第五話 消えた凶器
いったい凶器はどこにいってしまったんだろう。
「もしかして窓から投げ捨ててたりして」
とりあえず思いつくまま言ってみた。
「そんなことしたら、真下の校庭では大騒ぎになってるぞ。二十分休みで大勢の子どもたちが遊んでるんだから、そんな所へ棒が落ちてきたら――ぁがっ!」
右の正拳突きがおじさんのお腹に炸裂する。
マジレスしてどうするんだっつーの。
こっちだって本当にそんなことしたなんて思ってないし。まったくぅ。
でもこの教室にないと言うことは、窓から投げた可能性はあるってことよね。
投げ捨てたんじゃなくて、投げ上げた? ……いや、ひょっとしたら棒が自ら大空へ飛んで行ったのかもしれない。そう、きっと魔法の棒だったんだ。
あの二人はどこかでそれを見つけて――記念室だ。あそこなら飾ってある古いものの中に魔法の棒があってもおかしくないし。
蛍光灯を割ったのだって、振り回していたんじゃなくて、魔法の棒が勝手に暴れだしてそれを二人が止めようとしていたのかも……。
「また、なんか妄想してただろ。ぼぉっとした顔をしてるからすぐに分かるぞ。棒だけに、ぼぉっとした顔、なんてな」
あまりに下らないダジャレだから腹パンする気にさえならない。
「そんなに長い棒をどこから持ってきたのか考えてたの。例えば記念室から持ってきたのかなぁ、って」
だいぶ省略しているけれど嘘じゃぁない。
「あぁ、さっきの記念室か……。なるほど、そうかもしれないな」
え、わたし何かいいこと言ったの? やっぱ魔法の棒――なわけないんだろうけど。
「棒じゃなくて、何か振り回していたんじゃないかな。紐のようなものとか」
隅にある掃除具入れからちり取りとほうきを持ってきたリンちゃんがおじさんに渡す。
「もしそうだとしても、かなり長いものだね」
彼女から受け取ったおじさんが、破片を片付けながら答えた。
「教室の天井高さは三メートル以上と法律で決まってるから、あの照明を割るには背が高いキョースケ君でも百二十センチ以上の長さがあるものじゃないと」
「へぇ、そうなんだ」
「たまたま設計の仕事をしていたことがあるから知ってただけなのよ」
感心しているリンちゃんに理由をバラすと、おじさんがジト目で私を見てきた。でも無視。
それより、長い紐ねぇ……ここにはそれらしいものはないみたい。
あ、もう一つひらめいた。
「先生が黒板を指すのに使ってる伸び縮みする棒は? 高校でも授業で使ってるよ」
あれなら縮めて短くすればポケットにも隠せるんじゃないかな。
「塾だと使ってるのを見たことがあるけれど、小学校ではどうだろう」
おじさんがそう言ってリンちゃんを見ると、彼女は首を横に振った。
あきらめきれず、理科室の中をもう一度探してみる。
「やっぱりそれらしいものはないね」
リンちゃんがため息をついた。
その横でさっきから立ったままあごに手をやっているおじさんの顔を覗き込む。
記念室がどうとか言ってたし、あの表情はきっと――。
「ねぇ、もう見当がついてるんじゃないの?」
「うん、まぁ……」
「えっ、おじぃ分かってるんだ」
そう呼ばれて不服そうな顔を見せたけれど、黙って廊下へ出ていった。
すぐに戻ってくると、納得したように何度かうなずいている。
なんで廊下に行ったんだろう?
隠せるような場所なんてなかったはず。
そこへ階段の捜査を終えた二人が、肩で息をしながら戻ってきた。
「見つからなかったぁ……」
がっかりしている二人へ声を掛ける。
「おじさんには隠し場所が分かったみたいよ」
「ほんと!?」
「おじさん、すごーい」
「それじゃ、謎解きをお願いね。探偵さん」
水飲み場の前にキョースケ君とタケル君も含め、七人が集まった。
男の子たちは、わたしたちが最初に見た時からずっと同じ場所に立っている。
「理科室の照明を割ってしまったのは、メイちゃんたちが見ていた通り、キョースケ君とタケル君だと思う」
「ほらー、絶対そうだもん。二人がやったんだよ」
ナツキちゃんが口をとがらせている。
二人は相変わらず黙ったままだ。
「理科室の中にも、階段にも棒はなかった。長い紐も見つからない。でも割れているんだから、何か使ったはずだよね。メイちゃんたちが見た棒のようなもの、きっとそれを使って割ってしまったんだ」
「だよねー。私たち、ちゃんと見たし」
メイちゃんとナツキちゃんが顔を見合わせた。
「でも、どこにもなかったよ。それに、いつ隠したの?」
「メイちゃんとナツキちゃんが俺たちを呼びに来たわずかな時間で隠したんだよ。それが出来る場所は一つしかない」
わたしの質問におじさんが答える。
「正解の場所を教える前に、ちょっとだけ話を聞いてくれるかな」
「では突然ですが、人が歩いている時、どの辺りを見ているかわかる?」
「えー、何それ。前じゃないの?」
メイちゃんは、当然といった感じで答えた。
「そう、前を見ているよね。
けれど、まっすぐ前ではなくて少し下の方を見てるんだ。
立ち止まっている時でも、
「そうなんだぁ……。言われてみればそうかも」
目の高さに真っ直ぐ腕を伸ばしながら確かめてみた。
「つまり、みんな無意識のうちに下の方を見ているんだ」
「だから?」
リンちゃんの声を聞きながら男の子たちに目をやると、観念したかのように
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