45話 私の天使たちと諦めない男
リリーが兄ダンベルとキスをしたのを思い出し、恥ずかしさの余り自室のベッドの上で転がりまわっていた時、リリー担当の天使達もまた騒いでいた。
天使たちは恋バナ大好きだった。
「まさかのてーんーかーいー」(展開)
そう騒いでいたのは天使キャペンだ。
「えー、いつからシスコンのことを……意外だ」
天使ルコーはリリーの想い人がダンベルだった事を今でも信じられないでいた。
「まぁ、結構前からッスね」
3人の中で最も位の高い大天使ミッチェルは冷静に言ってるつもりだったが自慢げな態度は隠せていなかった。
「ミッチェル様知ってたんですか?」
「確信持ったのはゲスーニ(下衆のトレーニの略らしい)の告白を受け入れつつも喜んでいなかった時ッスかね」
天使たちの中でもコアトレーニンの評価は地に落ちていた。
また、ダンベルについては評価はともかく親しみをこめてシスコンと呼んでいる。
男に対しては口の悪い天使達だった。
「先輩知ってたんなら教えて下さいよー」
「ミッチェル様、シスコンとくっつくと思っていました?」
「最終的にはそうなるとは思ったっスけど、割と早かったッスね」
「このまま結ばれちゃう?」
「えー今はまずいでしょ。アイリの事も有るし」
「まぁいずれは誰かと結ばれてくれないと困るっスけどね」
「あー先輩、例の件ですね」
「ミッチェル様も天界に帰りたいですよね」
「ルコー、キャペンそこまでっス」
「先輩判ってますって」、「はーい」
ミッチェルに釘を刺され天使2人は素直に同意した。
「でも、ゲスーニがだまっていますかね」
「あー私もそう思う。逆上して悪あがきするんじゃない?」
「ゲスーニは何か仕掛けて来そうッスね」
「先輩がそう言うなら面白い事になりそうですねー」
「障害があるほど2人の愛は燃え上がるのよー」
「楽しみにして待つッスよ」
リリーを巡る三角関係の行方を天使達は物語の続きを待つかの様に心待ちにするのであった。
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リリーがベッドの上で転がりまわっていた同時刻。
王都のリッシルト邸の自室でやけ酒を流し込んでいる男がいる。
リリーにピシリと拒絶された男、コアトレーニンである。
「くそっ」
開いた瓶を床に投げ捨てる。
コアトレーニンは荒れに荒れていた。
<どうしてこうなった>
コアトレーニンはユニスリー邸を出入り禁止になった。
その事を、親友ダンベルから告げられてしまった。
コアトレーニンにすれば、今となってはダンベルと疎遠になっても構わない。
しかし、金輪際リリーに会えなくなるのは耐えられない。
今リリーに会おうとしても、婚約者のいる殿方とは2人きりでは会えないと言われてしまうだろう。
その事を盾に絶対に会おうとしないだろうし、彼女は社交界にも出てこないので会う機会がないのだ。
<どうすればいい>
リリーに拒絶され、以前のプロポーズも白紙にされた。
しかしリリーを諦めることは出来ない。
あの美しい銀髪、シミ一つない白い肌。
さぞかしスベスベだろう。
美の女神の微笑みの如き笑顔。
服の上でからでもわかる絶世のプロポーション。
胸は大きめであって巨乳ではなく、背もコアトレーニンの肩ほどしか無い。
容姿だけとってもコアトレーニンのどストライクなのに、その性格も慎ましやかで思いやりがあり、優しさに溢れていながらも芯をしっかりもっているコアトレーニの理想の女性であった。
淑女としての礼節、所作、仕草も申し分ない。
その上、明晰な頭脳を持ち、良妻賢母になること間違い無い女性だ。
逃してしまうのは余りに惜しい。
2度と出会える女性ではない。
いい案は出ないが、リリーへの欲望は溢れ出るコアトレーニン。
<諦めん、俺は諦めない。リリーお前は俺の女だ。俺の腕の中でさんざん可愛がって悦ばせて、俺の色に染めてやる。俺しか見えないようにしてやるぞ>
リリーが成就の力を使えば、物理的にコアトレーニンから逃れるのは簡単な事だ。
だからリリーの心を掴まない限り、彼女を胸に抱き寄せるのは不可能なのだが、その事をコアトレーニンに知る術はない。
コアトレーニンの婚約者の令嬢は本来なら婚約発表の場にいるはずだったのが、隣国よりの移動のため、予定以上に日数がかかり間に合わなかった。
到着は1週間遅れるとの連絡を受けている。
1週間後には、婚約者への対応で忙しくなってしまうので、その前に手を打ちたい。
リリーに悪い虫がついては困る。
コアトレーニンはリリーが望む様に正妻をそれなりに扱おうと思い直していた。
そうしないとリリーがなびく事は無いし、それにリリーなら正妻を立て2人仲良くなってくれそうだとも考えたのだ。
本当はリリーさえ居れば、正妻は形だけ居てくれればいい。
しかし正妻と側妻を平等に扱う譲歩をは止む無しとコアトレーニンは考えを改めた。
リリーを失う位なら愛していなくても正妻との時間を持とうと思ったのだ
コアトレーニンは今回の件を反省していた。
今回は焦りすぎた。
先ずは婚約者との婚礼を済まし、1年くらい置いてからリリーにアタックするべきだったのだ。
その間に家督を譲り受ければ身内の邪魔は入らなくなる。
その為には、これから2年位の間リリーに婚約されて貰っては困るとコアトレーニンが思ったその瞬間、悪魔的な閃きが浮かんだ。
<そうだ、これだ!>
コアトレーニンの口元に歪な笑みが浮かぶ。
その考えは以下のようなものだ。
〝そうだ、リリーに婚約を申し込みたいと思う男を無くせばいいのだ。
今、幸いにもリリーは俺に婚約破棄されたと噂になっている。
もし今、婚約破棄された理由が兄との爛れた関係にあったから、との噂が加われば……
間違いなくリリーの評価は地に落ち、婚約を申し込む男は居なくなる。
ふふふ、これは俺の申し出を断ったリリーへの罰だ。
ダンベルの名声も地に落ちるが知ったことか、お前から縁を切ってきたのだからな。
嫁ぎ先が無くなって困った所へ、公爵家の俺から辺境伯に側妻として迎えたい旨を申し出れば、リリーの意志とは関係なく喜んで応じるだろう。
リリーも父君からの命令ならばおとなしく従うはずだ。
そうなれば、あとは時間をかけて靡かせればいい。
俺から離れられなくなるくらいに可愛がってやるさ〟
考えのまとまったコアトレーニンは漸く酒を楽しむ余裕ができた。
「リリー。君が苦しみ、悲しむ姿を見れないのは残念だ。しかし少し辛抱してくれ。俺が君の窮地を救ってやるよ」
邪悪の笑みを浮かべるコアトレーニンは、リリーとダンベルが本当に恋仲になったことを知らない。
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