あの世逝き39便

巡屋 明日奈

あの世逝き39便

「お疲れ様ー、今日はもう上がっていいよミクちゃん。」

その声に反応して白い長い髪をした少女が振り向く。

「あ、じゃあお先に。暇になりそうだから地上行って魂取ってくるね。」

ミクと呼ばれたその少女はぺこりとお辞儀をするとそのままふわりと空を飛んでいった。

彼女は死神ナンバー1701-39、通称「ミク」。地獄の1701区画に住む三十九番目の死神だ。

ここは地獄。生前に悪いことをした人々が落とされた罰を受ける場所。その罰を与える役割を担うのが死神。

そして、死神の仕事はもう一つある。それは地上をさまよう悪しき魂を閻魔様の元へ連れて行く仕事。

「今日はあんまりいないなぁ。先に他の死神ひとたちが連れてっちゃったのかなぁ……。最近いじめ増えてきたから魂も増えたと思ったのに。」

ミクの担当する1701区画に堕ちる魂は主にいじめの加害者。だからミクが集めるのもそういった魂。

はぁ、と残念そうなため息をつくとふわりと空を飛んで近くの学校に赴く。死んだ人は自分が一番他者ひとに影響を与えていたと思う場所にとどまる癖がある。つまり、学校に行けばクラスメイトを我が物にしていたようないじめっ子の魂がある可能性が高いのだ。

ミクが見つけたのは中学生程の少年の魂。

「やあ、こんにちは。あたしは死神のミク。君を迎えに来たんだよ!」

少年の魂がギョッとした顔をして後ずさる。

「し、死神?俺が何をしたっていうんだよ。あっち行け!」

やっぱり死神っていうと悪いイメージが強いのか、とミクが呟く。

「別に君が悪いことしてなかったらどうもしないよ。あたしはただ君みたいに現世に漂ってる魂をあの世まで運ぶだけ。」

肩をすくめつつミクが呆れたように説明する。そうなのか、と安堵の表情を浮かべた少年に対しミクは少しだけ笑うとそのまま少年の首根っこを掴んで空の上まで一気に飛び上がった。そしてそのまま向きを下に変えると、一気に地面の下をめがけて飛んで行った。

「閻魔様、まず一人連れてきました。」

ミクが閻魔に向かって報告する。とてつもなく大きな閻魔に少年は圧倒されている。

「そうか、ご苦労だったなミク。して、こやつが生前何をしたのか見てみようじゃないか。」

閻魔が大きな姿見を取り出してみせる。そこに映ったのは生前の少年。クラスメイトをいじめ、友達の尊厳を踏みにじるような行為をした、少年の姿。

「へえ、上靴に画鋲ねぇ。なかなか面白いことするじゃん。」

鏡を見せられ怯える少年にミクが冷たく言い放つ。そのまま少年の首根っこを再度掴むと閻魔の方に向き直る。

「こいつ、1701区画行きですよね?」

あぁ、と閻魔が頷くとミクは自分の担当する1701区画へと少年とともに飛んで行った。

1701区画に着いたミクはとりあえず少年を適当な部屋に入れて彼の刑について考える。

やっぱりいじめだから舞台は学校の方がいいかな。じゃあどんな刑を受けさせよう。ただ上靴に画鋲を入れ返すのはつまらないし、どんなのがいいかな。

しばらく考えたかと思うと、何を思ったかミクは大量の画鋲などをを近くの倉庫から出してくる。

「よし、作業開始!」と威勢良く声を上げると手に軍手をはめて画鋲を一掴み引き出した。

一時間ほど後、ミクの手には奇妙な画鋲の塊が握られていた。

「君には、学校に通ってもらうよ。それ以上のこともそれ以下のこともさせないから安心しなよ。」

少女は少年に刑を言い渡した。思ったよりも軽い刑に少年が安堵のため息をつく。

「ただし、制服をきちんと着ていくこと。」

ばっ、と広げた画鋲は一つ一つが細い糸で繋がれていた。そして、それらが集まり男子の制服のような形になっていた。

「一時間ぐらいかかったんだから、大切に着なさいよ!」

ミクは笑顔で少年にその制服を着せていく。

そう、ここは地獄。悪さをしたものにそれ相応の罰が与えられる場所なのだ。

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