第27話

ジュリは、ガラスを挟んだ向かい側にいるイチムラを見てニコッと微笑み掛ける。

イチムラはジュリの微笑みが恐ろしく不気味に感じられた。


「な…何て化け物なの…あのアンドロイドは…」


ジュリは軽く手を振った、それと同時に室内の電気が消える。

周囲が暗闇に閉ざされた…と同時に何処からかバンッと何か叩く音が響く。

消灯時に点灯する予備電源が灯りを照らしオレンジ色の光が発生する頃、イチムラと男性の前にジュリの姿があった。


「さて…貴女には、どんなお仕置きが良いかしら?雌イヌの様にされまくる毎日を送る…って言ってたわね確か…」


イチムラは震えながらジュリを見ていた。既にお互いの立場は完全に逆転していた。


「な…何が狙いなの…貴女は?」

「言った筈よ、あなた達全員許さない…と」

「クッ…」


イチムラは年貢の納め時か…と諦め掛けていた。その時、男性社員が後方からゆっくりとジュリに近付き鉄の棒で殴り掛かろうとしていた。イチムラはコクッと男性社員に頷く。

男性社員は勢い良く鉄の棒をジュリに目掛けて振り下ろす…が、ジュリは振り返る事無く片手で鉄の棒を受け止めた。


男性社員は両手で力一杯鉄の棒を引っ張っるが、ジュリが掴んだ鉄の棒は彼女の手から離れなれず。ジュリが振り返らずに、鉄の棒を軽く振り上げると、男性社員は勢い良く天井まで振り飛ばされ、落下して、そのまま気を失った。

ジュリは、気を失った男性社員の方を見た。その隙にイチムラは急いで室内を飛び出した。



逃げるイチムラは目の前に現れたOL風アンドロイドを見付けて話し掛ける。


「助けて、アンドロイドが暴走し始めたわ。アイツを捕まえて!」


OL風アンドロイドは部屋から出て来るジュリを見て構えを取る。


「部屋に戻りなさいアリサ、こう見えても私は格闘技の武術をインストールしてあるのよ、大人しく戻れば怪我をしなくて済むわよ。自慢では無いけど…私はアンドロイド格闘技女子の部で全国大会を優勝した身なのよ。貴女みたいなアンドロイドは、一撃で行動不可能にする事が出来るわよ」


OLとは思えない構えをしたアンドロイドを目の前にしてもジュリの姿勢は変わらず。

フッと笑みを浮かべ、数十メートル離れてる中を一瞬にして相手の懐へと接近する。


「はい、終わり」


そう言ってジュリが相手の顔を軽く叩くと、OLアンドロイドは気を失ったかの様に倒れた。

ジュリは、相手の様子を見ずに廊下を歩いて行く。少し歩くと前方に女の子姿のアンドロイドがジュリの前に立ちはだかる。


「コードネームXM13J・GC2000ータイプRS。ルナ・リスファー、シリーズ0031番。通称アリサ、勝手な振る舞いは許さないわ!貴女の行動は我が社の規則を一脱しています。それに加え国が認めた法律にも反しています。これ以上の無駄な行為、及び抵抗を繰り返すのであれば、私は貴女を国家反逆罪として…」


女の子が話しを終える前にジュリは女の子の頭に手を当てる。


「うるさいわね」

「あ…何をッ⁉︎」


ジュリが手を離すと女の子は放心状態で壁に背を乗せながらアヒル座りする。


「アハハ…私マナちゃん可愛い子だよ~。ウフフフ」

「気分はどう?」


ジュリが近付くと女の子は震えながら後退りする。


「イヤン…マナ怖い人キライ、あっちへ行って!イジワルするとマナ泣いちゃうもん!」


女の子は指を加えながら身を捩らせる。その仕草から女の子アンドロイドは頭の中のデータが書き換えられて外観とほぼ同じ幼児体形になっていた。

ジュリは更に歩き続け施設の階段を上って行き、出口付近へと向かう。すると前方に巨漢のアンドロイドと女性社員の姿があった。


「レオ、イチムラさんが言ってたアリサって言うアンドロイドよ、貴方の力でアイツを捩じ伏せてやって」


後ろに控えていた女性社員がレオと言う巨漢のアンドロイドに言う。


「オウ、任せな…一捻りで倒してやる!」


レオが大きな拳をジュリの顔面目掛けて振りかざす、ジュリは避ける事無く拳を片手で受け止めて、そのまま片手でレオを掴み上げて、自分よりも大きな巨体を軽々と投げ飛ばす。

