ある殺人鬼の独白

セパさん

第1話

 いやいや不用心でいけませんねぇ、来客があったからと言って相手も確かめずに扉を開けるなんて…。特にこの周辺で連続殺人があったことはご存じでしたでしょうに。知らなかった?あなた様ともあろうお方が余りニュースをお目にされないのですかな、それともわたくしが神経質になっていただけなのか。


 まぁ今となってはどちらでも良い話ですがねぇ。


 さて、手足も縛られてこれから黄泉へ旅立たれる訳ですが、どのような方法がお好みで?わたくしはこれでも相手の要望に則(のっと)って安らかな旅立ちのお手伝いをしたいと考え、殺人をしているのですよ。それが、わたくしの生き甲斐なのですよ。


 そうですねぇ…、まずこちらのナイフなど如何(いかが)でしょう?刃を横に滑らせて心臓を一突きにする方法でございます。下手くそがやるといらない筋肉まで切り裂いてかなり痛いのですが、わたくし程のベテランになるとあばら骨をすり抜けさせて、痛みもなくいっぺんにショック死させることができます。


 わたしは殺人鬼ですが猟奇的な趣味は持ち合わせていないのでね、苦しむ姿はみたくないのですよ。


 次にこちらのロープです、丁度首に掛かる部分に油を塗っておりまして2,3秒血の気が引いていく感覚はありますが痛みはありません。こっちも下手くそだと気道が圧迫されて苦しむのですがそこは信頼してください、柔道の経験者なら絞め技で落とされるような感覚と言えば通じますが…、ああ判りませんか。


 じゃあこれなんぞ如何でしょう?玉薬ですがわたくしの特製でしてね、流石に市販薬ではありませんが個人輸入した睡眠薬と血圧・血糖値を下げる薬を混合させたものでございます。ちょいと苦いですが眠る様に死ぬことが出来ますよ?本当は注射でやるのが一番確実なのですが、流石に注射器は手に入らなくてですね、まぁ苦さと注射の痛みは相殺ということで…あははは。


 ああ、そんなに大声を出さないで下さいな。大声で叫んでも誰も助けなんて呼んではくれませんよ、何十件も同じことをしているわたくしが言うのだから間違えはない。都会の人間とは薄情なものでいざ事件にならないと誰も何もいわないし、死体にならないと話題にはしてくれないのです。


 それにしても皆なんでそんなに殺されるのが嫌ですかねぇ、老いて病で死んでいく方がわたくしは嫌で嫌で仕方が無いとは思うのですが。人間の一番の死因はご存じで?


 …そうです、癌です。癌なんて大変ですよ?最強最悪の痛み止めモルヒネを打ったところで大の大人が泣くほどに痛いのです。それで何ヶ月も苦しみ抜いて死ぬのですから、一瞬だけの恐怖で死ねるあなたはむしろ幸福だとさえ言えますよ。



 え?お前が選んでみろ?あっははは、まぁそんな真似をしなくてもわたくしは死刑で首括(くびくく)りでしょうよ。幾らわたくしでも永遠に捕まらないとは思っておりません、捕まれば無意味な裁判を経て、無駄に食事や安寧が提供され、無難に死刑でしょうなぁ。


 ええ、いやはや感謝しているのですよ?一度は死刑になりかけた身だというのに、先生のお陰で無罪になりこうして再び殺人に身を置けたのですから。そのご恩に先生の安らかな旅立ちを願ってこうして参った訳です。


 さて、奥様は毒殺を選ばれましたが……


 弁護士先生はどのような最期をお望みで…?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある殺人鬼の独白 セパさん @sepa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