第31話 潜在なる万能者の目覚め? 後編

『ギャーーぶつかるぶつかるぶつかる~~!!』


 ぶん投げたパナセは、声を張り上げながらルシナたちの所に激突した。


 金色の長い髪がかなり乱れるほど、激しく衝突を果たしたようだ。


「うぅ……もう! パナってば! というより、アクセリ~~何をしてくれてんの!? しかもまた少し寒いし、どうせ氷魔法でも仕掛けていたんでしょ」

「くっ……さ、さすが、わたくしのアクさまですわね……ネギ女を武器としてぶつけてくるだなんて」

「……」


 見たところ、ロサにかけられた傀儡は解けたと見えるが、パナセの反応が無い。


 ルシナの言葉を信じれば、氷の要素が発動してしまったようだ。


 自称勇者が傍で目を気絶しているとはいえ、油断しては元も子もない。ここはパナセの成果を讃えに行くとする。


「パナセ、無事か? 悪かったな、お前ならどうにかするかと思っていたのだが……」

「あんた、姉を何だと思って――あ……」


 ルシナが俺に腹を立てるのも当然のことだが、怪我をしたわけではなかったようなので、パナセに話しかけると意外な反応を見せて来た。


「ルシナちゃん、構わないよ。アクセリさまのやることに間違いはないもの」

「えっ? パ、パナ……?」


 特に変わった様子には見えないが、ロサがこっそり耳打ちをして来た。


「アクさま、あの女に触れてはなりません。これはわたくしともう一人の薬師の女が、身をもって体験して気付いてのことです。よろしいですね?」

「何事だ? パナセから何かされたか?」

「いえ……衝突されてすぐに術から解放されたのですが……」


 ロサは自分の身に起きたことが、未だに信じられないといった表情を見せながら、ハッキリと答えられずにいるようだ。


 ルシナは、氷の要素に触れたせいか、体に起きた異変はさほど感じていないらしい。


「アクセリさま~!」

「お、どうした?」


 いつもの流れでは頭を撫でて褒めるのだが、傀儡から解くほどの衝撃を与えたパナセには、抱きしめて褒めるのが得策だと考えた。


 しかしロサの警告は、パナセに触れてはならないということなわけだが……実際に触れてみなければ、正体を掴むことなど出来はしないはず。


 褒めてもらいたくて駆け寄ってくるパナセを拒むなど、賢者のすることではない。


「良くやった! いや、すまなかったな。パナセの可能性に賭けてみたかったのだが、何も起きなかったようで安心したぞ。さぁ、思いきり抱きしめて褒めてやろう!」

「きゃぅっ!? だ、だだだ、抱きしめて頂けるのですか!?」

「遠慮するな!」

「で、ででで、では……むぎゅぅ! なのです」


 ふむ、特段変わった様子には見えないし、何も気を付けるべき所は……うっ!?


「……がっ!? く、くぅ……な、何?! 何だ、この痛みは……」

「アクセリさま? ど、どうかされたのですか?」

「ぐっ……お、お前、パナセは何とも無いのか? どこか痛む所はないか?」

「ロサさんたちにぶつかった直後は、痛さを感じたのですけど、すぐにおさまってしまったんですよ~不思議なことがあるものです」

「ま、まさか、この痛みは意識の書き換え能力だとでもいうのか……?」


 ロサとルシナを見ると、俺の反応で全てを理解したらしく、目を外して合わさないようにしている。


「く、くそ……本人は痛みそのものを吸収しておきながら、痛みを感じずに蓄積していたということか」

「どうしたのです~? どうして痛そうな顔を……」

「い、いや……これは俺の落ち度だ。パナセにひどいことをしたことが、そのまま返って来ただけのこと。パナセが気にすることではない……つぅ」


 パナセの潜在能力は、これが確定とは言い難いが、どうやら本人が受けた他者からのダメージを吸収し、体内に蓄積……、その後何らかの形で、接触した者に跳ね返して書き換えるということのようだ。


 未だ俺の胸の中で抱きしめられているパナセは、何とも幸せそうな表情をしているが、受けた俺だけは激痛に耐えている状態だ。


「……だから申しましたのに。アクさまは、そこまでその女を愛するおつもりですか?」

「お、お前、分かっていただろ? 何故言わなかった……」

「確証はございませんでしたわ。そこの妹も同じかと思われます」


 ルシナの方を見れば、いたたまれない表情で俺を見ているだけだが、痛みの大半はロサによるものだろう。


 どうやらパナセの潜在的な能力は、本人が全く気付くことの無い防衛能力のようだ。


 パナセには一切の痛みとダメージを負わないような、見えない守護神でもついているのではあるまいな。


 それとも知らぬ間に、賢者たる俺と盟約でも結んでしまったことで、ダメージは俺だけに書き換えられるとでもいうのだろうか。


「まさか、あの時の口づけ……か?」

「ええっ!? 今ここで口づけをご希望なのです? でもぉでも~」

「いや、違う。し、しばらくこのままの姿勢で大人しくしていてくれ……」

「は、はいぃぃ」


 痛みで動けなくなるとは、コイツは何なんだ? 


 薬師の前は魔法を覚えようとしていたらしいが、変な呪術でも会得したんじゃないだろうな……


「はふぅ~アクセリさまに抱きしめられて、力がみなぎって来ます~」

「洒落にならんな……」


 身をもって確かめられたのは良かったが、もう二度としないことを誓わせてもらわなければな。

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