4話 私は姉の存在意義を語る
私はアイリと手をつないで食堂に入る。
テーブルには父様、母様、兄様が既に座って私達を持っていた。
「おはよう御座います」
「おはようごぢゃいまちゅ」
二人で挨拶をする。
アイリは挨拶も可愛い。
「お早う。リリー、アイリ」
「お早うございます、リリーさん、アイリちゃん」
「お早う、僕の可愛いシスター達」
<キザ兄様ウザ!>
「アイリちゃん、おいで。一緒に食べましょう」
「はーい、おかあちゃま」
アイリは今日も母様の膝の上にのせてもらって、一緒に食事をする。
「奥様、今日もそのような!はしたない行動は慎んでください」
メイド長のアンリが小声で母様に耳打ちする。
「いいのよ。ここは家族団らんの場なのよ?」
この家族は朝と夕は家族で食事を摂る。
この雰囲気は畳にちゃぶ台、和気あいあいと会話しながら食事を楽しむほうが似合いそう。
昭和の日本みたいな雰囲気で私も好きだったりする。
おおそよ私の持っている貴族の食事のイメージとまるで違っている。
前の人生では王宮に聖女として招かれて高待遇な生活をしていたけど食事は一人だった。
その時よりは、質も味も劣るのだけど、今の生活の方が食事が美味しいと思う。
最初の人生なんかは、食事は仕事場で仕事をしながら10秒チャージのゼリー飲料だったり、シリアルバーだった。
意識は仕事に向いていて、記憶にも残らない食事ばかりだった。
<そう考えると、今の生活は幸せよね>
食事と会話を楽しんで、食後のミルクティーを楽しむ。
「ダンベル、今日は稽古の日だったか?」
「はい父上。騎士養成学校にいくまでには一本取れるようになりますよ」
「ははは、その意気だ。だが、マッスールは強いぞ」
マッスールは父様に仕える騎士長で剣の腕は家中随一。
<うぷぷ!ダンベルとマッスル。いいコンビだ!>
いつ聞いても慣れない組み合わせ。
「そうだ、リリーは今日は試験だったな」
急に振られ、少し焦る。
「はい、合格すれば中等位は修了です。父様」
この世界で学業は王族、貴族、富裕層の為のもの。
12才未満の幼年位に学校はないから家庭教師をつけて学ぶ。(幼年位に修了試験は無い)
12歳から3年間の中等位、15歳から3年間の高等位の学校が王都にあり、それぞれ修了試験に合格することが貴族には義務付けられている。
この国では18歳の成人だけど、12〜18歳まで王都の学生寮暮らしをするのが一般的だ。
しかし私は前世をこの国で80歳まで生きた。
聖女になってから、スパルタで貴族並の知識や礼儀作法を叩き込まれたのだ。
王宮仕えに聖女として、いろいろな貴人に会う必要があるのだから当然だけど、元は町娘の私はたいそう苦労した。
今はいい思い出?だけどその知識や経験は今の私にも受け継がれている。
見た目は幼女、頭脳は大人、10歳までに高等位修了なんて朝飯前なのだ。
とはいえ、専門知識を学ぶ大学までは行こうとは思わない。
私にも思惑がある。
ちなみに兄様が行く騎士養成学校は、中高一貫の騎士になる為の学校だ。
人気があるので入校倍率は定員に対し、毎年100倍を超える。
兄様はシスコンというマイナス点を除けば、強いし、頭も良いので問題はないと思う。
「アイリはどうするのかな?」
父様が相好を崩してアイリに話しかける。
「おべんきょうちて、おねーちゃまにごほんよんでもらうの!」
「ほう!それは良かったな」
「お姉ちゃん、すぐに試験終らせるから、一杯ご本読んであげるわね」
「うん!」
「リリーさん、お願いね」
「僕が読んであげてもいいんだよ?」
「おねーちゃまがいい!」
どよーんと気落ちするお兄様。
<ふ! 兄様勝負あったわね。一生落ち込むといいわ>
こうして、暖かい朝の団らんはお開きとなったのだった。
今日はアイリにご本を読む約束をした。
だから試験は早く済ませないと。
