻撃力も上がるのだが、自分の魔法で自分の森を破壊してしまうという事態を避けるためにも確認程度がちょうどいい。
そろそろ練習も終わろうかという時にケミンズが帰ってきた。しかし、いつもと様子がおかしい。何かを抱きかかえて急いで走ってきているようだった。
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