第4話

 私は結局、準々優勝で敗退をした。

 全国大会には進めずといった感じ。


 それでも悔いはない。だってバドミントンを楽しむことが出来たもん。


「日向、試合終わったし飯行こうよ」


 と大会の閉会式が終わったあと、同級生でバドミントン部仲間の和泉都がそう言った。


「帰り道、大宮通るでしょ。そこで帰りなにか食べよ」


 私たちの住む熊谷は、案外大宮に遠い。何だったら高崎の方が近いレベル。だから私自身はわざわざ大宮に行くことなんてない。中学生の雀の涙レベルのお小遣いでは大宮に行くだけでその20パーセントは消えてしまいそうだ。


 だからこういった遠征は貴重。お小遣いとは別のお金で大宮に行けるのだから。


「何食べたい?」


「大宮のマックとか」


「えー、そんなの籠原にもあるよ」


 と私は言ったものの、確かに大宮でしか食べれないものは何かと言われると少し困る。


「西野さんは何食べたい?」


「えっ、私ですか」


 都の隣に立っていた西野さんにも聞いてみる。私たち三人はよく食事に行って部内の人間関係とかで愚痴を言い合う仲だ。


「私は……別にこれと言って食べたいものは……そうですね。焼肉とかどうですか?」


「焼肉ね」


 そういえば、西野さんは焼肉大好きだったかな。


 というわけで結局、私たちは熊谷の方に帰ってきてそこで焼肉を食べることに。


「日向、急に強くなってしまってどうしたの」


「そうですよ。先輩。去年まではポンコツだったのに」


 と、彼女たち二人は顔を赤らめながらそういってくる。大丈夫だよね? 彼女たちのジョッキにアルコールとか入っていないよね?


「県大会に行くのがやっとだったあの頃が懐かしいよ」


 都の言う通り。

 私は中学からバドミントンを始めた。最初の方は苦戦をした。ラケットにシャトルが当たらないところか、かすりもしない。

 あの早いシャトルについていくのも大変だった。


 でも……

 最初、私がシャトルを当てたあの頃の感触を覚えている。

 先輩が上にあげてくれたシャトル。それがうまい感じに、私のラケットの中心部に当たる。


 ビリリ。体中に電波が走った。

 それは、色々な奇跡が噛み合ってスマッシュとなった。


 綺麗な線を空中に描いて相手のコートに突き刺さった。

 これがスマッシュなのか。私は思う。

 そしてもっと、もっとシャトルを打ちたい。そんなことを考えながらここまで頑張れた。


 去年は市内大会ベスト8位。県大会には進めず。それでも満足。だって試合を楽しめたのだから。


 そんな私は今年、運よく関東大会出場。そこの選手たちは打っても、打っても、打ち返してくる。強者だらけで楽しかったなぁ。


「先輩は中学に行ってもバドミントン続けるのですか」


「当たり前。私はバドミントン好きなのだから」


「それで高校は?」


「籠原南高校かな」


「やっぱりカゴナンかぁ」


 籠原南高校。私の家から一番近い高校。偏差値は55ぐらい。地元の人からはカゴナンと呼ばれている。


「他に名門校行こうとか考えていないんだね」


「うん。今のところは」


「それなら私もカゴナンかな」


「あっ、先輩たちが行くなら私もです」


 名門校に行くお金もないし、そこまで私は本気でバドミントンをしたくない。こうやって地元の高校に進学をしてそしてそのままゆったりと楽しめればそれでいいや。何て言うことを考える。


 西野さんはどんどんと私の皿にお肉をいれてくれる。気づいたら私の皿は肉の山ができていた。


「今度、先輩の送別会として三人でどこかに行きましょうよ」


「どこかって? どこに」


「鬼怒川温泉とか」


「そこは東京ディズニーランドとかじゃないんだね」


 ニヒヒと都は笑う。


「だけどいいね。今度三人で鬼怒川温泉いこう」


 こうして私たちは鬼怒川温泉へ行くことに。やっぱりこういうのいいよね。緩く部活をやって遊ぶ時は遊ぶ。

 私は全国大会目指すために青春を捧げるよりもこっちの方が楽しいと思う。

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