実は、こんな事もあろうかと前もって父様に頼みこんで、試験官の方には昨日中に当家に来て頂き、貴賓室でお泊り頂いてもらっていたのだ。
だから、すぐにでも試験は始められる。
私は、筆記試験が始まると、速攻で試験を片付けた。
こんなのは力を使うまでもない。ノープロブレムだ。
次の口述試験でもスラスラと答え、お昼を待たずにして試験に合格した。
私は試験が終わると試験管に優雅に礼をして部屋を出ると、急ぎアイリの元に向かう。
そして、アイリのお勉強をみたり、ご本を読んだり、
一緒にお昼寝したり(私は寝ないでずっと寝顔を見てたけど)有意義な一日を過ごした。
今日もアイリと入浴し、母様と一緒にアイリを寝かしつけ、自室に戻る。
そこで、メイド長のアンリに会った。
「アンリ、遅くまでご苦労さま」
アンリは一礼して答える。
「では、おやすみなさい」
そこで会話は終わらなかった。
「リリー様」
「あら、どうかしたの?」
アンリに呼び止められるなんて珍しい事もあるものだ。
「アイリ様をあまり甘やかさないで下さい。このままでは、我儘に育ってしまいます。お姉上として、毅然として頂けないでしょうか?」
「アイリはとてもいい子よ?甘やかしても、甘やかさなくても、あの子は優しく育つわ」
「そんなことはございません。今が我慢を覚える大事な時なのです。いま躾をしっかりしないと可哀想なのはアイリ様なのですよ?」
「で、何故私に?躾は親の責任だと思うのだけど」
「リリー様が一番甘やかすからです」
「姉という存在は、妹を甘やかす為に存在しているの。だから私はアイリを可愛がって、甘やかして、慈しむわ」
「!」
一瞬、絶句するアンリ。すぐに立ち直って口を開く。
「そんな常識は御座いません!」
「私にとっての常識なの。でもアンリありがとう。アイリを心配してくれて。私は嬉しいわ。アンリがいるから私は安心してアイリを甘やかせるのよ」
「リリー様…わかりました今日のところは引き下がります」
「お手柔らかにね?」
心なしかアンリもうっすら笑みを浮かべている様に見えた。
そんなことがあった真夜中の事。
「!」
私は虫の知らせか、飛び起きた。
アイリが夜泣きしそうな気がする!!
アイリが夜中に起き、怖くて泣くとか、アイリが悲しむことが無い様に力を使い、夜泣きする前に虫の知らせで知らせる様にしているのだ。
私は力を使い即座に転移する。
直接部屋に移動すると、却って怖がらせるかもしれないので部屋の近くの廊下に転移した。
こんな夜中に廊下を彷徨く者もいないだろう。
静かにアイリの部屋に入る。
当然力を使い音を消すのも忘れてはいない。
アイリの隣に座るとアイリはまだ起きてはいない。
間に合ったようだ。
1分と経たない内にアイリは目を開けた。
アイリは半身をお越し周囲を見渡す。
薄明かりにアイリと目が合った。
「おねーちゃまー!」
「アイリ怖い夢でもみたの?」
「うん!」
私はアイリを抱きしめ、背中を優しくポンポンする。
「よしよし、大丈夫。お姉ちゃんが一緒にいるわ」
「おねーちゃま いっちょにおトイレいってー」
「ええ、もちろん。手をつないで一緒に行きましょう。そしたら怖くないわよ」
「うん」
そうして アイリのトイレを済ませて寝室に戻ってくる。
「おねーちゃま、いっちょにねよ」
「もちろんよ。一緒に寝ましょう」
<ふふふ! アイリと一緒に寝る!>
「おうた うたって」
「ええ、恥ずかしいけど歌うわね」
「うん!」
「ねんねんころりよ〜ねころりよ〜♪」
しばらく歌っていると、スースーと寝息が聞こえ始めた。
こんなこともあろうかとこっそり練習しといて良かった。
<夜、アイリと二人きり! 私寝れるかしら?>
こうして二人の夜が更けていく。
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