薬
Akira@ショートショーター
薬
30代ぐらいの平凡以外に形容のしようのない男がいた
「なにか面白いことはないのか」
それが男の口癖だった
この日も仕事が終わり、家でビールを飲んでいた時、チャイムがなった
ドアの向こうにはセールスマン風の男が立っていた
することもないので話し相手にちょうど良いと思い、出てみることにした
「こんばんは。私はある薬の試験を受けてくれる人を探していまして」
実直そうな物言いに男はいくらかの安心感を覚えた
「面白そうだ。特にこれといった趣味もないし受けてみよう。
で一体どんな薬なんだ?」
「記憶力を良くする薬です。
新しいことを覚えることは言うまでもなく、昔の記憶まで容易に思い出すことができるようになります」
「素晴らしい。ぜひとも試させてくれ」
「ありがとうございます。
ではこちらのシートにいくつか記入していただいて…」
セールスマン風の男は薬を置くと恭しく帰っていった。
男は早速試してみることにした。
効果はいまいち実感できなかったが、効果が表れるまでしばらく時間がかかるのだろうと思い、とりあえず寝ることにした。
次の日起きてみると効果がハッキリとわかった。
普段は昨日の出来事などまるで覚えていないが、この日は鮮明に思い出すことができた。
「そうだ。確か部長が資料をなくしたと言っていたな。
あの資料ならあそこの引き出しで見た覚えがある。
少し早いが会社に行って探してみるか」
男は会社につくと記憶にある引き出しの中を調べてみた
すると例の資料が出てきた
出社した部長に届けると予想以上に感謝され、飲みにまで誘われた。
この日男は驚異的な記憶力のおかげで、いつもの10倍近い量の仕事をこなした
「驚いたな。まさかこんな結果になるとは」
男は決められた容量を守り、薬を服用し続けた
その間男の業績は見違えるほど良くなり、昇進の話もされた
そんな頃、いつかのセールスマン風の男が家を訪ねてきた
「いかがでした?あの薬の効果は」
「あの薬には頭が上がりませんよ
私の会社での地位も上がったし
何一つパッとすることのなかった人生に光を当ててくれたとでも言うのかな」
「ご満足いただけて何よりです
実は今日再び伺ったのは新薬の試験のことでして…」
「新しいものができたのか。もちろん試させてもらうよ
今度は一体どんな効果なんだい?」
「今回の薬は後悔を刺激する効果でございます
前の薬と併用することで、やり残したことをどうしてもやりたくなるような効果が望めると予想しております」
「おもしろそうだ。前の薬と合わせて頂こう」
男はもらった薬を飲んで寝た
翌日体がムズムズするためにいつもより早く起きてしまった。
「なんだかやけにムズムズするな。それにこの前バーで見かけた女性、声をかけずに終わったが気になって仕方がない
しかも猛烈に弁護士になりたくてたまらん
学生の時、あまりに難しくて諦めてしまったが、今ならできるだろう」
男はその通りに行動した
バーの女性を口説き、会社を辞め、弁護士として働き始めるのにそう時間はかからなかった
やがて女性と幸せな家庭を築き、弁護士として独立もした。幸せの真っ只中にいる時、また例の男が現れた
「あなたのくれる薬はどれも素晴らしい
おかげで私は昔とは正反対の人生を生きている
また新しいものができたなら、ぜひ試させてくれないか」
「それならちょうどいいものがあります…」
男はもはや効果を確認することはなかった
そして服用した翌朝、マンションから飛び降り、死体となって発見された
「今度の薬も成功のようですね」
例の男とそのボスは洋々と話していた
「確か罪悪感が増す薬だったな
まさかこんなに上手く行くとは」
「万引き、立ちション、自転車の並走ですら自殺せずにはいられなくなるようです」
「わけのわからん薬をむやみに飲むなということだな」
「その通りですね。ですが、このままでは多くの人間がいなくなり、人口の減少に拍車がかかってしまいますが?」
「その時はセックスが何より大事だと思うようになる薬でも撒けば良いだろう」
「本人たちは子供を生み続けますが、世話はしませんよ?」
「そうなれば周りのやつに子育てがしたくなる薬でも撒けばなんとかなるだろう」
「それもそうですね」
「ろくな知識を持たずに社会に出るやつが増えてよかった
次はどんな薬を作るかな」
「そういえばボス。頼まれていた薬ができました」
「本当か!最近妙に初恋の人を思い出して辛くて仕方なかったんだ」・・・。
薬 Akira@ショートショーター @akira_novelist
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます