第2話 世界中で盆踊り


海外出張を控える俺は荷物をスーツケースに入れ、準備をする。

寂しさがため息に表れる。


「はぁー。」


『どうしたー?ほらっ!ため息つくと幸せ逃げるぞ!』


「うん。ごめん」


『らしくないよ!』


そう言いながら仲の良い友人の麻衣が家に来て荷物の整理を手伝ってくれている。

仲も良くお互いの家を行き来するのになぜだかずっと恋仲にはならなかった。


『なにがそんなに寂しいの?ホームシック?』


「いや…そんなことないよ。単純にダルいな思って。」


『ふーん。でも海外は可愛い人とかキレイな人沢山だから良かったね!』


「うーん…どうだろうな。」


パッとしない返事ばかりしていた俺に麻衣はつまらなく感じたのか、ずっと話しかけてくる。

だが、次の言葉だけは聞き逃せなかった。


『そういえば…言ってなかったかな?私彼氏できたよ!』


「え?ほんとに?」


『うん!めちゃくちゃかっこいいんだよ!優しいし、背高いし、手も繋いじゃった!』


「そうなんだ…」


『…しかもー。チューもしちゃったよ!』


「あっそ」


『なにー?嫉妬?』


そう言いながらベッドの上に乗せたスーツケースに目をやる俺の顔を覗き、にやけてこちらを見てくる。

正直イラつき声を荒げた。


「なんだようぜーな!ノロケんなよ!」

そう言いながら覗き混む顔を睨む。

すると麻衣は真顔になった。


『怒ってんの?』


「イラつくんだよ!」


『なんで?』


「なんでかなんてわかんねーよ」


『分かんないんだ…』


「なんだよ!何が言いてーの?俺には彼女できないのがそんなに面白いの?こいつダサいなとか思ってんの?バカにすんなら帰れよ!人の気も知らないくせに。」


『バカになんかしてないよ…そっちだって私に彼氏ができたらなんでそんなに怒るの?私の勝手じゃん!』

そう言いながら麻衣が勢い良く立ち上がる。


『もういいよ…。そっちだって私の気持ち分からないじゃん!帰る!』そういいバッグを持ち部屋を出ようとする麻衣。

俺は感情が高ぶり、苛立ちと寂しさと嫉妬が爆発してしまいそうだった。


「おい!待てよ!」

そう言いながら腕を掴み立ち止まらせた。


「嫉妬するだろ!そんなこと言ったら!焼きもちやくだろ!」


『もう遅いよ…。』


「は?何がだよ」

部屋の入り口のドアを見つめたまま、麻衣の声は震えていた。


『だって…そう言わないと、焦ってくれないと思って…。』


「なにが?」


『彼氏できたって言えば…どうなるのかなと思って…。』


「彼氏…いないの?」


『彼氏なんていないに決まってるじゃん…』


「全部うそ?」


『うん…そうだよ。』


「は?意味わかんねーよ!なんだよ焦ったじゃんか。」


『焦るくらいなら、ちゃんと伝えてよ!なんで嫉妬したのか、なんで嫌だったのか!』


「それは…ごめん。」


だが、それでも伝えられないのには理由があった…

俺はずっと麻衣が好きだった。だけれどいつも高嶺の花の麻衣には俺が不釣り合いだと常々感じていた。

自信がなかったんだ。


でも、もう我慢ができなかった。

俺は腕をグイと引き寄せ麻衣を抱き寄せる。

その拍子にバランスを崩し麻衣がベッドに倒れこむ。


『キャッ!』


「ごめん!大丈夫?」


ベッドに倒れる麻衣を上から見下ろす。髪が乱れ無防備な麻衣の目にはうっすらと涙が滲んでいた。

その途端、自分の理性が壊れる音がした。


俺はそのまま麻衣の上に覆い被さり、瞳を見つめた。


「…嫌がらないのかよ」


『…やめてよ…』


「やめない。」


『え…?』


「後悔すんなよ?」


『もうしたくないよ…』


「俺は…お前のこと好きだから。嫉妬もするし、彼氏いるとか言われたら、なんか胸のここんところめちゃくちゃ苦しくなんだよ。その苦しさ無くすにはこうするしかねーって思った。」


そう言いながら麻衣の目を見つめ続ける。


『…好きなの?私のこと。』


「ああ。好きだ。世界一。離したくない。」


『…私も…好き。』


「遅くなってごめん。」


『私もごめんなさい。』


そのまま顔を見つめ、目を閉じ、そっと唇を重ねる。


そんなことも出来ただろう。

だが、お互い謝った途端笑みがこぼれププッとお互い笑い合った。

「アハハ!なんだ!そんなことなら早く言えば良かったわ!」

『ほんとだね!わたしも!』


笑顔でベッドから起き上がり、麻衣の手を引いて起こす。お互い改めて顔を合わせ、

「麻衣、これからもよろしくね!」

そう言うと麻衣は

『うん!海外に行く前に彼女になれて良かった!』

そう言って笑顔でお辞儀をした。


気を取り直してスーツケースに荷物を入れるのを続けようと振りかえると、麻衣が後ろから抱きついてきた。俺は腰に巻かれた麻衣の手をぎゅっと握り返した。


そして、出張当日。

ニューヨーク行きの飛行機の中でパソコンを開く。

「日本は今ごろ昼時か…」

そう思いながらメールチェックをすると未読のメールが届いていた。

「ん?」

内容を見て思わず笑みが溢れてしまう。


"お疲れさまです。出張中のアパートですが、ご希望通りマンションに変更手配完了しました。経費が浮いて助かります。半年間の出張業務よろしくお願いいたします。総務課 伊藤"


『なにー?伊藤さんから?』

そう言いながら麻衣がパソコンを覗いてくる。

「うん。麻衣と付き合ったって話したら部屋マンションにして同居OKの物件を取ってくれたみたい。経費浮いて良かったってさ。」

『伊藤さんらしいね!んじゃー半年間、仕事しながら素敵なニューヨーク生活でも楽しもうか!』

「まずは仕事もだけど、色々楽しみだな!」

『付き合ってすぐ同棲だね!結婚の練習みたいだね!』

「とりあえず着いたら先方の取引先と打ち合わせだから、書類のまとめ、機内にいるうちによろしくな」

『はい、係長!』


揺れる飛行機の中で、パソコンを開き作業をする隣り合わせの俺たちは、他の乗客よりもほんの少し距離が近く、常に肩がふれ合ってい




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