6話 私の兄様は変態しました 1

 私が中等位の試験を合格してから季節は移り変わり、今年も春を迎えようとしている。

 春といえば、卒業、そして入学のシーズン。


 兄様は無事に難関中の難関、騎士養成学校の入学試験に合格した。

 兄様が実力を100%出せば当然の結果だと思う。

 以前に兄様は騎士養成学校に強制入校させられるなんて軽々しく言ったが、実際はそんな簡単な試験では無い。

 あれは兄様のカッコつけだと思われる。

 兄様は、すごく努力していたし、必死だったのを知っている。

 だからということではないが、遺憾ながら私も兄様を全力でサポートをした。


 ユニスリーは武門の家、その跡継ぎたるもの騎士養成学校に入るのは当然の事であり、それ以外の選択肢は無い。

 だから、もし兄様が不合格だったりすると来年まで浪人ということになり、この家に留まる事になる。

 それは大変ひじょーーーに!都合が悪い!!

 兄様も私に大見得切っているので格好がつかないだろう。(まぁそれはどうでもいいけど。)


 私は無事兄様を追い出すために最大限の努力と、それはもう涙ぐましいまでの忍耐をしたのだ。

 毎日の妹分の補充を1.5倍増にし、そしてなんと甘ーい声色で応援メッセージも入れた。(この部分がなみだぐましいまで忍耐部分)


「兄様、試験頑張って!(そして早く出ていってね♡)」


 試験の為に王都に向かう前日には更に必勝祈願お守りを作り、兄様に手渡した。(この部分が最大限の努力部分)

 お守りには私とアイリの髪を切って入れてある。

 よくわからないが、兄様のいうところの妹分が充満しているはずだ。

 兄様は、言ってないのに、私達の香りがする!と、髪が入っているのに気付き、涙を流して感動した。

 正直ドン引きだ。

 恐ろしいまでの妹愛の強さである。

 そして感動のあまりか、シスコン故かたぶん両方だと思うけど、変な事を言い出した。

 自分が当主になったらこのお守りは家宝にする、と。

 私が、恥ずかしいわ、やめてね?、とやんわり冷たい目で釘をさすと、とたんにションボリした。

 微塵にも同情心がわかないのはシスコンの兄を持つ妹として正しい事だと思う。


 ダメ押しに試験当日には 力を使い、兄様が100%の力を発揮出来るように願ったりもした。

 あくまでも100%というところは力説しておきたい。

 それ以上は、他の受験者に不公平だよね。


 そして私の努力と忍耐の甲斐もあり、兄様は明日王都に出立する。

 妹分の補充任務も明日が最後である。

感慨深くも、名残惜しさも全く無く、素直に嬉しいのみ。

明後日からは清々しい朝を相変わらず愛らしいアイリと共に過ごせるだろう。

そんな日の朝の食事中でのこと。


「ダンベル、今日が最後の稽古になるな」


「はい、父上。 今日こそ、今日こそユニスリーの名に賭けてマッスール騎士長より一本取ってみせます」


「うむ、よい心がけだ。男には成し遂げねば成らぬ時がある。

マッスールは強い。が成し遂げるのだ!」


 私はまだスポ魂やってたんだなーと興味も無く聞き流していたが、アイリは目を輝かせていた。


「おにーちゃま がんばって! アイリもおうえんちにいくね!」(応援しに行くね)


 なんですと!

 アイリが行くと言うのであれば、私は地獄でも行く用意がありますとも。

 それが例え男の汗にまみれた、男濃度の高い場所であっても。


 みれば、兄様の目尻はすごく下がっている。

 だらしのない顔である。


「アイリが応援してくれるなら、僕は絶対に負けないよ」


「アイリ、父様も応援してくれ」


「アイリちゃん、母様も応戦して頂戴ね」


 父様と母様に申し上げたい。

 お二人は何を応援してほしいのでしょうか?


「うん! とーちゃまとかーちゃまもおうえんちゅる!」(父様と母様も応援する)


「おねーちゃまもいっちょにおうえんちよ?」(一緒に応援しよ?)


 ガーン! 私には応援してくれないのね。

 一瞬ショックを受たが、アイリは私に一番親しみを持ってくれている。 

 だから一緒に応援してとお願いしてきたのだ、と気付く。

 一気に優越感が込み上げる。


「ええ!お姉ちゃんとても嬉しいわ。一緒に応援しましょう」


「うん!」


「リリーも応援してくれるのか!」


「リリーさんお願いね!」


 だからお二人に申し上げたい。

 何を応援してほしいのでしょう?


「リリー・・・・僕はやるぞ!やってやるぞ!」


 えー!何を?

 兄様の張り切り様が異常である。

 いえ、兄様はいつも変だけど、いつも以上に興奮していて、ヤバい人になっている。

 危険だ。


 後ろでメイドのヘレンが涙を流していた。


「いつもながら美しい兄妹愛ですわ」


 ヘレン、あなた頭を冷やしたほうがいいわよ?

 とは言えない私だった。

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