留年!
椿童子
第1話 ヒステリックに叫ぶ妹
「孝之、何よこの成績!」
「もう、放っておいてくれよ!」
「放っておけないから言っているのよ。担任の先生から『これじゃあ留年ですね』、ママ、そう言われたのよ」
昨夜、妹が息子と派手に母子喧嘩をしてしまったらしい。
「ねえ、兄さん。叱って頂戴。大学教授でしょう」
こんなことに「大学教授」も関係ないのですが、妹は何かあると私のところに電話を架けてきます。
「またか…」
「またかは無いでしょう。誰のお陰で大学教授になれたと思ってんのよ」
確かに、私が助教授になれるかどうかの瀬戸際の時、妹の別れた亭主が色々とコネを持っていたので、それを使って各方面に働きかけてくれました。妹はいつもそれを持ち出してきます。
「しょうがねえなあ。じゃあ、こっちに孝之(たかゆき)を寄こせよ」
「兄さん、今度こそ、ガツンと言ってよ」
「落第」、「留年」、公式には「原級留置(げんきゅうりゅうち)」と言うようですが、いづれにしても嫌な響きですな。
留年する理由は、学校をサボった、苦手な科目があった、病気、怪我などで登校できなかった、等々、様々ですが、大学生になれば、「こんなもの、何でもねえや。少しくらいの傷は勲章だ!」と頬を引き攣らせながらも放言してしまうこともできるでしょう。でも、高校生では大変なことですよね。
「青春」、辞書によると、「年が若く、元気な時代。男女ともに心身が十分に発達、成熟する時期」と書いてあります。実にいい言葉です。
この青春真っ盛りの時期に「留年」なんかしたら、いやいや、とんでもないことになってしまいます。
「いくら考えても解らないんだよ!」
こんな経験は誰にでもありますよね。
甥の孝之がどんなことなのか、本人の言い分を聞いてからでないと、妹の言うように「ガツンと」と言われても、そう簡単にはいきません。
昔の有名な作家で、数学が苦手なために府立中学の三年生から四年生に進級出来なかった方がいらっしゃいました。
「校長室に呼ばれ、落第を言い渡された時、カチカチと言う時計の音は今も忘れられません」
後にある講演会でこのように仰られたそうですが、こう言える方は稀です。多くの人は、気持ちを立て直せず、辛い思いをしていることでしょう。
明日の晩、甥の孝之がやってきます。
あいつに会うのも久し振りなので、美味しいスイーツでも用意して、じっくりと話を聞いてあげましょう。
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