第48話 ミステリー脳×チーム分け×探索開始

 降り出した雨が本格的に強くなり始める。強風に煽られた雨粒が窓を激しく打ち鳴らし、曇天の空から稲光が走ると、耳をつんざく雷鳴が轟く。稲光に照らされた庭の木々が影となって館内に姿を現す。一本の幹に左右の枝のシルエットはまさしく影の怪物。木々の影とは知らずに脅えてしまうのも頷ける迫力だ。


 不気味な様相を呈する洋館に呼応したかの如く急変した天候によって館内に入った後も考えなしに行動することはせずにエントランスで一息吐く。各自の荷物とスーパーで購入した物をテーブルの周囲に一纏めで置き、机を囲むソファーに腰を下ろす者と近くの窓や壁に腰を掛ける。


 窓の傍を立ち位置とした那月は窓越しに外を見ていた。


「さっきまでの天気が嘘のように荒れ始めたわね」


 打ち付ける雨が滝のように窓を流れる。その様子に那月は頬を少し緩ませていた。せっかくの旅行を台無しにされたにも関わらず喜の感情を見せるのは単に形容し難い不穏な雰囲気に楽しんでいるから。生粋のミステリー好きというわけではないが、何事にも一定の刺激を求める性癖がここにきて全面に出ている。


 那月は窓から視線を外して皆の方に振り返った。胸の前で両腕を組み、壁に軽く背を預けながら上唇を吊り上げて細く笑う。


「ますます何か事件が起きそうでぞくぞくしてきたわ!」


 小刻みに体を震わせながら全身を使って感情を表現する。冷静沈着なイメージが強い普段の那月からは想像できない一面に陽すらも驚きを隠せない。


「ふ、不吉なこと言わないでくださいよ!」


 両腕をブンブンと振りながら憤りを見せたのは睦美だ。極度な怖がり屋ではない彼女だが、洋館が纏う雰囲気に呑み込まれて敏感になっている。身を縮こまらせてきょろきょろと忙しなく視線を周囲に配る様子からしても相当に恐怖に苛まれているようだ。


 睦美の姿に面々は肩を竦めながらも注意することなく優しく見守る。


「事件が起きそう云々は置いておくとして、洋館内を一通り見た方がよくないか? 外観からしても相当な広さがあるみたいだしな」


「初めて訪れた洋館で探索は鉄板ですからね!」


 ミステリー脳に侵されていたのは那月だけではなかった。クラリッサもテンション高めで陽の提案に賛成する。


「それでは二手に分かないといけませんね」


「え? どうしてですか? 一緒に周ればよくないですか?」


 睦美の疑問はごもっともだ。しかしながらミステリー脳に侵された那月たちは打ち合わせてしていたかのように同調して頭を左右に振った。


「二手に分かれて行動してこそミステリーです!」


「まったくその通りよ、睦美。大勢で移動していたら幽霊も殺人鬼も行動に移せないじゃない」


 探索の目的が別物にすり替わっていることに誰もツッコミを入れない。入れたところで那月たちの熱量に勝る説得が出来ないと踏んでいたからだ。


「では、意見も纏まったところでメンバーを決めましょうか!」


 いつ、どこで用意したのかわからないが、調は七本の割り箸を手に持っていた。先端に色を塗ることでくじの代用としている。


 それぞれ一本ずつ割り箸を掴んで一斉に引いた。色なしが三本に赤色が三本。そこに混じって半分だけ赤色が塗られた割り箸の一本がメンバーの手に渡った。半分だけ色塗りがされた割り箸を引いた哲哉は首を傾げる。


「それは荷物番さ。さすがに私たちしかいないとしても荷物を放置するのは不安だからね。それと電話番号も交換しておこう。トラブル時に連絡が取れないのは避けたい」


 調の言う通りに電話番号を交換していく。それからチーム分けしたメンバーで固まってリーダーを決める。


 チームA――那月・調・睦美。

 チームB――陽・クラリッサ・イゼッタ。


 各チームの先頭がリーダーである。捜索区画はチームAが一階で、チームBが二階だ。制限時間を一時間と設け、捜索が終了次第でエントランスに戻ること。


 簡単なルールを取り決めてから各チームは行動に移した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る