第6話

 私は、籠原南と書いた進路希望票をそのまま担任の先生に提出した。

 学力的にも問題ないようだ。


 そしてそれから月日が経ち、秋は文化祭や体育祭。冬には友達と初詣。そして春卒業式。


 何人かの人とはここでお別れになる。だから少し寂しい気もするがそこまで涙が溢れ落ちない。


 それから卒業式が終えたあと、私は一人体育館に残った。

 この三年間、私を支えてくれた体育館。そんな体育館とも今日をもってお別れ。また遊びに来るからね。そんな独り言を呟いた。


 そして体育館をあとにする。


 私の中学三年間が終わった。


 私の高校三年間が始まるのはそれからそこまでの時間があいていなかった。


 日数で言うと2週間。こんなもの西野さんや都と遊んでいるとあっという間に経つ。


 それでも二週間という月日で色々と変わっていった。

 蕾だった桜も花を咲かせて花吹雪を起こしている。


 そこにはもう既に中学生活からお別れしたという寂しさは消えていた。これから新しい高校生活が始まるというワクワク感に溢れていた。


「日向、入学式いくよ」


 私と都は同じ籠原南高校に進学。私たち二人の肩にはラケットがかかっていた。


 それからドキドキのクラス発表。私と都は同じ高校。よかった。知っている人が一人でもいて。それで少しだけ緊張が解れたような気がする。


 でもクラスの半分以上は私の知らない人。つまり籠原中学校ではない人がいた。私は果たしてこの人たちと仲良く出来るだろうか。


 クラスを見渡す。どの人も私なんかよりも大人びているように見える。怖いな。この人たちと仲良くなれる未来が見えないや。


 一体、このクラスで何人がバドミントン部に入るのだろう。

 ふとそんなことを考える。


 それともうひとつ……

 私の教室は名前順に並んでいる。しかしその前の席の人が空席なのだ。


「えー原島樋春」


 と白髪の先生も何度も、その人の名前を言う。当然誰もいないのだから返事とか来るわけがない。


 まさかの高校初日から不登校? それとも遅刻?


 私はこの原島さんという人が気になった。

 一体どんな人なんだろう。


 恐らく、朝礼や健康診断とか名前順に並ぶだろう。その時にいつも目の前にいる人がこの原島樋春さんになるだろう。

 優しい人ならいいな。変な人だったら嫌だな。


 そんなことを思う。


 それから出席がとり終わって、自己紹介。そのまま連絡事項。学校の説明などなどをした。


 その途中。


 ガラリ。


 扉が開いた。当然みな、そちらの方に耳目が集まる。


 そこには特に慌ている様子もなく淡々と席をつく少女。当然耳目はその少女に集まる。ざわざわと。一体アイツは何者だ。と。


「原島さん? 遅刻だよ」


 担任の先生も静かにそういった。それでもその原島さんという人はただ軽く頭を下げただけ。そしてそのまま席につく。


 変わった人だな。と私は思った。


 それと同時に気づく。彼女の肩にラケットケースがかかっていることを。


 彼女もバドミントンプレイヤーである。

 私の胸が少し高鳴った。


 この子もバドミントン部に入るのだろうか。


 

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