48話 私は帰りの馬車の中で幸せを噛みしめる

 お祖父様との夕食会で、私はトロフォルの家の養女になる事が決まった。

 トロフォル公爵、つまり伯父が今後養父という事になる。


 伯父のトロフォル公爵としては娘のルーミラが聖女となり一旦は婿探しを中断。


 また(私はお会いしたことが無いけど)トロフォル家嫡男である従兄弟が王宮で要職に有り、順調にいけば家督を譲るのも数年内に済むとのこと。


 そして現在、王太子は伯母様の血を引く。

 その王太子の婚約者は、トロフォル家とは友好関係にある穏健派のラーゼフォン家の娘、シャーロット(シャル)なので問題はない。 


 しかし第2王子は第2婦人の子で、将来は王弟として大公になる。

 現在第2王子派なる派閥は存在しないけど、いつ担ぎ出す者が現れないとは限らない。

 第2婦人の実家は強い勢力ではない。

 でも第2王子の婚約者に野心家の娘がなって手を組まれると問題になってくる。

 だからユニスリー家のアイリが第2王子とであり、更にアイリとシャルの仲が良いのは国安定の為にも望ましいとの事だった。

 アイリの存在は国家の安定の為に重要だといえる。

 さすがアイリ。

 自慢の妹である。


 3大公爵家の残りの1家リッシルト家はと言えば、現公爵が野心家と思われるそうだ。

 リッシルト家は女児に恵まれず、王太子、第2王子の婚約者候補を出せなかった。

 だから隣国との結びつきを強化し、隣国の後ろ盾を得ようとしている。

 嫡男コアトレーニン様の正妻として隣国の公爵令嬢を迎えたのもその一環なのだろうとの事だった。

 その事がどう実を結ぶのか判らないけど、現在注視中という。

 ただし、嫡男コアトレーニン様の政治家としての資質はあまり高く無いらしく、逆に吸収されてしまわないか心配もしていると仰っていた。


 王宮事情が概ね良好の現状、私をトロフォル家の養女として迎え、国防の要であるユニスリー家とのより強い絆を結べるのは願ってもない事だと、私と兄様の婚姻を歓迎してくれたのだ。

 

 正直出来すぎだとは思う。

 でもすんなり事が進んだ事を喜ばずにはいられない。

 


ーーーーーーーーーーーーーーー


 

 お祖父様のとの面会は無事終了し、馬車は帰路へついていた。

 父様も同乗している馬車はユニスリー領では無く、王都へ向かっている。

 父様の希望で王都に寄ってから、父様をユニスリー領へ送ることになっていた。

 理由はアイリのコンサートを聞きたかったのと、母様へのお土産を買う為。

 SFALDのグッズ、特にアイリグッズも買いたいらしい。


 今ではSFALDのコンサートは一般市民向けにも王家管理の元、王宮広場で行うようになっていてグッズも販売している。

 今では国内でSFALDを知らない者はいないんじゃ無いかしら。


 その影響か、国内外で他にアイドルユニットを結成させる動きがあるようだけど、アイリ&シャルの天使ボイスの敵ではないわ。


 尚、私もSFALDアイリグッズを一通り3つづつ持っている。

 それはお姉ちゃんとして当然の事だと思う。

 観賞用、いざという時のストック、ストックが壊れた時のストックを揃えるのは基本中の基本よね。


 余談になるけど、SFALDの活動については、学園長と王太子(兄様に頼んで面会させてもらった)を交えてお話させてもらった。

 SFALDの活動の管理はシャルが王太子の婚約者なので王家と学園とが連携して、国民への娯楽の提供として国益に叶う方向で行って欲しいと依頼した。

 実はアイリの安全の為だなんて言えないけど。

 王太子様はその有効性を理解して賛同して下さった。

 同時にコントロールしなかった場合の王家にとっての不利益にについても思い至っているご様子だった

 その話の中で、グッズの販売を提案し、その利益は王宮と学園の資金の一部になっている。

 グッズの製作には私も陰ながら参加してさせて貰ったのだった。




「リリー。出自に疑問をもったのはいいが、何故大公の元に向かったのだ?まるでリリーの計算通りの展開になったと言う感じだったぞ」


 不意に父様が話し掛けてきた。


「実は、髪の色の違いで私のルーツに疑問を持った時、まだ幼い頃ルーミラお姉様が言った一言を思い出したのです」


「ほう」


「ルーミラお姉様は『実は叔母はもう一人居たんだよ』と家族構成教えてくれた時に言っていました。その時はご不幸があったのだと思い、それ以上はお聞きしませんでしたが」


「そうか、それで推察したか」


 兄様が私の手を握って来たので私は指を絡め恋人つなぎにする。


「それにしても、いくら兄妹の仲が良いと言っても行き過ぎだろうよ」


 私と兄様は隣同士で座っていて、私が兄様にピッタリくっつき、恋人つなぎで手を握りあっていたのを呆れられた。

 

「父様、誂わないで下さい」


 声に出して指摘されると恥ずかしくなってしまった。

 顔が熱いので、さぞ赤くなっている事と思う。


「父で義父か。複雑な心境だな」


「父上、アイリも同じ様なことを言ってましたよ」


「アイリも知っているんだな。まぁそうだろうとも。で、いつから恋仲になったんだ?」


「コアトレーニン様の婚約発表を知った辺りでしょうか」


「結構経つな。まさかお前たちもう……」


 父様の言葉に兄様が即座に反応した。


「父上!リリーを誂わないで下さい」


 一瞬、父様の言った意味が判らなかった。

 でも兄様の抗議を聞いてその意味に思い至ると、先程以上の恥ずかしさがこみ上げて来て、思わず両手で顔を隠してしまった。


「良かった、それはまだ先か」


 父様は私の様子から私達の進捗状況を把握した様で満足そうに頷いていた。


「もう!兄様は紳士です。その……今はまだそういう関係ではありません!」


「今はまだ……ね。健全で結構な事だ」


「もう父様!」


「しかしリリーがダンの嫁なら、家のことは安心して任せておけるし、いよいよ楽隠居できるか。元々家族だから変な気遣いもしなくて済むな」


 そう言って父様は笑った。

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