44話 私は今後について話し合い、そして動き出す
「兄様は思いの外、元気でした。おつまみも食べられましたから心配ありません」
兄様は私の作ったおつまみを美味しそうに食べてくれた。
私はその様子をうっとりと眺めて幸せを感じていた。
私がうっとりと兄様を見る様になるなんて。
でも、今は愛おしくてたまらない。
自分が自分で無くなってしまったみたい。
兄が食べ終わると私達は今後の事を話し合って、使用人達に怪しまれない様に私は早めに兄様の部屋を出た。
厨房に戻ってきた所で、この屋敷を取り仕切る執事アンドレにばったりと会ったので、兄様の様子を語ったのだった。
「リリー様、ダン様へのお食事ありがとうございました」
「今回の件で兄様は一番のご親友に裏切られてお辛い思いをされていましたから、少しでも気を紛らわせてもらえて良かったわ」
「それで……いえ、何でもございません」
アンドレは何か言いかけて止めた。
「アンドレ何か気がかりなら言って欲しいわ」
「失礼しました。では。その……リリー様は大丈夫でいらっしゃいますか?」
「私? 私はコアトレーニン様に裏切られたとは思っていないわ。ただその言い分に失望はしたけど。噂についても気にしていないわ」
「アンドレめは安心致しました。仔細はダン様からお聞きしております。余りに身勝手な申し出をリリー様がピシャリとお断りなされたと聞いて胸のすく思いでございます」
「もうお会いする事はないわ」
「ダン様の申し付けにより、コアトレーニン様は門より先にお通しする事はございません」
「それは良かった。婚約者のいる殿方と密会しているなんて噂が立っても困るもの」
「常勝騎士様の人気を考えるとそのご心配はご尤もです。しかし、兄上様といえダン様の寝室に押しかけるのも関心しませんぞ」
「ごめんなさい。兄様が心配だったの。兄様にも叱られました。次からは気をつけるわ」
「よろしくお願いします」
アンドレは深々と一礼した。
執事アンドレとメイド長アンリは幼少の頃からの付き合いで頭が上がらない数少ない私達の家族だ。
ふう、やっぱりアンドレに怒られたわ。
私は自室に戻ってくると先ずは再びネグリジェに着替え、ベッドに入る。
そして兄様との熱い抱擁とキスを思い出す。
<きゃーーーー! 私、兄様とキキキ、キスを>
恥ずかしさのあまり、ベッドを転げまわる。
暫く転がって落ち着くと兄様と話し合った事を思い出す。
先ずは私がコアトレーニン様と婚約していて婚約破棄されたという噂が沈静化するのを待つことにした。
今、私と兄様の関係は恋仲ではあるけどキス止まり。
しかしそれ以上の仲になると家中に隠し通すことが難しい。
家中から出た噂は直ぐに外に漏れるだろう。
そして、その噂は婚約破棄の噂と結びつくと思われる。
実の兄妹で爛れた関係にあるので婚約破棄となった。
こんな噂は百害あって一利なしだ。
アイリはまだ中等位とはいえ、聖女選考に影響する可能性も有る。
だから時が熟すまでは、表向きは今まで通りに兄と妹として過ごす事で意見が一致している。
アイリの事も考えてくれる兄様が私は好き。
今まで通りと言ってもきっと妹分の補給の時間は2人の甘い時間になるのだろうと思う。
私もその時間だけは兄様に甘えていたい。
ただ一線は超えてしまわないようにだけは気をつけたい。
アイリの為、兄様との明るい未来のため。
兄様との未来。
そんな事を考える様になるなんて、王都に来たばかりの頃は思いもしなかった。
今はその事を思わずにはいられない。
私と兄様は兄妹でつまり近親。
近親婚は法で禁止されていないし、前例もある。
しかし倫理的にタブーとされている。
その事について、私は私も知らない自身の秘密に活路が有ると思っている。
私は力を使い、私自身を鑑定した。
鑑定結果が目の前の何も無い空間に表示されている。
リリエナスタ・ユニスリー
年齢:18
性別:女
ユニスリー辺境伯令嬢。
読み取れる情報はコレだけだった。
あとは色々書いてあるけど、何語で書かれているのか判らず読めないのだ。
この事が示すのは、私にはやはり何か秘密が有るということ。
