2話 私は勝たねばならない

 『人生とは戦いの連続だ』とは誰の言葉だったか?

 私は今、決して負ける事ができない戦いの最中にある。

 部屋には父様、母様、兄様、私、そして私の可愛い妹。

 家族全員揃っている。

 妹はベビーベッドに寝かされている。

 まだ生後間もなく首もすわってないから、私はまだ抱っこさせてもらっていない。

 私はベビーベッドの横に椅子運び、椅子をよじ登って妹を見つめる。

 ベッドに寝かされてる妹は実に可愛い。

 満足だ。


 家族が揃って何をしているかというと、現在ユニスリー家の家族会議の真っ最中。

 議題はズバリ妹の名前について。

 この戦いを制すれば私は妹の名付け親になれる。

 そう、この私が、可愛い可愛いの妹の名前を。

 ふふ、ふふふ。


 しかし、それはここにいる誰もが狙っている。

 特に兄様には負ける訳にはいかない。

 もし兄様の考えた名前に決まってしまったら、妹は名前を呼ばれる度に兄に侵されてしまうのだ。

 それだけは、それだけは阻止せねば、妹が可哀相すぎる。


 しかし、父様は変わった人だなと思う。

 普通は貴族家の当主として命名権を行使するもの。

 家族会議で決めるなんて民主的なことをするのは、この世界では普通はありえない。


 今日の家族会議に至ったのは以下の事情があった。

 兄様の名前は父様が命名した。

 私の名前は母様が命名した。

 そこで今回、妹の名前を最初は父様と母様で候補を出し合ったけど、互いに譲らずとなった。


 そこで私達、兄妹を巻き込み味方につけようとしている。

 3対1になれば 納得するしか無いだろうと。

 しかし、父様も母様も兄様と私が命名を虎視眈々と狙っていることを知らない。

 この展開は神が私に与えてくれた最大のチャンス。


 ちなみに兄様の名前は ダンベルハワー。

 トンヌラと迷った上でダンベルハワーになったという。

 トンヌラについては何も言うまい。

 ダンベルハワー、ダンベルハワー、ダンベルパワー!

 ぶふ!何度考えても笑ってしまう。

 父様のセンスに驚かされる。

 兄様は中身は重度のシスコンだが、外見は美少年。

 なのにダンベルパワー!

 どうしてもムキムキマッチョの兄様を思い浮かべてしまう。

 やめて、父様、私を笑い死にさせないで。

 私は顔には出さずに必死に堪える。

 兄様は皆にダンベルと呼ばれるが、そう呼ばれるのを兄様は好きではない様だった。

 私は笑ってしまうから、兄様 もしくは ダン兄様と呼ぶ。

 私の名前をつけてくれたのが母様でよかった。

 神様ありがとう。


 父がプレゼンを開始した。


「二人とも聞いてくれ。この子の名前はアンナミラーなんてどうだろう?」


 どうだろうじゃない!

 ズを抜いただけじゃん、とは言えないけど、父様のセンスは狙っているのかと言いたいくらいにヒドイ。


 兄様はまんざらでも無い様子だが、母様はドン引きの様子。


 ん?


 この状況にちょっと違和感を覚える。

 まあいい、この案は却下。


 私は力を使うことにした。

 軽く祈る。

 するとどうだ。

 家族皆の頭上にゲージが浮かび上がっている。

 これは、提案に対する皆の好感度をを示すゲージ。

 私の願いを叶える力はこんな事も出来るのだ、えっへん。


 父様の提案に対し、父様のゲージは赤色でゲージMAX。

 本気だこの人、マジか!


 兄様のゲージは赤色で60%くらい。

 割と気に入った模様。

 すこし頬が赤い。変態め!


 母様のゲージは私と同じく、青色でゲージMAX。

 心底嫌いのようだ。

 母様は何でこの名前を気に入らないんだろう?

 きっと母様が考える案があるからだなと思い直す。


「父様、センシュ無いです」

(センス無いですと言っているつもり)


 とりあえず一蹴する。


「そうかい?」


 父様は整った口ひげをなでた。


「貴方のセンスはヒドイわ。この娘の名前はミリーシアタがいいと思うの」


「リリーとミリーじゃ、ややこしいよ!」


 兄様が母様の案にケチをつけた。

 私の愛称がリリーなので、確かにややこしい。


「そうかしら?」


「僕も考えてみたんだ。言っていい?」


 兄様が私より先に仕掛けた。

 ヤラレタ!

 しかしここは私も便乗しよう。


「アタチもー」(私もー)


「そうだな、二人とも言ってごらん」


 父様が許可する。

 やった!チャンス到来。


「僕はヒナがいい!ピナたんと呼びたい」


 なんですと!

 私は衝撃を受けた。


 ピナたん!

  

 ピナたん、ピナたん。


 やばい私も呼びたい!

 私が徹夜で考えたテディよりイイ!!


 頭上を見上げると 私のゲージは赤で80%くらいだ。

 ぐふ! 兄様の分際でここまで私の好みに寄せて来るとは!

 シスコン恐るべし!


 兄様のゲージは赤色でゲージを振り切っている。

 赤で200% 超本気だ!


 母様が赤で70%、父様も赤で90%と好感触の模様。

 ヤバい! このままでは決まってしまう。

 私の可愛い妹が兄様の毒牙に!


 私は祈った、私に命名の神様のお力を!

 その瞬間、私の神の啓示が降りた。


 我、天啓を得たり!


 さすがは神様、素晴らしい名前をありがとうございます。


「リリーの考えたお名前も聞かせて」


 母様が促す。


「アタチは アイリシュがいい。」(私はアイリスがいい)


「アイリスか!いいな」

「アイリス、可愛いわね」

「アイリス… アイリ… イイ!!(萌)」


 三者とも好感触だ。


 父様は赤で95%

 母様も赤で95%

 私は赤で100%

 兄様は赤で150%


 ふ! これが私の実力。


「うん! アイリスでいいかな?」


 父様が決を取る。

 賛成多数で妹の名前はアイリスに決まった。


 この瞬間、私は戦いに勝ったのだ。と思った。

 私が、この私が、可愛い可愛い妹の名付け親になった。

 人生最高の瞬間だった(現時点で)

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