第四話 理科室の惨劇

「今、なんか声が聞こえなかった?」


 リンちゃんがきょろきょろしている。


「誰かが叫んだような声だったけど。どこだろう」


 隣の四年二組の教室を覗いてみても、変わった様子はない。


「何だったんだろう……」


 一組にも行ってみようとしていたところへ、特別教室棟の廊下から走ってくる足音が近づいてきた。


「あっ! 朋華ちゃんっ!」「おじさん、ちょうどよかった」


 息を切らしながら現れたのは、メイちゃんとナツキちゃん。


「大変なの、理科室まで一緒に来て!」



 わたしたちが叫び声を聞いた時にいた四年三組の前からは、特別教室棟へ繋がっている廊下の入り口しか見えない。早く、早くとせかす二人の後に続いてリンちゃんも一緒に三人で急いだ。


「何があったの?」


 向かう途中でメイちゃんに聞いてみる。


「理科室でキョースケたちが電気を割っちゃったの」

「蛍光灯ね。何かぶつけたの?」

「分からない」

「さっきの声はメイちゃん?」

「うん。粉々になった蛍光灯を見て驚いちゃって……」


 ちょっと恥ずかしそうにしている。 


「メイと私は、理科室の前にある水飲み場で水を飲んだ後、おしゃべりしてたの。

 扉の窓から、中でキョースケとタケルが棒みたいのを持って遊んでいるのが見えてたんだけど、そうしたら大きな音がして……」


 ナツキちゃんが詳しく説明してくれた。

 歩いて来たばかりの廊下を左へ曲がると、一番奥にある理科室の前に二人の男の子が立っている。

 あれがキョースケ君とタケル君らしい。



 キョースケ君は四年生としては大柄で、身長は百五十センチ以上ありそうだ。

 一方のタケル君は華奢な感じ。百三十センチもないだろう。


「二人が割っちゃったの?」


 問いかけても無言。

 事件の直後をメイちゃんたち二人に目撃されているのに。

 黙ったままやり過ごすつもりかな。

 ひとまず理科室の中へ入ると、廊下側にある二本一組の蛍光灯が二本とも割れていた。照明器具には蛍光灯の端っこの金具部分だけが残っている。

 白い破片が実験台の上にも散らばっていた。

 もちろん、さっき理科室にいたときにはこんな惨状なんてない。


「床にもガラスが飛び散っているだろうから、近付く時は気をつけて」


 おじさんがみんなに声を掛けながら、辺りを見ている。



 最初に気づいたのはリンちゃんだった。


「棒なんて、ないじゃん」


「えっ、うそぉ!? さっきキョースケが持ってたの見たよ」

「絶対に持ってたよね」


 目撃者二人は強く言い張る。

 もちろんキョースケ君たちは何も持っていない。

 廊下に立って相変わらず黙ったまま、反論もしない。


「何か持ってたのを見たもん」


 まずメイちゃんが実験台の廻りを探し始めた。体をかがめながら、台の下も見ている。

 ガラスの破片はこうして飛び散っているし、そもそもメイちゃんたちが嘘をつく理由はないから、何かで蛍光灯を割ったのは間違いない。

 凶器となった棒はどこにあるんだろう。

 実験テーブルの下にある棚の中を端っこから順番に覗いていく。

 おじさんは先生用の実験台を調べている。

 リンちゃんとナツキちゃんは窓側の戸棚を開けて探していた。

 五人で理科室の中をくまなく探したけれど、棒らしきものはとうとう見つからなかった。


「おかしいっ!」

「どこかに隠したんだ」


 メイちゃん、ナツキちゃんがキョースケ君たちをにらみつける。

 二人が理科室前を離れたのはせいぜい二、三分のはず。

 わたしたち五人が廊下を曲がった時には、すでにキョースケ君とタケル君は理科室前の廊下にいたのが見えた。

 その後もずっと同じ場所に立っていたから、どこかに隠すようなことはしていない。

 もし隠したとしたらメイちゃん・ナツキちゃんがわたしたちを呼びに来た、ほんの数分でやったことになる。そんな短時間で隠せるところなんて……。


「あっ、階段に隠してあるのかも!」


 たしかに、ここより奥にはピンク階段があるだけ。そこへ隠している可能性もないとは言えないけれど、うーん。


「あと五分くらいで二十分休みが終わるから、あまり遅くならないように一度戻っておいで」


 おじさんの声を背中で聞きながら、メイちゃんとナツキちゃんは階段へと駆け出して行った。

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