以前、兄様の騎士学校時代の先輩さんに兄様と似ていないし、銀髪はこの国では珍しいと言われた。
秘密が出生に関してなのかは判らない。
でも出世に関して秘密が有るなら、その事を知っている人物はお父様とお母様だ。
教えてくれないかもしれないけど、私の予想が当たっていればもう一人知っているだろう人物に心当たりが有る。
そのヒントは従姉妹のルーミラ姉様が幼少時、私に言った言葉に隠されていた。
私は恐らく兄様と近親ではないと思っている。
1回目の人生で、近親がひかれ合わないように父や兄の匂いを嫌う様遺伝子に組み込まれていると聞いたことが有る。
しかし、私は兄様の匂いが好き。
兄様の胸に顔を埋めている時、兄様の匂いにうっとりしてしまう。
だとすれば、私の遺伝子は兄様を受け入れている事になる。
でも取り敢えずその確認は後日にしようと思う。
最初にやることは決まっていた。
明日、久しぶりに学園に行くつもりである。
先程兄様と話し合った中で願いし、明日はお休みを貰ったのだ。
兄様には理由と目的を言ってある。
愛する兄様に秘密を作りたくないから。
万が一の時アイリを守る一助になればと思い、あるモノを作るために学園を利用させて貰うのだ。
私が学園を去るのを惜しんでくれた学長様なら話にのってくれる可能性はある。
やっぱ、アイドルといえばファンクラブがないとね。
翌日、私は聖女学園を訪れた。
本来学園は関係者以外立入禁止なのだけど、門衛さんが私の事を覚えていて、学長様に取次をしてくれた。
学長様も直ぐに私の面会申込みを受けてくれた。
学長様は私の噂話が嘘である事を知っておられた。
聞けば、学長様の兄上様は王宮の文官だという。
貴族の戸籍管理の担当で婚約関係の記録管理もしていた。
学長様は私の事を気にかけ、その兄上様よりこっそり教えて貰ったのだという。
だから私とコアトレーニン様が婚約関係にあった事実は無いと知っていたのだった。
学長様には勝手に調べた事を謝られたが、私は笑ってその謝罪を受け入れた。
私が学長様に面会を申し入れたのは、無償でいいので臨時講師として使ってもらう為だった。
正式な授業の受け持ちではなく補習や幼年位の復習を受け持つつもりだった。
目的達成の為の手段ではあるけど、今年は幼年位補習を見てあげれなかったので気にもなっていたのだ。
学長様は、理事会で議題として取り上げると約束してくれた。
恐らく許可されるだろうとも仰ってくれた。
私には前例と実績があり、更に私は去年正式に教職員資格を得ていたからである。
こんな事もあろうかと取っておいて良かった。
なんと3日後に許可がでて、週に2回 朝連時間を使っての幼年位復習の講座と、必要に応じて中等位、高等位の補習講座を夕方受け持つ事になった。
愛しい兄様の手伝いの方もきちんとこなすつもりである。
そして学園内でアイリ達に会えるようになり、アイリも大層喜んでくれた。
学長様に臨時講師の件を申し入れした日より1ヶ月足らずで私はSFALDのファンクラブ結成という目的をこっそり果たしていた。
ハッキリ言って簡単だった。
シャルとアイリの歌とその音楽性は生徒達を完全に魅了していたのだ。
ファンクラブの発起人は私では無い。
熱烈なファンを探し、援助とアドバイスをしただけである。
ファンクラブの存在は、派閥化して害になるかもしれないけど、アイリと仲間意識を持ってくれるだろう。
アイリ達、SFALDメンバーにはファンクラブの存在を認めてもらった。
アイリは恥ずかしがったけど、シャルはその有効性を直ぐに理解してくれた。
彼女たちの情報を発信、拡散させるにはファンクラブは都合がいい。
ファンクラブにとってもいち早く、情報を得られるのは嬉しいことだろう。
更にコンサートのファンクラブ枠を作ることも提案した。
SFALDの活動に関しては、シャルの関係もあり学園や王宮も関与しているのでそちらを交えて話し合うつもりでいる。
この世界にアイドル文化を広める。
それはアイリが聖女になる為の実績となってくれるはずだ。
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