13話 無敗の貴公子
ユニスリー辺境伯家嫡男、ダンベルハワー・ユニスリーが騎士養成学校を無事卒業した。
通常の高等位の学校は3年。
留年がなければ、成人する18才で卒業になる。
しかし騎士養成学校は中等位3年、高等位3年のあと、従騎士として2年の学業と実務がある。
従騎士位2年の後、正式に騎士に叙任される者、されないものがいるが最低でも従騎士位が与えられる。
さて、冒頭のナレーションの通り、僕は騎士養成学校を卒業した。
ただし残念なことに『主席で』が抜けている。
僕は正式に騎士になり、王宮の騎士団に入団することになった。
僕が父上の跡を継ぐまでの間は騎士団にいることになるだろう。
入れ違いで今年からアイリが聖女養成学校に入学する。
騎士養成学校と聖女養成学校(聖女学園)は同じ敷地内にある。
従って、騎士養成学校の在学生は聖女学園の女子たちに興味津々だ。
ただ、聖女学園は貴族の令嬢が多い。
従って婚約者のいる者も多いため、
決闘沙汰になることがしばしばあった。
今日、僕は決闘しなければならない。
迷惑なことだが、僕は大変モテるので仕方がないことでもある。
僕の名誉の為に言っておくが、僕の方から言い寄ったことなど一度もない。
向こうからやってくるのだ。
「ダンベル 貴様も大変だな」
話かけて来たのは、リッシルト家嫡男コアトレーニン。
リッシルト家は王国3大公爵家の1つだ。
「トレーニか。仕方ががないさ。僕の方から話しかけたことは一度も無いんだけどね」
トレーニとは養成学校よりの付き合いで、お互い騎士団に入団し、配属部署も同じの腐れ縁だ。
「それで今日の相手は、バンプアか」
「彼が相手では張り合いがないけどね。彼の婚約者が誰なのかも僕は知らないよ。どちらにせよ一昨日の舞踏会で乞われて一緒に踊った
「モテ男は辛いな」
「君に言われるのは心外だな。君だって明日決闘だろう?」
「まあ、そうなんだが」
「君はそういえば婚約者がいないね。君の家では許されるのかい?」
「そんな訳ないだろう!毎日のように言われるさ。だが、心を揺さぶられるようなご令嬢がいなくてな。そういうお前はどうなんだ?」
「似たようなものさ。嫡男の辛いところだね」
僕は妹以外に興味が無い。とは言えなかった。
トレーニににでさえ、秘密にしている。
「いっそ、お前のご自慢の妹を紹介してくれ」
「……たしかに今年、末の妹のアイリが聖女学園に入学するけど
12才だよ? いささか年が離れすぎていないかい?」
トレーニは白い目でこちらを見ている。
「分っていて言っているだろ。長女のご麗人の方を紹介してほしいんだが? 辺境伯領から出てこないが10才で高等位を修了した美しい才女との噂だろ」
「その通りだけど……リリーはダメだ!」
僕らしくないとは思ったけど、それ以外の言葉が出てこなかった。
「プッくく、面白いものが見れたな。冗談だ」
「笑えない」
「緊張は解けたか? 決闘前の緊張をほぐしてやったんだ。友情に感謝してくれ」
「緊張なんて最初からしてないけど友情に感謝するよ。じゃあ、そろそろ行ってくる」
僕は馬に跨り、騎乗槍を持つ。
「頑張れよ! 無敗の貴公子様。後ろで見ててやる」
「了解。常勝騎士殿も明日は頑張ってくれ」
「ふん。また後で控室でな」
さぁ、相手の実力はともかく、僕に決闘を挑む心意気は称賛に値する。
その点に敬意を払い全力でお相手しよう。
僕は決闘の場である馬上槍試合の闘技場内に馬を進めた。
決闘は闘技場の試合の一環として行うルールなっている。
決闘自体は騎士の名誉を守る伝統として、王国の法律では禁止されていない。
しかし、闘技場でのみ許され、それ以外は私闘とみなされ処罰の対象になる。
僕は馬上槍試合では父上の記録には遠く及ばないが、現在54勝無敗の記録を持っている。
今日で55勝になるだろう。
僕の愛馬も優秀だ。
闘技場に黄色い歓声が上がる。
やれやれ、いつ聞きつけたのやら。
僕の華麗なる勝利を見るために多くのレディー達が押しかけてきている。
僕は手を振って観衆の声援に応える。
人気者の辛いところだ。
そろそろ決闘の相手バンプア君が来る頃だね。
数分も待たずに彼らは出てきた。
そう、彼等だった。
「待たせたな。たしか人数指定はしてないよな」
「してないね」
と端的に答えた。
観衆からはブーイングだ。
おおよそ正々堂々とは言えない美しくないやり方だからね。
僕は決闘に望む際は戦う前に妹たちがくれたお守りに勝利を誓う。
僕の女神達の加護があれば負けることなどあり得ない。
例え相手が5人がかりでもね。
その時だった。
「お兄様頑張って!」
美しい声が聞こえた。
観衆の声援の中の一つの声だ。
しかし僕の妹イヤーは聞き逃すことはない。
アイリだ。
アイリの声援だ。
なんて美しい声なんだ!
