君は俺のことを好きでいてくれますか?
白狼
あなたのために
第1話 君のために
俺には好きな人がいた。
その子は、俺が幼い時からずっと一緒にいた女の子。優しい淡い黒い瞳、綺麗に伸びた黒髪、少しまるっとした顔、とても優しい子だったのが印象だ。
俺は、ずっとこのままこの子と一緒に過ごしていくんだろうと思っていた。
だが、そんなことはなかった。ずっと一緒に居られる状態が続くわけがなかった。
突然、親の離婚で俺が父親について行くことになった。妹は、母さんと共にここで暮らしていくらしい。
別れというのは突然だ。
女の子は、涙を拭くこともせずに別れようとする俺の服を引っ張り「行かないで」と懇願してくる。
だけど、俺は、その願いを叶えてやることは出来ない。子どもの俺は、なんと無力なことか。自分の無力差が恥ずかしい。ずっと一緒に居た女の子1人、笑顔にすることが出来ない。
俺は、弱い。ちっぽけな人間だ。
そう思ってくると俺も泣けてくる。
だけど、俺が泣くわけにはいかなかった。
泣きたい気持ちをぐっと堪えて涙の代わりに口を開けて言葉を発した。
「俺、強くなるから。………強くなってお前のところに迎えに行く。いつになるかは分からないけど……絶対に迎えに行く。約束するよ。」
俺は、震えた声でそう言った。
「………ぐず……ずっ……な、なら……迎えに来てくれたら………私と……結婚して?」
女の子は、泣きながら俺にそう尋ねた。
「ああ!もちろんっ!」
その時の俺は、好きな女の子相手に「結婚して」と言われてすごく嬉しかった。だから、大きく縦に首を振った。
女の子は、そんな俺を見て嬉しくなったのかようやく涙を服で拭って笑顔になった。
「やっぱり、お前、笑顔の方が可愛いぞ。」
子どもの俺は、そんなことを恥ずかしげもなく女の子に伝える。
「なら、今度会う時は笑顔で会おうね!」
女の子は、笑顔を崩さないままそう言った。
「………じゃあね。絶対に迎えに行くから。」
「………うん!待ってる!」
女の子は、笑顔で別れの挨拶を告げてもやっぱり寂しいのか、握った俺の服を離さない。
さすがに父さんをこれ以上待たせるのはまずいと思った俺は、女の子の背中を優しく自分の体に引き寄せた。
そして、お互いの顔の距離が鼻と鼻が当たりそうなところくらいになると俺は、ゆっくりと口を開く。
「………大好きだよ、ゆっちゃん。」
俺は、いつも呼んでいる女の子の名前と共に愛の告白を言ってさらに顔を近づける。
そして、お互いの唇が優しく触れ合う。女の子の唇の味は、涙のせいで少ししょっぱかった。
そのキスは、一瞬だった。子どものキスなんてこんなものだ。大人のようなキスなんて想像がつかない。だけど、子どもの俺たちにとってそのキスは、約束を守ると言う意思表示には十分だった。
「……忘れるなよ、俺のこと。」
「うんっ!絶対に忘れない!だから、けーちゃんも忘れないでね?」
「ああ、忘れないよ。」
俺たちは、そう言うとようやく離れた。
そして、俺がこれから引越し先に向かう車まで行き、少し手前でゆっくりと後ろを振り向き笑顔で手を振った。
「バイバイ!」
「うんっ!バイバイ!」
女の子も笑顔で手を振った。
俺は、その返事を聞いてから車にゆっくりと乗り、窓から見える女の子の顔をずっと見ていた。女の子は、車が見えなくなるまで手を振っていてくれた。俺もそれに応えずっと手を振っていた。
だが、女の子が見えなくなるとさすがに手を振ることをやめた。
すると、そこでずっと黙って俺たちのやり取りを見ていた父さんが口を開けて
「悪いな、こんな思いをさせて。………約束……守ってやれよ。」
「…………うん………」
俺は、父さんの言葉に小さく返事を返しただけだった。その後、別に何も話すことはなく、父さんの実家に着いた。
それから数年間、俺は、父さんの実家で暮らしていた。その際、俺は、女の子と約束したことを守るために休日は朝から夕方までずっとじいちゃんに武道の稽古をつけてもらった。じいちゃんは、昔、どんな武道大会でも優勝をもぎ取っていたというまさに人類最強の男だった。それは、歳をとった今でさえも通用するんじゃないかって思うくらい本当に強かった。稽古も本当にキツくて吐くことだってそんなに珍しくなかった。だが、そんな俺が今の今まで頑張ってこれたのはあの女の子との約束があったからだ。約束を守るためなら俺は、なんだってする。そんな勢いで俺は、稽古に勤しんだ。
もちろん稽古ばかりをしていたわけではない。平日はもちろん学校に通っていた。学校が終わってから2時間ほど稽古をしてその後に夜中まで勉強もしてきた。なので俺は、毎回定期考査は、学年一位を取れた。
そして、俺が中学二年のとき、父さんが再婚した。そのせいで俺は、じいちゃんの元から離れてしまい稽古をつけてもらえるのが休日ぐらいしか出来なくなったが新しい家族ができたのは俺にとっても嬉しかった。相手の女性も一度結婚していて俺より一つ下の娘が一人居た。新しい義妹だ。
だからと言って俺の生活がそんなに変わるわけではない。平日は、学校に行き帰ったら一人で自主練に勉強……のつもりだったのだが何故か義妹は、そんな俺の様子を何も言わずにずっと見ていた。いや、勉強に関しては分からないところがあるかと言われ教えてあげたこともあった。
義妹は、明るめな性格で礼儀正しい子だった。そして、よく家では俺と一緒にいた。
俺の稽古を見ている義妹の目はキラキラと輝いていた。こんなのを見て何が面白いんだ?と思いつつ俺は、稽古に集中していた。そして、義妹は、とうとう休日のじいちゃんの家でやる稽古も見たいと言ってついてきた。まぁ、その時にはもう稽古がきついとかで吐いたりはしなかったので兄としての威厳を保てて良かった。だが、毎回じいちゃんには勝てずにいたのですごい悔しかった。
そして、同じような日々を過ごしていきあっという間に高校入試の時期がやってきた。だが、俺は元々行く高校は決まっていたのでなんの焦りもしなかった。勉強も毎日していたので高校入試も余裕だ。
そして、高校入試の前日、俺は大きなバックを背中に背負って家を出た。
俺が受ける高校というのはもちろんあの女の子がいる街の高校だった。昔、その女の子とはこの高校に行きたいね、とか話していたのでもしかしたらあの女の子もこの高校を受験するかもしれない。俺の事を忘れていなかったらだが。
俺は、そんな期待や不安を抱きつつ昔、両親が離婚する前の街に着いたのだった。
そして、高校入試の日から俺、
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