霧隠慎太郎 氷の国
近衛源二郎
第1話 新たなる旅立ち
アメリカで、最初の妖魔が現れはしたものの、難なく蹴散らした霧隠慎太郎と仲間達。
世界は、一旦騒然とはなったものの、アメリカの出来事が噂になり、すぐにおさまっていた。
世界は、忍者に過剰な期待を寄せている。
それと同時に、日本とあまり仲良くしていない国々では、気が気ではなかった。
日本と友好関係にない国々にまで忍者軍団が出撃するとは思えないからだった。
その心配を本当にする時が来てしまった。
中国と北朝鮮の境界線に聳える白頭山、標高2、744メートルの活火山で噴火すると甚大な被害が出ると思われる。
その白頭山に妖魔ハルダイオンが降臨したという噂がアジアを中心に、世界を駆け巡った。
白頭山が見える平地に北朝鮮軍が陣取って、対妖魔戦に備えてはいるが、さすがに、人間以外の強大凶悪な怪物が敵となると、いかに勇猛果敢な北朝鮮軍の兵士と云えども、震え上がっていた。
そこに、筋斗雲に乗って、霧隠慎太郎が月山宗幸と風磨小太郎とそれぞれ30人づつの下忍を引き連れて現れた。
日本忍軍の本隊である。
現時点での、世界最強の部隊が助っ人として、やって来たのである。
北朝鮮軍の兵士達は、沸き上がった。
慎太郎は、まず司令官に挨拶しようとした。
北朝鮮軍司令官は、ユン・パオン大将。
北朝鮮陸軍を代表する大将軍である。
ユン大将の前に進み出た慎太郎は、最敬礼のためひざまづいて頭を下げた。
その慎太郎を見てユン大将は、なぜ友好のない自国が助けてもらえるのかを聞かずにいられなかった。
ユン・パオン大将、さすがに超一流の軍人である。
慎太郎の最敬礼に対して、最敬礼をもって、返礼しようとした。
『同じアジアの民族ですから、関係ありませんよ。』
いとも簡単に言ってのける慎太郎。
当然、ユン大将も同じ気持ちではあるが、実際にいとも簡単に動ける環境はない。
国家に所属する軍人は、皆しがらみの中で訓練も戦闘も行う。
その点、慎太郎達、日本忍軍は、日本政府とは、一切の関わりを断ってきた。
従って、どこに出向こうと、相手国さえ良ければ、基本地球上のどこまでも行ける。
それが国の軍隊と慎太郎達の、最大の違い。
もう1つの違い。
それは、慎太郎達は、武器兵器の類いの物は持っていない。
ユン大将は、不思議でならないのだが。
いや、ユン大将のみならず、朝鮮民主主義人民共和国軍の兵士達は、皆、不思議だ。
世界中どこを探しても、武器兵器を持たない軍隊など、あり得ない。
世界では、忍者を、あたかも、魔法使いか何かと勘違いしているふしがあるが。
さすがに妖魔ハルダイオンの前では、武器兵器無しで太刀打ちできるとは思えない。
その時、白頭山が爆発して、ハルダイオンが、そのおどろおどろしい姿を現した。
『総員、全兵器全砲門開け、
標的妖魔ハルダイオン、総攻撃をしかける。
撃て~。』
ユン・パオン大将の命令で、核兵器まで含めた地球上の強力兵器の業火が、妖魔ハルダイオンを包んだ。
しかし、地下のマグマの中から生まれ、その中で生きる妖魔には、通用しない。
核兵器の炎は、マグマより、はるかに高い温度だが、悲しいことに一瞬でしかない。
妖魔ハルダイオンにとっては、核兵器の業火でさえ、お灸程度にしか感じていない。
ユン・パオン大将率いる、地球軍の兵士達に流れる絶望的な雰囲気。
その後ろで、慎太郎が真勤曼陀羅を唱え始めた。
妖魔ハルダイオンによって空一面に広がった雲を突き抜けるような光の束が、ハルダイオンに突き刺さる。
同時に、この世のものとは思えない輝きを放ち始める慎太郎。
忍者達には、もう慣れっこの光景だが、ユン・パオン大将率いる地球の兵士達は、驚愕している。
慎太郎の輝きは、やがて黄金に変化して、その呪文に呼応して、天空の光の束が、ますますの威力でハルダイオンを突き刺すと、さすがの妖魔も断末魔の咆哮をあげて炎上。
ユン・パオン大将率いる地球人間軍隊は、なんとも言えない暖かい輝きに包まれて、中にはうっとりする者までいる。
その刹那、慎太郎が真勤曼陀羅で
最後の呪文を切り始めた。
同時に、どんどん輝きを増していく慎太郎。
臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・禅・・
炎上して崩れ落ちる妖魔ハルダイオンにまで、成仏せよと、安らかに眠れと祈る忍者達。
消えてゆく妖魔にさえ、優しい祈りを捧げる忍者達の姿に、いつしか、ユン・パオン大将率いる朝鮮民主主義人民共和国軍の兵士達も祈り始めている。
ユン大将が、兵士達全員を代表して、最大の疑問を。
『慎太郎殿、あなたは、いったいどのような神で。』
そう、ユン大将達、通常の人間には、慎太郎は、もはや神なのである。
『私の力は、全智全能の神、ゼウスの化身、大日より借りているものです。』
朝鮮人には、キリスト教は普及していることから、キリスト教の神々で例えれば、彼らにも理解できると、慎太郎は、考えた。
儒教に、絶対的な神は存在しないことから、キリスト教の絶対的神に例えた。
慎太郎にしてみれば、自身を、絶対的神などと、面映ゆくて言いたくないのだが、かといって、他に表現がない。
『なるほど、では、どんな妖魔が来ても安心ですね。
で、次は、どこに妖魔が。』
ユン大将の心配は、既にそこまで行っている。
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