第28話

食堂に避難していた社員達は映像を見て皆ザワ付いていた。


「おい…今の見たか、いきなり車が爆発したぞ、どうやったんだ?」

「あのアリサと言うアンドロイドは電子波動って言う特殊な技術が使えるらしい…それを応用して行なったんだと思うよ」

「僕の車も破壊されるのかな?まだ買ったばかりなのに…」


ザワ付いている中、他の人達が話し合っていた。


「オカモト・マコトって誰だよ…全く」

「あそこにいるデカイ体の男性だよ」


数名の社員達が、奥の隅にいる男性に目を向ける。

オカモトが立ち上がろうとした時に、彼の肩を触る人物がいた。


「ヒラマツ課長…」

「君は、ここに居なさい。私が説得して来る、こんな身勝手な行為は直ぐにでも辞めさせるべきだ」


少し年配が感じられる男性がオカモトを席に座らせて1人食堂から出て行く。

ヒラマツと言う男性を見ていた社員がオカモトに向かって言う。


「良かったな理解ある上司で…」

「ああ…立派な人だよ、あの人は…」


オカモトは嬉しそうにヒラマツの後ろ姿を見ていた。



「フン、車を破壊させて強迫では無いって…良く言うわね、ちゃんと脅しているじゃない建物を破壊するって…」


イチムラが宙吊りの状態でジュリに向かって言う。


「相手が来なかった場合よ」


ジュリは、そう言いながら右手を伸ばした。瞬間、眩い光線が煌いた。

本社ビルに入って来た男性いきなりジュリに向けて光線銃を放ったのだった。

しかし…光線銃のビームはジュリの見えないエアバリアで遮られる。

ミヤギと同様にジュリは離れた位置から相手の光線銃を奪う。

丸腰なった男性は、勢い良くジュリに向かって走って来るが…ジュリは空気の弾幕で相手を跳ね返す。弾き飛ばされた男性はそのまま意識を失う。

ジュリはいきなり現れた男性に近付き社員の名札を見た名札には「ヨコムラ・トオル」と書かれていた。


「別人ね…」


そう言ってると、後ろの階段から降りて来る人物に気付く。


「貴方がオカモト・マコトですか?」

「いや違う…上司のヒラマツと言う者だ」


ヒラマツはジュリの前に現れるといきなり土下座をし始める。


「この度は部下の比例、誠に申し訳無い、お金ならば幾らでも出すので、これ以上我が社への迷惑行為を止めて頂きたい、お願いします」


その言葉にジュリは軽く笑みを浮かべながらヒラマツの側へと近付き膝を付いた。


「貴方は何を言っているのですか?」

「はい?」


ジュリはヒラマツの体を起き上がらせて、相手の目を見て話し続ける。


「貴方に家族はいますか?」

「まあ…まだ若い妻と、今年15になる娘がいます」

「その奥さんと娘さんが、貴方の目の前で犯されたとしても、貴方は今の様に相手に土下座して貰って許せますか?」

「そ…それは…」

「考えて見て下さい。貴方は見しらぬ人物に体を縛られた状態で、身動きが取れず…その目の前で可愛い娘さんと、美しい奥さんが裸にされて悲鳴を上げながら犯されます。貴方は助けたくても助けられず、相手の欲望のままにされているのを見ているだけの状態です。奥さんと娘さんは、傷は癒えても、一生…見しらぬ男に犯された…と言うレッテル貼られて生きて行くのですよ。貴方はそれでも相手に今の様に土下座してお金を払って貰うだけで良いのですか?」

「うう…それは違う絶対に!」


ヒラマツの声が張り上げる。


「私と恋人が直面している状況は、それに近いものです、あちらの方を見て下さい」


ジュリはヒラマツに宙吊りしているイチムラを指す。


「あの人は、私の記憶を消そうとした人物です。更にオカモトと言う人物は私の恋人を暴行させたのです。私達はこの会社の人間達に恋人関係を引き裂かれ、私は牢屋にも入れられたのです。恋人との対面を阻止されて、こちらの要求は会社側が一切受け入れてくれないのです。もし…自分の家族がこう言う状況になっても、金銭だけ払って貰って貴方は全て許せてしまうのですか?」

