第2話 不穏

「今日で一体何人目だ?そろそろ、彼らが動いても良い頃なんだけど」

肉の調達を終えた陽登が、突然切り出した。

ここ最近、外でよく見かけるようになった焼死体の話だろう。

冬は乾燥しているから、モノが良く燃えるのは分かるけれど、今日陽登がもう一人見たというのなら十五人目ということになる。

「このペースでいけば、七日後にもう一人だな。インドの法則が当てはまらなくてよかったよ、ホント」

不謹慎というか、なんというか。というかインド、何故インドなのか。

その場で疑問が生まれたが、すぐに意識の底へと沈んでいった。

「君はどう思う?」

「関連性は、確かにあるけど、自然な発火じゃないことは確か。それでも魔力は感じないから、何というか、不思議・・・・・・?」

「やっぱり、君から見ても魔力は感じられないよな。まあ、触れずとも存在するだけで周囲のものを発火させる神なら知ってるんだけど、もしアレがやっているのならまばら過ぎる」

これまた呆れたように刀を置いて、私の前の椅子に腰かける。

「それに、ここまでピンポイント。子供だけが燃えるなんてこと・・・・・・」

「それだよ、俺の思う奇妙な共通点。十五人中十五人、漏れなく全員が十六歳に満たない子供だけだ。彼らの家族がどうかは知らないが、子供が燃えるという事象そのものは数人に見られているし、何か家庭での問題があるかと言われれば特にそんなものは無い。魔術関連の薬物に手を染めていたとか、発火系の魔術を使えたってこともない。それでも、燃える時に子供は苦しんでいなかったという報告例が目撃者全員から上がっている。突発的な発火であることには間違いない。『苦しまない』これが今回の共通点だ。恐らく、夢か何かが関係しているのだろう」

「夢の実現のため、魂の状態に帰還している?」

半信半疑、魔術の心得の無い私では知識でしか口にすることができない。

私の言葉に陽登は、まだ全部が明かされたわけじゃないけどね、と頷いた。

魔術とは、自然現象にもなりえるのだろうか。

何か、綻びがあるはずだ。本を片手に考えてみた。

 そもそも、自殺するのなら遺書か何かを残すのではないか。

遺書とは、死ぬ理由や未練などを綴る手紙のことであるが、大体死ぬ理由を書くことがほとんどだ。

遺書の無い自殺、この世に残すものなど無いということだろうか。

そして焼死、自分の存在すら消そうとしている?

・・・・・・そこまで思い至ったのはいいものの、そこから先は私には想像できない世界。一つ言えることは、何故自分を燃やすのか私には分からないということ。

「でも、俺の推測が正しければこの焼死体案件は何もしなくたって明日の夜終わる。これ以上は燃えないよ」

と、ショートしかけていた頭に、陽登の話が響いてきた。

「どうして?」

つい、気になって聞いてしまった。陽登はうん、と頷く。

「神性に関しては、昨日見たから」

「・・・・・・???」

「ああ、ごめん。えっとね、あれが実像だったのか、虚影だったのかは分からない。いつかは殺さなければいけないからな、と観察しに行っただけだったから。驚くべきことにその神性、十五人の子供と話していたんだ。ようは、あの神性が網なんじゃないかって」

話の奇抜さ、難解さはどんどん深みを増していく。魔術やそういったものの知識が無い私には少しばかり難しい。

そんな私の心情が判るのか、陽登は簡潔にまとめてくれた。

「死んだ子供全員がその神性の周りを守護するように存在していた、というだけの簡単な話だよ」

へ~、と頷いてみる。

話の内容は分かったけれど、きっと今回も彼一人で終わらせるのだろうから、結局今夜解決談を聞かされるだけだ。

 私たちが阿修羅という神性と戦って以来、私は彼の土産話を聞くだけの立場にあった。

何故戦わせないのか聞いたことがあったが、女の子は自分の身を守れれば問題無いよ、と実力不足を馬鹿にされているのか、それとも単純に心配しているのか。

だとしても、何か仲間外れにされてる感じが嫌なので、連れて行くように抗議するつもりだ。

「今回の神は、どこかおかしいんだ。なんていうか、そもそも視ているものが違うっていうか、死と生が隣接しているというか・・・・・・」

煮え切らない彼の言動を、私の言葉で遮る。

「今回は私も行く。死霊と化しているなら私の方が戦えるだろうし」

「ええ・・・・・・でもこれは俺でもなんとかできる案件で」

「前に、言ってた。一般的に幻想と比喩されるものは神秘であるが故、多くの観測者を作ってしまえば力が弱まり弱体化するって。一人より、二人の方が良いと思うの」

うーん、それはなあ、と困った顔をしている彼は、何よりも私の優先度が高いようで、私が傷つくことを決して看過しない。

私に恋心でも覚えているのかな、と自惚れできるほど。

「無理はしないから、大丈夫」

「君は強いな」

そこで、陽登が制服の胸ポケットから小瓶を取り出した。

「傷ついたらこれを使って治療するんだぞ」

「そんなに心配しなくたって・・・・・・」

「まあ、ついて来てくれるのは心強い。とても助かるよ、ありがとう」

不意に、朝見た夢を思い出した。

結局、視ているものが違うだけで、その存在は常識とは乖離する。

あそこで、彼が夢から覚めていたなら、きっと失墜することは無かったのだろう。

 ここまで考えて、思い出すことを止めた。

 唐突に、陽登が私の手を握る。

「今回俺達が殺すのは、それこそ無邪気な子供だ。もしかしたら、君に苦痛を抱かせてしまうかもしれない。それでも、踏み止まっていられるかい?」

なんて、恐ろしいことを口にした。

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