第二話 懐かしい思い出

 三階には三年生と四年生の教室がある。

 四階に五年生、六年生は二年前に出来た新校舎の二階にいる。

 少子化だとかテレビでは言うけれど、この辺りは子どもがどんどん増えていた。わたしたちの頃は一学年で二クラスだったのに、今は三クラスが当たり前。一年生なんて四クラスもある。

 新校舎はわたしが卒業してから建ったので行ったことがない。

 たしか、一階に図書室が移ったはずだけど。さっき智海ちゃんに聞いておけば良かったな。


 そんなことを考えながら三年生の教室をのぞいたら、振り返ったヒナちゃんと目が合った。お互いに軽く手を振って、彼女は国語の授業にもどる。

 彼女もおじさんが付き添っている登校班の一員で、小柄な体に似合わず姉御肌の面倒見がいい女の子。

 ヒナちゃんは渡辺先生――じゃなかった、太田先生が担任なのね。

 ここへ来たときは大学を出たばかりでちょっと頼りない感じの先生だったけれど、美人だし人気があった。結婚して貫禄が出たみたい。


 おじさんの方はと言うと、前を向いて授業を聞くようにほかの女の子へ小声で注意している。

 教室におじさんが入っていくとテンションの上がる子も多い。特に低学年のクラスだと後ろを向いて手を振ったり、話しかけてくる子もいる。

 親が見に来ているといい所を見せようとシャキッとしたりするのに。おじさんなら怒られる心配がないからかな。

 わたしたちは授業の邪魔にならないように、少しだけ見学させてもらって廊下へ出た。



「あーこれ、わたしもやったよ」


 廊下には『水の博物館』へ行った感想が壁新聞になって貼られていた。


「お台場にあるやつ?」

「そう、社会科見学で行ったの。それを一人一人が壁新聞にまとめたんだよ。ヒナちゃんのもどこかにあるんじゃないかな」

「あ、ソウスケ君のはここにあるよ。ヒナが言う通り、書き方にも彼の真面目な感じが出てるな」

「ヒナちゃんのはこっちにあるよ。いろんな色を使ってとってもカラフル」


 自分のときはどんな風に書いたんだろう。もうすっかり忘れちゃった。

 廊下には、他にも習字とか絵が掲示されている。

 それを見ながら緑階段まで来た。


「どうする、四年生の教室を見る? それとも特別教室棟に行ってみる?」


 ここをまっすぐ行くと四年生の教室、右に曲がると特別教室がある。


「それじゃ、特別教室を案内してもらおうかな」

「オッケー」


 四年経ったくらいじゃ教室の配置は忘れていない。

 おじさんと一緒に特別教室棟へと向かった。



「ここは何の部屋?」


 記念室と書かれた部屋の前でおじさんが立ち止まった。

 中には古い写真や文集とか飾ってある。


「ここはね、この学校と統合された小学校の資料が置いてあるの」


 わたしが住んでいるマンションの近くに、二十年くらい前まで小学校があったらしい。今は老人ホームになっている。正面の壁には紫色の旗が額に入って飾ってあった。


「立派な校旗だなぁ」

「学校の旗って近くで見る機会があまりないけれど、刺しゅうしてあるんだね」

「入学式や卒業式にしか使わないからな」

「使ってたっけ」

「専用の旗棒に通して、斜めに立て掛けてるじゃん。覚えてない?」


 んー……。笑ってごまかす。


「ここは普段から入れるの?」

「ううん、いつもは閉まってたよ。学校公開だから開けてるのかもね」


 地域の人にも開放しているから、この廃校となった小学校へ通っていた人たちだってくるかもしれない。

 ここで当時の資料が見れたらうれしいだろうな、きっと。


 記念室を出て理科室へ向かう。

 この廊下にも絵や表彰状、ポスターが飾られている。


「いつもは特別教室棟こっちまで来ないけれど、梁にもフックをつけて飾ってるんだな」


 おじさんは上の方を見ながら感心してる。


「私が六年の時に来た校長先生が始めたんだよ。この場所は卒業生のものを飾ってあるの」

「へぇ、いいアイデアだね。卒業生が来ても懐かしい思い出に触れられるし」


 そうか、これもさっきの記念室と同じでわたしたちのための展示なんだ。

 そういえば確かこの辺に飾ってあったはずだけど……。


「あった!」

「何?」

「六年生の時にドッジボール大会で優勝したときの賞状だよ」


 毎年秋にやっていたドッジボールの地区大会は四年、五年と準優勝だった。だから最後の六年で優勝したときは超うれしかったんだよね。


「あれは見に行けなかったからなぁ」


 会場の体育館が狭いので、保護者しか観戦できなかったんだっけ。

 おじさん、ぶつぶつ文句を言っていたのを思い出した。

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