3話 大賢者である私は初めての依頼を受けようとしたら

  私は冒険者になった。

 とはいえ、突出した活躍をする気は無い。

 普通の一般冒険者で良い。

 しかし、ある程度のお金は欲しい。

 ということで、Bランク止まりで気楽に行こう。


 AランクやSランクなどになってしまったら厄介事に巻き込まれること間違いなし。

 こう言ってはBランクの方々に失礼だけど、実力はあるけどいま一歩足りず、かといって侮られることも無い、それが私のイメージだ。


 私は鼻歌交じりでクエストボードに向かう。

 クエストボードには色々な依頼が張り出されている。

 案の定Fランクで受けれる依頼は、ギルドが依頼主の常時募集が掛かっている安ーい依頼しか無い。


<ふーん。薬草集めか>


 冒険の手始めには丁度いいかな?

 私の探知魔法にかかれば薬草の群生地など簡単に発見出来るだろう。

 多少町から遠かったとして、強めのモンスターに遭遇したとしても、簡単に返り討ちできる実力が私にはある。

 収納魔法だって私は使える。

 ざっと依頼の10倍くらい持って帰ればいきなりランクアップできるかもね。

 モンスターの一部を持って帰れば討伐ポイントも入るだろう。


<よーし! 受けちゃおっかな>


 私は再びセバっちゃんが居るギルドカウンターに向かおうとしたところで誰かに呼び止められた。


「すみません。あなたヒーラーですよね?」


「え? 私?」


 そうだった。

 ヒーラーで登録したんだったわ。

 すっかり魔道士のつもりでいたよ。


「違うんですか?先程登録の時そう言って登録しましたよね」


 ん? 聞き耳たててたのか?コイツ。

 感じ悪いぞ!?


「ええ。一応ヒーラーです。なにか御用ですか?」


 作り笑いで返事をし、私を呼びとめた盗聴男を観察する。

 若い男の子だ。

 16,7才くらいかな。

 顔は… ほほう! 中々の上玉!

 とはいえ私好みになるには、あと3年かかるわね。

 身なりからすると戦士かな。

 私の中で男の子の評価が ー100から+50まで一気に上がる。

 イケメンは得だよね。


「あの。よかったら僕たちのパーティーに入ってもらえませんか?」


 およ? いきなりパーティーのお誘い?

 Fランクなのに?

 私の美貌が男を狂わせるのかしら?

 だとしたら貞操の危機だわ。

 男はケダモノだもの。

 美しさは罪ね。

 私は男の子の評価を−30した。


「私、今登録したばかりのFランクですよ?足手まといにしかならないと思います」


「僕たちも駆け出しなんだ。だから気にしなくても大丈夫

 だよ」


 どこが大丈夫なんだろう?

 初心者集団のパーティーなんてヤバすぎでしょ。


「ちょっと待ちなよ。ボウズ!」


 私達の会話に割って入ってきたのは装備が割としっかりした同じく戦士っぽい男だ。


 使い込まれた感じの装備に、精悍な顔つき。

 イケメンではないけど戦闘で頼りになるのは明らかにこの男の方だろうね。

 私にとってはどちらも大差ないだろうけど。


 私にとって最高の戦士であり相棒は、勇者アヤメだ。

 アヤメは元の世界で幸せを掴んだだろうか?


「今は僕たちが話かけているんだ。邪魔しないで下さい」


「俺たちも、お嬢さんをパーティーに誘いたいのさ。だから邪魔じゃない。立派な交渉だ」


 ん? 私の色香に惑わされた哀れな犠牲者がまた一人。

 私も罪な女である。

 そして貞操の危機が一段と強まった。


「そういうことなら、我々も参加させてもらおう」


 更に横からいかつい男が参戦してきた。


 ? さすがに何かおかしい!

 なぜFランクの私をこうも誘いたがるのか?


「あの、すみません」


「「「「「なんでしょう?」」」」」


<参加者が増えてる!>


「すこしセバさんと話してきてもいいですか?」


「「「「「どうぞ、ご存分に」」」」」


 許可がでたのでカウンターでやはり微動だにせずピシッと立ってるセバっちゃんに話しかける。


「あのセバっちゃん。これはどういうことでしょう?」


「貴方様がヒーラーだからですよ。ヒーラーは少ない。その少ないヒーラーの中で冒険者になられる方は更に少ない。冒険者1000人の内1人くらいしかヒーラーはいないのです。当支店でヒーラーの登録者が出たのは実に5年ぶり。私も大変驚きましたよ」


 渋い声で饒舌なセバっちゃん。

 あのやり取りのどこに驚いた表情があった?

 ずっと無表情だったじゃないか!と突っ込みたい!


 振り返ると冒険者達はウンウンと頷いている。


 どうやら私はやらかしてしまった。らしい。

 いつの間にかヒーラーは希少価値になっていた。

 500年前はうじゃうじゃいたからその感覚でいたのだ。

 リサーチが足りなかった。


 若さゆえの過ち。

 認めたくないものだね。


 でも 希少価値とはいえ、ただヒーラーとして過ごせばいいのだ。

 私のお気楽ライフ計画が潰れた訳じゃない。


 はぁ とため息をついている間にもギルドに入ってきた冒険者達が続々と参戦してきて、私争奪戦参加者が増加していく。


 小声で「あのちびっこがヒーラーなんだと」とか「あの可愛らしいお子様がねえ」などと聞こえる。

 お前らのところには行かん!


 街中の冒険者が集結してくる様を不審に思い

 魔法で町の外に意識を飛ばすと


「この町にヒーラーがでたぞー!」


 と叫びながら走っている男がいた。


<私は怪獣か!> 


 と突っ込みたい!なんだこの町?


「セバっちゃん、どうしたらいいかしら?」


「これはタダでは済みませんな。どなたかのパーティに入らねば収まりますまい。しかし選ばれなかったパーティーによる血の抗争が繰り広げられるでしょうな」


「え?」


 物騒な事を言い出すセバっちゃん。


「あ、そうそう。パーティーの勧誘等のトラブルにつきましては、当ギルドでは一切の関知いたしませんので悪しからず」


<逃げやがった‼>


 私は冒険者になって早々、登録しただけで貞操の危機というピンチに遭遇している。

 このピンチを切り抜け、この場を丸く収めるのはこの私の双肩に掛かっているのだ。

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