こどもの国
威剣朔也
第1話 本物少年A
オレンジ色の光が灯る部屋の中、不意に宙に現れた女の人の立体映像から「ニュースの時間です」という声が聞こえた。その部屋にいた七歳の子供はごろりと寝がえりを打って、ベッドの中からその映像を見つめる。
「一度は収束したものの世界中で再び感染者を出し続けている、大人が子供になる病気――
立体映像で現れている女性キャスターはその病気に感染していないらしく、大人の姿を保っている。
「まだ起きていたのか」
「あ……お父さん、お母さん」
扉を開けて部屋に入ってきたのは、ベッドに寝転んでいた子供と同じぐらいの背格好をした少年と少女。彼らの左手の薬指には銀色に光るお揃いの指輪がはめられ、二人が結婚していることを明確に示していた。
「お父さんもお母さんも小児化・伝染病にかかったから子供の姿をしているの?」
ニュースで聞いたこと確認するように、子供は部屋に入ってきた小さな両親にそれを尋ねる。
「ああ、お前の言う通り父さんも母さんも小児化・伝染病にかかって子供の姿になったんだよ」
ベッドの中にいる子供の枕元に置かれてあった小さなボタンを押して、少年は宙に映っていた立体映像を消した。それから窓辺に寄ってカーテンを少し開けて外の風景を眺める。一方、少年と共に入ってきた少女は子供がいるベッドに腰かけて子供の頭を優しく撫でる。撫でられた子供は少女の姿をした母親に、「まだ眠たくないよ」という様にぱっちりと目を開かせ「でもこの病気、一回は収まったんだよね?」と尋ねた。
それを聞いた彼女は優しく微笑んで子供の頭に乗せていた手をくしゃくしゃと動かす。
「だけどこの世界には子供に戻りたいと思う人達が大勢いてね、子供になりたい大人たちは自らその病気にかかりにいってしまったの。そして一度は収まったこの病気も今度は世界的大流行にまでなってしまった……」
伏し目がちにそう語りながら、彼女は窓辺に寄った少年を見つめる。
「お父さんやお母さんは、子供になれて良かったって思う?」
「もちろんさ。そのおかげでこんな楽で自由な生活が出来るんだからね」
窓辺に居た少年は子供の方に振り返り、本当の少年が浮かべる笑顔によく似た笑みを見せる。ベッドに腰掛ける母親は「後悔はしてないわ」と大人の女性がよく見せる、悲しみを含んだ笑みを子供に向けた。
そうして彼らがベッドに寝転ぶ子供に「早くおやすみ」と声をかけて子供の部屋から出て行くと、残された子供は父親が開けっ放しにしていった窓の方を見つめた。外では、夜なのにも関わらず煌々とした明かりを灯らせる高い建物たちや大きな観覧車が、真っ暗な空のてっぺんで光る三日月にニヒヒといやらしく笑われていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます