第2話彼女たちは、グロで妖艶なZ系女子!①

気が付くと、僕はベッドの上で仰向けに寝ていた。


パジャマでもなく、かけ布団もない。そして、寝ていたはずなのに体は疲れ果ている。


なんで、こんな状態で寝てたんだっけ? なんて、考えるのは現実逃避だろう。

何が起こったかは、はっきりと覚えている。


腹に手を当ててみると、服には血がこびりついて固まった状態なのが感触でわかる。

どうやら、あれは夢じゃないらしい。

服の中を探ってみる。傷は治っているみたいだ。これは……。


「やっと起きたのですね、情けない。それ程までに愚鈍な回復ぶりだと、まるで私の治療術が貶されているようで、不快だな」


そんな上から目線な発言は、ゲームでは見慣れた、現実世界では見慣れないエイリからのものだ。

部屋の中央に座る彼女は、態度までゲーム同様、本当に偉そうで、なぜだか安心できた。


「よかったわ、昴ちゃん。命に別状がなさそうで」


右に座る華凛は、優しそうな笑みを浮かべている。


「楽しいね。昴」


左に座るアリスは……可愛らしい笑顔が怖っ! いやいや、「楽しいね」って何が楽しいんだよ。

僕はリアルで痛かったんだ。それで楽しかったら変態だよ?


「な、何が起こったの?」


美麗で妖艶な彼女達が僕の狭い部屋にいる。そのせいか、甘ったるい匂いが僕の頭をとろけさせてくるけど、意識をしっかり持たないと。

そんな風に頑張る中、もうろうとする僕へ蔑んだ目線を向けてくるのは、やっぱりエイリだった。


「下僕は、察しが悪いのですね。こちらへ来る前に、あれだけ説明して上げたのですが……。本当に愚鈍」


いや、いやいや、そんな説明受けてないよ、ね?


「あの、『ィクルウ神』がどうたらこうたらじゃ、理解できないって。きっと、神算鬼謀の織田信長だって理解できないよ。だから、説明をしてちょーせんか(してくれませんか)?」


「……なぜ、エセ名古屋弁?」 


こいつ、なぜ、名古屋だとわかる?


「いや、織田信長が名古屋出身だから……」


えー、意味が理解できないエイリを、「ほら、よくわからない言葉を使われても、意味が理解できないだろ?」とか言って、からかう……諫めようと思っていたのに。僕の企み、潰されちゃったよ。


「……随分と余裕がある。その様子なら、説明はいらないでしょう」


「いやいや、僕が悪かったって。だから、説明をお願い致します。よ、お大臣さま!」


僕のこのセリフに、呆れたような表情を見せるエイリ。


「呆れた。あなた、本当に余裕があるのですね。今度は、調子のいいエセサラリーマンのモノマネまでするなんて」


お前こそ、なんでエセサラリーマンのモノマネってわかるんだよ。こいつこそ、エセなんじゃないか? このエセゲームキャラめ! 実は日本人だろ!


「エイリちゃん、昴ちゃんもいきなりのことで動揺しているのよ。だから大目に見てあげて」


おお、流石はチームの母親役である華凛はいいこと言う。エイリも、華凛がいうのなら仕方がないわね、みたいな態度をとってくる。


「まあいいでしょう。いい加減、下僕の冗談に付き合っていても話が進まない、教えて差し上げましょう。彼女達も焦れてきていことですし」


そんなことを呟いた彼女は、その綺麗な顔を僕へ、右横から覗き込むように近づけてきた。


『ドキン』


心臓が、心を打つ。

彼女の赤目は、脳みそを蕩けさせそうな紅で、顔が赤くなってくる。真っ白に肌に浮かぶピンクの唇は、思わず口づけしたくなるような衝動が湧き上がってくる。


僕は、彼女から、目が離せなくなった。


「今、視野をつなげます」


彼女が僕と額をくっつけると、途端に視界が飛んだ!


僕の目に見えるのは、チカチカとしたノイズ。次に僕の顔。火に飲まれる街。赤い月が歪む空。泣き顔の僕。悪魔のような顔の綺麗な顔の女性。


また、チカチカとしたノイズが走る。次に僕の眼前に広がったのは、明々と街を彩る電飾がひしめいていた。


この視界は、上空にある!


「な、なんだこれ?」


「今、私は千里眼を使っている。その視野を、下僕と共有しているのですよ」


千里眼、僕が聞き及ぶ話では、確か千里先でも見渡す能力のことをいう。ゲームでも斥候能力として似たようなものがあったけど、現実だとこんな感じになるのか!


「凄い! こんな能力を持っているなんて、エイリは凄いよ」


「……馬鹿。こんな能力、大したことはない」


僕が褒めると、ヒンヤリしていたエイリの額が、ほんの少しだけど、温かくなったような気がした。

なんだなんだ、邪見にしているけど、本当は褒められてうれしいんじゃないのか?


「それで、話しを戻しましょう。今、下僕には、街はどう映っている?」


どうと言われても、こんな風に街を俯瞰したことないからわからないけど、おそらくは普通なんじゃないかと思う。


「別に、普通だと思うけど……」


「そう、まだ何も変化はない」


「……まだっていうのは、まるでこれから変わることが有るみたいに聞こえるけど?」


「正解。世界はこれから大変革を迎えます。それは初期宇宙の相転移より劇的な変化で、混沌の神『ィクルウ』によって齎されるのですよ」


「なるほど、そうてんい——」


「そうてんい」とか言われても、意味わからんし。聞いて馬鹿にされるのもしゃくだし。わかったふりして流そう。


「——より劇的とはおおごとだね。それで具体的に、その『ィクルウ』は何するの?」


「世界を、融合させる」


「世界を、融合させる?」


相変わらず眼前に広がる町は、電飾が彩った綺麗な街並みだ。これが、どう変わるというのだろうか?


「そう。私の世界、下僕からみたらゲームの世界にいる混沌の神『ィクルウ』が、独りよがりで身勝手に、この世界とゲームの世界を融合させる契約を締結した」


ゲームの世界と、現実世界を融合させるだって? そんな馬鹿な。


「現実世界と仮想であるゲーム世界が融合するなんてこと、あり得るわけがない」


「ほんとうに、下僕は愚鈍なのですね。それは、認識に誤りがある。私がゲームの世界と言ったのは、あくまでも比喩的表現。私たちの世界は、実在するのですよ。別宇宙の世界として。それは、今ここにいる私達で、証明済みでしょう」


別宇宙の世界だって? 随分とスケールのデカい話なってきたな。


「宇宙には、他にも数億数兆、それこそ数えきれないほどの星があるっていうのに、なんで地球だけを特別待遇してんの?」


「おそらく、地球だけではないでしょう。たまたま、私達の星とこの地球が強く結びついただけで、全能といわれる『ィクルウ』は、全てに手をだしているはずです」


……はは、なんだそれ。これが、映画とかである宇宙的脅威ってやつかな?


「そして、もう間もなくその時が来る。刮目なさい」


僕は、言われるがままに地上を見ていると、その変化とやらはわかりやすく訪れた。


赤い膜のようなものが、世界を侵食し始めたんだ!


「な、なんだこれ!」


「私の千里眼を通しているから、世界の変革が見えているのですよ。混沌の神『ィクルウ』により世界が混ざり合い、あちらの星とこちらの星で自由に行き交いできるようになる。そして、原理原則も混ざり合う」


「えっ?!」


いま、さらっと言ったけど。あの廃退的な世界とつながるのは、かなりヤバいんじゃ……。


なんてことを言っていると、赤い膜みたいなものがまるで、コーヒーに牛乳を混ぜた時のように、こちらの世界と混ざっていく。


「視野を、世界全体へ広げます」


そして、俯瞰映像がさら広がったかと思うと、世界のあっちこっちで赤い火柱のようなものが立ち上がっているのがわかった。そのあとには、暗い夜空より黒い穴が現れ、開いては消え開いては消えしている。


「世界がつながっていく様が、見て取れる」


それは、取り返しのつかないことが起こっているという、知らせでしかなかない。


「右を見て。さっそく彼方の世界から此方へ、来訪者が来ました。あれは、亜神ですね」


言われるままに右を見ると、山くらいはありそうな何かが這い出してきていた。

それは、体中に触手があり、まるでフラクタルな図形を見ているかのように触手が不気味に蠢いている。また、不浄という感想しか与えない手足と思える器官は、不気味に生えたり消えたりしながら、黒い穴を押し広げていた。

一目でそれが、吐き気を催すほど不快な化け物だとわかる。


「亜神、……ゲームで言えばラスボスが、こっちへ来ようとしているのか……」


僕がその事実に驚愕していると、不意に黒い穴が閉じ始めた。それに対して、亜神は生き汚くも手足で押し戻そうとしていたけど、それも叶わず穴は閉じ、その化け物は体が引きちぎられてしまった。


瞬間──


「ギャァ△あ嗚呼アァぁ阿■あ×ァ唖!!!!!!!!!!!」


──僕の耳には、その不快で不快で不快で仕方がない断末魔が、僅かながら聞こえてきた。世界の隅々まで響いていそうなそれを世界中の人々が聞いたのなら、そこから現象を推察する人は、断末魔を地球の悲鳴であると結論づけるのかもしれない。


「これにより、世界融合がなされた。世界は、混沌の神『ィクルウ』の名が示すように、混沌へと向かっていくでしょう」


彼女がそれだけ言うと、視界は元の部屋に戻っていた。僕の目の前には、相変わらず妖艶な彼女の顔がある。


いや、さっきよりも淫靡な感じがする。


僕はその表情に、不吉な予感した。


なんだか長い夜になりそうな、そんな予感だ。

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