第3話 少年の手がかり

「クラエ! セットウハン(くらえ! 窃盗犯)」



レジカウンターに固定された上半身姿の人型ロボットが、腹部から機関銃を出して銃撃する。


発射された銃弾は窃盗犯に向かって飛ぶ。それを泣き叫びながら窃盗犯は必死に逃げ回って躱す。


避けられた銃弾は棚や商品を粉砕していき、騒がしい銃声と悲鳴が店内に響かせた。



「おーい、そこのロボット」



そんな異常な光景を気にもせず、瞬はロボットに声をかける。


瞬たちは桜木町駅前にあるコンビニのニューテンズに来ていた。


周りの人たちに聞いても子供の情報は入ってこらず、一か八か聞きに立ち寄ったのだった。


もしかすると、このコンビニに来たことがあり、情報が手に入るかもしれないと。



「ハイ。ナンデスカ?(はい。何ですか? )」



機関銃を連射したまま、ロボットは瞬に顔を向けた。



「この子について知らない?」



瞬はポケットから少年の似顔絵を出し、それをロボットに見せる。



「……アッ!? コイツハ! (……あっ!? こいつは! )」


「知ってんの?」


「ハイ。ウチノミセデパンヤオニギリヲヌスンダガキナノデ、ワスレルハズガアリマセン(はい。うちの店でパンやおにぎりを盗んだガキなので、忘れるはずがありません)」


「へえー、そうなんだ……」


「トコロデ、アノヒトハナンデオビエテイルンデスカ? (ところで、あの人はなんで怯えてるんですか? )」



首をかしげてロボットは言った。


ロボットに言われ瞬は後ろを振り向くと、視線の先には腰を抜かしてを身を震わせる加佐登の姿が視界に映る。



「ああ、大丈夫。あいつ、あのどろぼうにビビってるだけだから」


「ソウナンデスカ! スミマセンデシタ。スグ二シャサツシマス(そうなんですか! すみませんでした。すぐに射殺します)」


「おい、待てよ。まだ話は終わってねえよ。このガキ知ってるなら写真とかくれない?」


「リョウカイシマシタ。ショウショウオマチクダサイ(了解しました。少々お待ちください)」



ロボットは頭部からガタガタと音を出し始める。しばらくすると、頭部の後ろから証明写真のように写った少年の写真が出てきた。



「オマタセシマシタ。ドウカコノガキヲツカマエテサツガイシテクダサイ。ワタシハシンチョウガヒャクロクジュウロクイカハサツガイデキナイヨウニプログラムサレテイルンデス(お待たせしました。どうかこのガキを捕まえて殺害してください。私は身長が166cm以下は射殺ができないようにプログラムされているんです)」


ロボットは写真を取り出して瞬に渡す。


「わかった。おい、おばさん行くぞ」


「まだ、そんな年じゃないわ! ていうか、あの人は助けないの?」



銃弾から逃げている窃盗犯に、加佐登は指を指して言った。



「ほっとけ」



瞬は冷たく言い放った。



「は!?」



瞬の冷酷な態度に加佐登は激怒する。人の命をゴミのように見ているかのような瞬に。



(コイツ狂ってる)



怒りを放ちたいのを堪えて、加佐登は立ち上がる。


そしてロボットを止めようと近づく。だが、瞬に襟を掴まれ引っ張られ阻止された。



「ちょっ!? 何すんの!」



加佐登は瞬に問うが、瞬は無視して加佐登を引きずりながらコンビニを出る。


外に出た瞬間、加佐登は暴れて瞬の拘束から逃げた。



「あなたね、窃盗犯でも殺されそうになっているのよ!」


「そうだな。……だから?」



目を細め平坦な声で、瞬は言った。



「だから!? ふざけてんじゃ――」



加佐登は怒鳴ろうとしたとき、コンビニの窓ガラスが割れる。


ガラスの破片と叫び声と共に、先ほどの窃盗犯が飛び出してきた。


窃盗犯は地面を転がって、すぐ立ち上がり走って逃げて行った。



「マテ、コノシャカイノグズ! ショウタイハシラベオワッテルカラナ。ナマエハマチダムギニヨンジュウニサイ。ベツノテンポニモコノジョウホウヲオクッテヤル。ソノミセニキタシュンカン、ハチノスにサレルカラナ。カクゴシテオケ!(待て、この社会のクズ! 正体は調べ終わってるからな。名前は町田まちだ麦二むぎに四十二歳。別の店舗にもこの情報を送ってやる。その店に来た瞬間、蜂の巣にされるからな。覚悟しておけ!)」