俄然やる気が出てきた。
僕は声のした方に馬の向きを変え懸命にアイリを探す。
<いた!もう王都に着いたのか>
僕の妹アイ(愛)がアイリを捕らえた。
アイリが僕を応援してくれている。
おや?アイリの後ろ隣に見慣れないメイドがいるね。
新しく雇ったのかな。
しかし、メイドらしくない気品が……
<リリー? ……リリーだ! リリーがメイド服を!! そういうことか、リリーがアイリ付きのメイドとして王都に来たんだ!!
リリーならあり得る!!!>
いい!リリーのメイドコス!
ヤバい! 萌える!!
いい! いい! イイぞ!
イイぞイイぞイイぞイイぞイイぞ最高だ!!
メイドコスのリリー!
素晴らしい!素晴らしい!!!!
僕は勝つ。勝つぞ!!
リリーが見ている
リリーが冷たい目で僕を見ている!!
あの目、あの凍てつく視線!
ゾクゾクする!
最高だ!!!!
キタ! キタキタキタ!来たぞ! この感覚!!
僕はこの勝利を リリーに捧げる!!!
「どこを見ている!」
興ざめな声が聞こえた。
僕は萌え荒ぶる心を悟られない様にあくまで冷静に振る舞う。
「観衆の中に知り合いがいてね。済まない」
「この人数相手に余裕じゃないか?」
「今の僕は手加減できそうにない。殺してしまったら申し訳ないから先に謝っておくよ」
「なんだと!」
「もう言葉は無粋だよ。始めようじゃないか」
「二度と見られない面にしてやる!」
お互いに所定の位置につく。
そして、開始を告げるラッパが吹き鳴らされた。
僕は、闘志を全開にする。
久々の超兄様モードだ!
これを見せるのは王都に来てからは2回目。
1回目はトレーニとの非公式の試合でだった。
最初アイツは僕のリリーを本人の前ではないとはいえ、侮辱したのだった。
決闘後それは誤解と知り、それからは意気投合した。
さあ さっさと終わらせよう。
妹たちに会いたいじゃないか。
馬を迷いなく一色線にバンプア君目指して進ませる。
かなり速度を上げたがまだ遅い。
ただ彼らはこの速度に驚き、焦っているね
誰も馬を走らせずにいる。
こちらが全力疾走だからかな?
でもこのまま静止してたんじゃ
タダの的だし当たればタダでは済まないよ?
決闘に臨んだんだ。当然覚悟は出来ているよね。
「ひぃ! 狂ってる!」
こともあろうかバンプア君は槍を捨て、馬から降りて走って逃げ出した。
これには彼の仲間も呆れた様だ。
はっきり言って僕も興醒めだよ。
せっかくの超兄様モードが勿体ないじゃないか。
僕は速度を落とし、唖然としている他の4人の脇を悠然と素通りした。
そして、バンプア君に簡単に追いつくと、騎乗槍で彼の頭をコツンと叩いた。
必死に走っていた彼は僕が背後から来たことにも気づかず、頭を叩かれると転んだ。
僕は彼の横に馬を止め、起き上がろうとした彼に槍先を突きつける。
「ひい!!」
「降参でいいのかな?」
「降参する! だから命だけは!」
「はぁ、わかった。では去ってくれないか」
「わかった!」
バンプア君は仲間も馬も置き去りにして走って闘技場から逃げ出した。
観衆も失笑だ。
彼の仲間たちもこれでは可哀想だな。
ご丁寧に盾に紋章がついているからどこの家の者か判ってしまうし、闘技場に名前も結果も記録されてしまっている。
すぐに結果が貼り出されるだろう。
決闘の助太刀を頼まれたとして、普通なら勝っても負けても不名誉なので断るのだけどね。
だから、騙されてこの場に来たんじゃないかな?
多数vs多数の決闘だということでね。
もう王都を胸を張って歩けないだろう。
哀れだが仕方がないね。
それにバンプア君はもっと哀れだ。
きっと婚約も解消になるだろうし、今後、新たな婚約相手も現れないだろう。
王都にもいられないだろうね。
手を振り、観客達の黄色い歓声に応えながら僕も闘技場を後にした。
「あれは反則じゃないか?」
控室に戻って来た僕に対するトレーニの第一声がこれだった。
「確かに勿体なかったね」
と返した。
着替えて控室から出ようとすると控室のドアがノックされた。
「どうぞ」
許可を出すと入って来たのはアイリだった。
「お兄様、勝利おめでとうございます。かっこよかったです」
「アイリ!、もう王都に来たんだね。しばらく見ない内に大きくなって。見違えたよ」
「失礼します」
続いて入ってきたメイド姿のリリー。
イイ! 完璧だ! 完璧なメイドコスだ!
それにリリーが入ってきた瞬間、部屋の空気が変わった気がする。
なんと言うか清浄に、そしていい匂いが漂って来るのだ。
「お久しぶりです」
「ああ、綺麗になったね」
「アイリ様がどうしても会いたいと申されまして。出待ちしようと思ったのですが」
「ああ外は女性が一杯だろうね」
「おモテになるのですね」
「そんなことは……」
僕はそれ以上の言葉が出なかった。
それほどにリリーは美しく、なんというかオーラが違うのである。
相変わらずリリーの僕を見る瞳は冷たい。
だがそれがイイ!
<それにこれはメイドプレイ 、メイドプレイなのか?>
そして、リリーの美しさとメイドプレイの初々しさに気を取られる余り、リリーを見つめるトレーニの感じがいつもと違うことに、僕はこの時気づかなかった。
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