・。・
@kunikokinoko
EP1 鬱霊の世界に捧ぐ
第1話 烈風の目覚め
今でも絶えず悔いている。
死にたいほどに。やり直せるなら命も要らないと思うほどに。
そして今、未だに尽きぬ後悔の渦に苛まれながら「・。・」は夢から浮上した。
いいや、もしかしたら、すべてが「
始めに抱いた思いは困惑。
なぜどうして、自分はいったい何処で何を・・・という現状の不理解。
次いで感じたのは、心よりも身体に訴える純粋な疑問。
これは「私」なのか?
全身、何処がどうとはとっさに判断できないほど、身体中のいたるところに違和感。だがこの違和感は一つではない多様なものに溢れていた。
止まらないのだ。さっきからおかしい。
なんだこの、満身創痍というような。
自分に向かって警鐘を鳴らしているような。
何か、本当に、取り返しのつかないことをしでかしたような、そんな感情たちが、現れては消える。
いや待て、そんなことよりもだ。どんどん記憶が鮮明になってくる。
確か私は家でゲームをしていたはずでは?
それが突然、どういうことなのか。
何処だここは。
見知らぬ部屋に私だけ。
呆然と立ち尽くしている。
どうやら、建物の内部にいるようだ。
壁紙とカーペットの豪華さから察するに、ここはホテルの一室?
いや、それにしては天井の照明とカーペット以外に家具も見当たらない。
あるのはただ、扉が一枚。
少女「ここは何処なのだ。何故私は1人なのだ・。・?」
自問しても誰も答えない。部屋には他に人の気配もない。
少女「どうして私はこんなところにいるのだ!・。・?」
声が反響する。
少女の身に湧き上がる鳥肌を抑えられない。
ホテル特有の匂いか、否、目に見えるほどのホコリが充満していた。
今、少女が感じているのは間違いなく恐怖だった。
どうしてここに来るまでの記憶がない?
ひょっとして誘拐?
少女は静寂に耐えきれず、その場で海老のようにうずくまる。
ホコリが舞う。
体が軽い・・・?
少女はホコリよりも、自らの身体の軽さに違和感を抱いた。
だがそれも一瞬のこと。
しかし、その行為こそが呼び水となる。
少なからず、少女に現実を認識させたのだ。
体の震えが止まる。
いや、うずくまってどうする?
しっかりしろ。
ここには私1人しかいないんだ。
脱出するんだ。この状況は明らかに不自然だよ。
ここにいてはマズイ気がする。
そうだ、こんなのよく見るスパイ映画みたいなもんだ。
これは潜入ミッションだよ!
幼い頃、近所の8階建て廃ビルでアサシンごっこをしたなぁ。
1人で。あれと同じ!
・・・嫌なこと思い出しちゃったなぁ。まさに黒歴史。
それよりも!、兎にも角にも行動しなきゃ始まらないよ。
記憶がこんがらがってるからって、怖がってちゃ何も出来ない。
先ずは、状況確認だ。
部屋には・・違和感なし。何もない。隠し扉の気配も無し。
というか、窓もないの?
こんな豪華なカーペットが敷かれているのに?
やっぱりなにかおかしい。
思考は止め処なく垂れ流される。
想像できないほどの事件に、巻き込まれたのではないかと。
そう危惧できるほどまでに、少女の精神状態は回復していた。
そうだ・・・。
扉だ。唯一の出口。
確認してみよう。
・・・スパイのように素早く。
少女「扉の向こう側には・・・人の気配はないなの・。・v 進んでみるのだ・。・ 頑張るのだ私!・。・!」
自分をひたすら鼓舞していこう。
こんなときこそ、気楽に。
たとえ誘拐犯が襲ってきても、一対一なら“いけそう”な気がする。
昔から逃げ足は早いし。
俊敏さなら誰にも負けないんだから!
運動神経いいんだよ私?
少女「よし、進むのだ・。・!」
少女は静かに扉を開ける。
外に誰もいないことを目視で確認すると、素早く部屋を出ていったのであった。
そこにはもう、不安がっていた頃の、少女の姿はない。
恐怖の渦は綺麗に霧散した。
––––––それが、取り返しのつかない過ちだと少女は気付けなかった。
気づけた筈なのだ。
全ての違和感に。
記憶が欠落しているのは何故なのか、立ち止まって考えるべきだったのだ。
そして、カーペットをめくって床裏を確認さえすれば・・・。
何かが変わったかもしれないというのに。
いや、それこそ無茶な注文。
「呪い」がそれを許さない。
間違った記憶、間違った魂、間違った肉体、間違った世界。
匂いも服装も言葉遣いも全て。
何もかもが滅茶苦茶。
悲しい結末。
戻らない。
何もかもが計画通り。
この部屋は棺桶。
「彼」の精一杯の頑張りも無駄に帰す。
もう終わったのだ。どうしようもないくらいに。
何一つ、何一つとしてここに希望的なものはない。
賽は投げられたのだ。地獄の歯車は止まらない。
世界は動き出す。
––––––でも、それでも。
この「・。・」は違うかもしれない。
この歪んだ世界を気まぐれに覗き込む神でもいるのなら。
どうか「・。・」を導いてやってほしい・・・。
と、強く信じたがっている「彼」は、そのまま誰もいなくなった部屋に取り残される。
「彼」は最初からこの部屋にいた。少女は最後まで彼に気づかなかった。
当たり前だ。“見える訳がない”のだから。
彼の役割はただ、見届けることのみ。
「目覚めてすぐ出ていくんだもんな・・・。気前のいいこった。」
彼は自虐的な笑みを浮かべる。
––––この状況をある種の◼️◼️であるなどと、思ってはいけないし認めてはいけない。
このまま順当に終末を迎えるのが幸せであるなんて、断じて考えては、いけない。
彼にはもう、何もない。
彼にはもう、何をすることも許されない。
少女がいなくなったことで、彼の体は黄金に輝く。
––––この部屋が開放されたことによって、彼の肉体は滅びへと向かう。
彼に残っているのは、闇に虚しく消え失せるだけであった。
「駄目だな、柄にもないぞ。・・・くそっ!」
やっとまた会えたのに。
その姿はまるで違うけれど。
彼の目からは一筋の涙が溢れていた。
消える間際。
彼は、開けっ放しの扉を見据えて呟いた。
「信じてるぞ。」
まるで最初から幻であったかのような。
彼の姿は消え、何もない部屋だけが残された。
彼は元の世界へと還ったのだ。
消える瞬間まで「彼」だけは折れていない。
やり遂げたという顔をしていた瞳の奥には、静かな情熱を燃やしていた。
あいつならやってくれると信じて。
あとはすべて「・。・」に託されたのだ。
唯一、消えた「彼」に誤算があるとすればだ。
少女は彼の期待以上の成果を見せることになる。
少女は強くなる。
天真爛漫な性格で世界を巻き込む。
「呪い」を身に宿していてもだ。
歯車は回り始めたが、少女もまた、止まらない。
終わった世界だろうと止まることはない。
––––元の記憶を全て失ったことが、ある種のイレギュラーだということをまだ誰も知らない。
少女は長い廊下を走り続ける。
その姿はまさに、「烈風」と呼ぶに相応しい。
すべての思惑と思想を、烈風の如く剥ぎ落すかのように。
今、少女の奇想天外な物語が始まったのである。
––––––どこかの地下基地にて。
「少女が目覚めた。」
つづく
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