店の中から、ロボットの鼓膜を破るかのような音声が聞こえた。



「……」



この光景に加佐登は驚き絶句する。



「やれやれ、これで助ける必要は無くなったわけだ。さっさと行くぞ」


「え、ええ……」



加佐登と瞬は情報を集めるため、聞き込みに戻っていく。


★ ★ ★


「そうですか。ありがとうございます」



何度も聞き込みをしていき、加佐登と瞬は国際橋に訪れていた。


橋の下には緑色に濁った汚い川が流れ、見れば不快な思いを抱く。しかし、通行人たちは忙しいのか川を見ずに去っていく。


聞き込みを終えた加佐登は橋の高欄に背中を預ける瞬の側に来た。



「お待たせ。手短に話すわよ。目撃情報は無し。でも、知り合いからスリなどをしている話を聞いたことがあるだってさ」


「ふーん、とんだ悪ガキだな」


「それはあなたもでしょ」


「俺はガキじゃない、立派な大人だ。まあ、飲酒はできないが」


「ふーん。てことは十八か十九歳あたりか……」


「そっちは六十歳くらいだろ?」


「違うわ!」



右手を拳に変えて殴打したい気持ちを抑えていると、瞬のポケットから携帯の着信音が鳴る。


すぐにポケットから携帯電話を取り出して、瞬は通話ボタンを押して耳に近づけた。



「はいもしもし……あ、茂原さん」



高欄から離れ瞬は通話しながら歩く。その後を加佐登はついていこうと一歩前に踏み出す。


そのときだった。



「そこの金髪のお姉さん綺麗だね」



加佐登は後ろから声をかけられた。


その瞬間、加佐登は左手首を掴まれ頬に銃を突きつけられる。



「ちょっと俺と遊んでいかない?」



突然の出来事に動揺し後ろを振り向くと、パイナップルのヘタのような髪型をし鼻と耳にピアスをした男がいた。


すぐに瞬に助けを呼ぶが、聞こえてるはずなのに、そのまま通話しながら歩いていく。



(あの野郎……)



瞬に助けを求めても無駄と判断し、今度は周囲の人々に助けを乞う。しかし、周囲の人々は視線を伏せて去っていく。



「静かにしてくれよ。じゃないと、穴が空いちゃうぞ」



笑いを堪えながら男は言った。



(だ、だめだ。自分で何とかしないと。でもどうやって……)



どうすればいいか考えていると、不意に左手の指からチクッと痛みが走る。


反射的に視線を向けると、男のポケットにナイフの刃が出ていた。



(そうだ! これを使えば何とかなるけど……いや、やるしかない!)



加佐登は男のポケットに素早く手を入れる。そして、ナイフのハンドルを握り、すみやかに取り出す。



「離しやがれ、この野郎!」



加佐登は男の右腕にナイフを突き刺した。


男は鼓膜が破れるような悲鳴を上げて、銃を落とし掴んでいた加佐登の手を離す。


その隙に、ナイフを抜いて男から離れて身構える。



「て、てめー、よくもこんなことを!」



血が溢れで出てくる傷口を左手で抑えて、男は加佐登を睨んだ。


「オイ、ソコデナニシテイル!(おい、そこで何してる! )」


そのとき、ガシャガシャと音を立てながら、二体の人型のロボットが銃を持って走ってきた。


男は舌打ちし加佐登に背を向けて走り出す。



「マチヤガレ! (待ちやがれ! )」



人型のロボットの一体は男の後を追っていき、もう一体の方は加佐登に銃を向けた。



「オイ、ソコノナイフヲモッタオンナ。ナニガアッタノカコタエロ(おい、そこのナイフを持った女。何があったか答えろ)」


「えーとこれはですね……。あ、あの男が襲ってきたから自分の身を守ろうとしただけです。つまり正当防衛ですよ」


逃げていく男に人差し指を向けて、加佐登は慌てて言った。


「ソウカ。セイトウボウエイナラシカタナイナ(そうか。正当防衛なら仕方ないな)」



事情を聞き終わると、すぐに男の後を追っていき人型のロボットは去っていった。



「どうかしたか?」



やっと通話を終えた瞬が歩いてきた。そんな瞬に加佐登は鋭い目付きを向ける。



「別に! もう終わったことだから。それより、茂原さんからは何て言われたの?」


「喜べ。茂原さんが子供の居場所を見つけたぞ。あそこにあるゴズモワールドの遊園地あるだろ? そこに、ガキがいる情報を掴んだと……何で怒ってんの?」


「別に! 居場所がわかったらさっさと行くわよ」


吐き捨てるように加佐登は言って、早足をして瞬と距離を作っていく。



「……やれやれ。『』と茂原さんから命令がきたから助けなかった言っても信じるわけないか」



加佐登に聞こえないように呟いて、瞬は距離を縮めるため歩く。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る