第12話 風と微塵とランス使い 前編
さて、あの黒騎士に対してエルフの双子は、手を出すかどうかだが……
「アクセリさまは、勝てる自信がおありなのですよね?」
「無いな」
「えええっ!? そ、そんなのは駄目ですよ! そうしたらパディンの町も人も、みんな駄目ですっ!」
「しっ! 声を張り上げるな! とにかく、エルフの双子次第だ。すでに気配で気付いているだろうが、奴隷として逆らうことが敵わないのであれば、すでに勝負は決したと言っていい」
「そ、それは……あぅぅ」
感情の豊かさは見ていて痛快ではあるが、時と場所を鑑みてもらいたいものだ。
洞窟という狭く暗い場所において、感情を思いのままに出すのは、他のどのPTを見ても多くない。
だがパナセは、粗悪PTにばかり従って来ただけに、危機的状況を察するところにまで行き着いていないのだろう。
その辺はこれからみっちりと教えて行くしかないが、今はあれを何とかするべきだ。
『そこに隠れているのは分かっている! 奴隷ども! 姿を見せ、俺に平伏しろ!』
「「……い、嫌だ!」」
『ちっ、奴隷エルフごときが主人に逆らうのか! 姿を見せなければこの場で始末する。オレから逃げられるとでも思っているのか?』
奴隷と主の関係にしては妙だが、他に黒幕がいて、見張り役が黒騎士ということなら合点がいく。
『くそガキども……覚悟しとけ』
ほぅ……? ランス使いか。たかが奴隷にランスを使うということは、あのエルフらは何かあるな。
「く、くらえー!」
「くらえー!」
姿の見えないエルフから見えるのは、同時に手の辺りから旋風を起こし、岩や洞窟の中にある塵を巻き込みながら、黒騎士に向けて放ったようだ。
「す、すごいです。風の無い洞窟の中で風を起こすなんて……!」
「エルフの双子の同時生成術だな。あんなのは俺でも可能だ。要素さえ言うことを聞けばの話だが……」
「え? 言うことを?」
盟約を交わした時は最強だったが、劣弱賢者となった俺の言うことを聞くかどうかだな。
『……くだらん』
小規模にして極小範囲で起こした風は、近くの塵を吹き上げただけに過ぎない。
それに対し、黒騎士のランスは一閃の光とともに、旋風を消し去った。
思った以上にエルフらに抵抗の力はあったようだが、あの黒騎士はそこそこの手練れなのは確かだ。
面倒ではあるが、俺が出て行くしかないか。
「パナセ、麻痺草を黒騎士の辺りに投げ込め」
「え、はい」
「ついでに目くらまし草も頼む」
「そ、それだと、あの……」
「何だ?」
「アクセリさまも大変なことになるんじゃないでしょうか? わたし、麻痺を治す術は無いですよ?」
「調合が出来て、どうして治すことが出来ない?」
「べ、勉強不足です~……」
作ることは長けていても、治す手段を考えないとなれば使えない薬師ではないか。
「問題ない。俺には耐性がある……はずだ」
「ほ、本当ですか!? アクセリさま、さすがです!」
確証など無いが、いくら弱くなろうとも、賢者の特性だけは弱かろうが影響外のはずだ。
さて、将来の芽を救うとするか……
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