「うう…私が間違っていた。目が覚めたよ…全く役立たずの部下の世話は本当に面倒が多くて困る。ちょっと待っていてくれ、あの愚か者を今直ぐに引きずり出して来る!」


ヒラマツが勢い立って階段上って行くのを見てイチムラは唖然として見ていた。僅か数分の間に人の心を動かしてしまうジュリの話術に驚きを隠せ無かった。



「オイ、オカモト!」


ヒラマツが大声を張り上げながら食堂に入って来た。

オカモトは驚きながらヒラマツの姿を見た。

食堂から出て行く時は自分が相手を説得すると言っていたが…今は、オカモトに対して険しい表情を見せて戻って来た。


「ど…どうしたのですか…ヒラマツさん?」

「うるさい!」


ヒラマツはいきなりオカモトを引っ叩いた。


「な…何ですか?」

「お前の様に無能な部下がいると、何かと面倒が耐えず苦労してばかりで腹が立つんだよ。コノヤロー!」


ヒラマツはオカモトに対して足蹴をする。


「ちょっと課長辞めて下さい」

「どうしたのですか?」


まるで別人の様に変わったヒラマツを周囲の人達が彼を引き止める。


「とっととアリサの所へ行って謝れ、この能無し、クズ、ゲスヤロー!」


ヒラマツは興奮しながらオカモトに向かって言う。彼の罵声に周囲は騒めいていた。



しばらくして、数人の男達に囲まれてオカモトが現れる。頰や唇、少しアザが出来た状態で彼はジュリの前に現れた。


「アンタがアリサかよ…」

「はじめまして」


ジュリは軽く礼をする。

オカモトは、同行して来た男達に下がる様に命じて、ジュリに近付くと…シンにした様に勢い良く殴り掛ける。

しかし…僅かな差で、ジュリが掌から発した空気弾がオカモトに当たりオカモトは数メートル彼方に弾き飛ばされる。


「ウググ…」


オカモトはよろけながら顔を上げると、目の前にジュリが立っていた。


「私の恋人をゴミクズ呼ばわりした見たいねアナタは…」

「ご…誤解だ、何かの間違いだ!」

「と、彼は言ってますが…?」


ジュリはイチムラに向かって言う。


「ウソよ、そいつは私にオダと言う男性をゴミクズの様にボロボロにした…と言ったわ」

「テメェ…俺を裏切るつもりか?」

「うるさい、アンタこそ、逃げてばかりで何もしていないじゃい」


2人の口喧嘩の中、ジュリはオカモトの近くへと行き、彼のWBCに手を掛ける。


「オイ、何をする気だ」

「私の恋人をゴミクズ呼ばわりしたのだから…貴方にもゴミクズの生活をしてもらうわね」


そう言ってジュリは、オカモトWBCから複数のパネルを開き、彼が利用している電子マネーや利用ポイント等の口座を同時に開く。


「こんなに資金があるのは多過ぎね」


ジュリが口座に指を押し当てて動かすと、オカモトの資金の額が減っていき、遂には全ての額が0になった。


「辞めてくれ、俺には家内や子供もいるんだー」

「あら…そう、良かったわね、しばらくは飢えに苦しまなくてすみそうじゃない」

「え…それって、どう言う事?」


ジュリはオカモトの姿を振り返らず、そのまま本社ビルを出て行く。



ミヤギはシャッターの扉にある手動ロック解除のボタンを操作していた。


「クソッ…何て頑丈に出来ているんだ」


彼が解除に手間取っている中、再びジュリが施設内に向けて放送を行う。


「私は、アリサと呼ばれている者です。今から全ての建物の破壊を行います」


それを聞いたミヤギは、WBCを使ってリンに連絡を行う。


「リン聞こえるか、ジュリが本格的に建物を破壊しようとしている、何とか説得してくれ!」



それを聞いたリンがジュリに直接通信で呼び掛ける。


「お姉ちゃん、建物を破壊しちゃダメだよ!」

「悪いけど、貴女には関係無い事よ」

「そんな事したらシンも悲しむわよ!」


その時リンは自分の側にいるシンを見た。治療が終わったシンはリンの隣で横になって休んでいる状態だった、リンはシンに声を掛けた。


「ねえ…シン、お願いジュリに声を掛けられる?」

「ジュリが…何かしたのか?」


少し傷が疼く中、シンはリンからWBCを手にして話し掛ける。


「ジュリ…俺だ聞こえるか?」

「シン、無事なの?良かった…怪我は大丈夫なの?」

「ああ…平気だ。もう…気が済んだろ、暴れるのは辞めろ」

「うん、分かった貴方が言うなら…もうこれ以上は何もしないわ」

「良い子だ…早く一緒に帰ろう」

「うん、私も早く貴方に会いたいわ」

「俺も会いたいよ」

「ただ…ひとつだけお願いがあるわ、これからタナカ会長と、会って話しをするけど…もし、タナカ会長が私達の関係を認め無かった場合は、その時は許してね」

「ああ…許すけど…派手な事は控えろよ」

「うん、分かった」



ジュリは改めて放送を行う。


「たった今、私の恋人との連絡が出来て…話し合いの結果、こちらの建物の破壊は取り消します。その代わりタナカ会長、貴方と話しを行いたいです。会長室でお待ち下さい、これからそちらに向かいます」


誰にも止められ無かったジュリの暴走は、たった1人の男性によって止められ、タナカ・コーポレーションは、危機的直面から脱する事が出来た。

再びジュリが本社ビルの中へと戻ると、宙吊りのイチムラを降ろして、シャッターに閉じ込めていたミヤギを出した。


そして、ミヤギと一緒にタナカ会長のいる会長室へと向かう。

会長室には、タナカとキクチが待っていた。

ジュリは一緒に来たミヤギより少し進んで挨拶する。


「こんにちは会長様、御無沙汰ですね」

「フン、今さら何の話しをしたいと言うのだ…私に」

「オダ・シンとの関係を認め頂きたいと思います」

「残念だが、それは認められない。お前は我が社の製品であり、我が社の方針に従って貰うのが本来の役目、この様な事態をも侵して、尚も自己判断的な発言は、言語道断である」

「そうですか、では…私からの意思表示をお見せ致しても構いませぬか?」

「フン、何を見せると言うのだ?」

「こちらです」


ジュリは指をパチンと鳴らす。


ボン、ボン、ドオーン!


ジュリが指を鳴らしたと同時に工場が三つ爆発した。

会長室から見える位置にある工場が爆発してタナカ、キクチ、ミヤギは口を開けて見ていた。



タナカ・コーポレーションの近くにいたムラタとシライシは爆発の瞬間を見ていた。


「帝国の崩壊の瞬間だな」

「花火って…この事だったんですね」

「ああ…当初の予定よりも小規模だが、これだけでも明日のトップ記事にはなるな…」

「それにしても、誰が教えてくれたんですか…この情報は?」

「フン、俺たちを青森まで連れて行ったヤツ以外で、ほかに誰が考えられる?」

「え…何で彼女が僕達に情報を提供したのですか?」

「タナカ・コーポレーションを潰す気だったんだろう。あの会社は恐ろしいアンドロイドを造り出し、それを怒らせたせいで自滅の道を歩んでしまった。俺たちから見れば自業自得だがな…」


ムラタは、カメラを持たせている社員に「ちゃんと撮れよ」と、声を掛ける。



会長室に居た一同はジュリの大胆な行動に言葉を失っていた。


「気にする事は無いわ、全て人の居ない倉庫だから…被害は少ない筈よ」


ジュリが言っても、突然の爆発によるタナカのショックは大きく、椅子から落ちて顔を俯かせていた。

ジュリは何も言わず、会長室を出て行く。ミヤギがジュリの後を追った。

ミヤギは、タクシーを呼んでジュリを乗せようとする。


「全く…これからどうするつもりなんだ?」

「シンと話し合って決めるわ」

「何もかも自分の思い通りに行く何て考え無い方が良いぞ」

「分かっているわ。ところで…まだ私達を追うつもりかしら?」

「会社が、そう指示すれば…そうするけど…多分、当面は無いと思うな」

「そう…もし良かったら、リンと一緒に遊びに来ても構わないわよ」

「今は遠慮しておくよ、機会があったらこっちから連絡する」

「分かったわ」


そう言ってジュリはタクシーに乗って、タナカ・コーポレーションを後にした。



~その日の夜…


港町の一角に一台のロボカーが停まっていた。

運転席のは、車には不釣り合いな女の子が乗っていて、助手席には体中包帯だらけの男性が乗っていた。


「こんな場所で良いの?病院に戻りましょうよ」

「いや…ここで良いよ」


シンは、外を眺めていた。すると周囲の灯りが消えて行く。

車内では、突然ラジオが流れ出す。


「皆さん今晩は。DJのタニカワです。皆さんはこの時間いかがお過ごしでしょうか?今夜は空が晴れていて、満点な星空ですよね…そう言えば、実は月面のライトの試験的なテストが今日から定期的に行われる見たいですよ。お時間があったら是非、夜空を見て下さい。さて..、今夜の第1曲目は…ペンネーム、オダさんからのリクエスト曲で、ジュリアノ・リリーの曲『スター・ラブ~2人の愛は永遠』にです…どうぞ」

「シン、見て!」


音楽が流れ始め出すと同時に港町の周囲の灯りが突然七色に輝き始める。

2人が乗っている車の後方から一台のタクシーが来て、車内からジュリが出て来た。

それを見たシン車内を降りて少しよろめきながら歩いて行く。


「ジュリ!」

「シン!」


2人は抱きしめ会う。


「怪我は本当に大丈夫?」

「ああ…平気だ」


2人を見ていたリンは嬉し涙を流す。


「もう絶対に貴方から離れないから…」

「俺も、ジュリとは離れないよ…」


2人を見ていたリンは嬉しそうな表情をしていた。

その時「あっ!」と、何かに気付きリンは夜空を指した。


「ねえ、見てアレ」


それを聞いたシンとジュリは夜空を見上げる。遥か上空の月面にはチカチカ…と輝く人工の灯りが七色に灯されていた。


「綺麗ね…」


ジュリがシンを支えて言う。


「ああ…本当、綺麗だね」


2人は微笑みながら月を見上げ、ずっと抱き合い続けていた。



月面では…宇宙服を着込んだ人達が、地球を見つめながら人工のライトを照らしていた。


「地球の人達には見えたのかな?」

「こっちから、地球の夜の灯りが見えるから、多分…見えているだろう」

「そうか…じゃあ、心配する事は無いな…」


宇宙服を着ている人は陽気に答え、彼等は地球に向かって手を振っていた。

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