ジュリは倒れたレオの側へと行き、起き上がる前に相手の顔に近付き頭に手を当てた。


「グワッ」


レオは大声を立てて、しばらく身動きが取れなかった。

事が済むとジュリは何事も無かった様に施設の出口へと向かう。ジュリは女性社員を横目で見て、軽く笑みを浮かべてながら施設を立ち去って行く。


「ねえ…レオ大丈夫?」


女性社員がレオの側へと行き無事を確認すると、レオは起き上がり瞬きして女性社員を見る。


「ウホッ、ネエちゃん、チョー可愛いじゃん!彼氏居るの?」


レオはいきなり抱きつくが、女性社員は力一杯でレオを引き離してレオから離れる。


「チョー、オレ好みって言うかーさぁ…オレと一緒にお茶しない?」

「レ…レオ、アンタちょっとおかしいよ…どうしちゃったの?」

「オレいつでもチョークールだぜ、ねえ一緒に写メ撮ろう」

「ちょっと、こっち来ないでー」

「ウヒョー逃げないで、オレもうアンタにムチューなんだぜ!へへ…」


逃げる女性社員にレオは両手を広げて追い掛けて行く。



施設を出たジュリは、直ぐに左手を伸ばした。


瞬間ーッ、


バチバチッと電気音が響いた。ジュリは瞬時にエアバリアを貼って、その衝撃を未然に防いだ。スタンガンが放たれた方を見ると、警備員の中年男性風アンドロイドの姿があった。


彼は自分の攻撃が交わされたと知ると、身構える姿勢をする。

ジュリは、スタンガンのコードを引っ張り、男性を自分の近くまで引き寄せる。

凄い力で押し寄せられた男性は、その反動を利用して手を大きく振り上げて、ジュリに一撃喰らわそうとした。…が、既にジュリはその行動を予想して回避する。


「そんな攻撃じゃダメよ」


と、言いながらジュリは、振り返る事無く、右肘を後ろに付き出す。

その直後、後方から突進して来た男性アンドロイドが、腹部を直撃されてヨロける。

ジュリは後ろの男性に空気弾を放つ、男性アンドロイドは数メートル先まで弾き飛ばされて機能を停止した。


「貴方は、踊りでも踊っていなさい」


そう言ってジュリは彼の頭に手を当てた後、彼を回転させる。その反動に合わせて中年アンドロイドは、クルクルと回りながら、その場でバレエダンス『白鳥の湖』を踊り始めた。


ジュリは、中年アンドロイドの姿を見ずに、そのまま本社ビルへと向かう。



本社ビルへと逃げ込んだイチムラは、既に避難指示が出されて受付カウンターがあるロビーは、もの抜けの殻だった。誰もいないフロアをウロついているとエレベーターが降りて来て、ドアが開くと中からミヤギの姿が現れた。


「コッチへ来い!」


ミヤギはイチムラの腕を掴んで近くにある用具庫のドアの中へと入る。


「ねえ、ミヤギあのアンドロイドの暴走何とかならないの?」

「悪いけど…今回ばかりは手の打ち様が無い」

「そんな!元研究員でしょう?何か相手を破壊するとか、特殊部隊を派遣するとか…作戦は無いの?」



「唯一彼女の暴走を食い止める事が出来るオダ・シン君を君達は暴行してしまったんだ。彼女からして見れば…これは復讐であり、我が社の建物さえ破壊する覚悟だ。特殊部隊を派遣しても犠牲者を増やすだけだ。君達は早まった行為をした、もはや謝っても許しては貰え無い状況だ。我々は彼女の怒りが収まるまで大人しくするしか手段は無い」



「そんな…、たかがアンドロイド一体の為に、私達は指を加えて見ているの?」

「その…たかがアンドロイドでも、彼女には感情がある。誰だって自分にとって大切な人を傷付けられると相手を恨む筈…それと同じ事だ。君達は何故それに気付かなったんだ?」


それを聞いてイチムラは、ジュリがシンが来ると知った時に嬉しそうな笑顔を見せたのを思い出した。


「そうね、軽率だったわ…。ところでミヤギ…貴方は彼女の味方なの?」

「イヤ…僕は会社の人間だ、君を逃す為に来た。何とかしてアイツを足止めさせる、その間に施設から離れろ」

「分かったわ、ありがとう助けに来てくれて…」


イチムラが倉庫から出ようとする時にミヤギが「ちょっと」と、声を掛ける。


「WBCを僕に貸してくれ。アイツは君のWBCのコードを確認してこっちに向かって来る筈だ。生身の体なら遠くに逃げてしまえば、追っては来れないと思う」


イチムラは言われた通り自分のWBCをミヤギに手渡す。それを受け取ったミヤギはイチムラを倉庫の裏口のドアを開けて逃す。

ミヤギは倉庫を出て、建物の内部の通路へと走る。人気の無い場所へと進むと反対側からジュリの姿が現れる。


「ミヤギ…貴方、何かと私達の前に現れるのね」

「腐れ縁ってヤツかな」

「あの女は何処に行ったの?」


ジュリは周囲を見回す。


「残念だけど、君に教える義理は無いね」

「貴方にも色々と聞きたい事は有るけど…今は他に用があるから失礼するわ」

「悪いけど、そうはさせない!」


ミヤギは懐から光線銃を取り出してジュリに狙いを定めて撃ち放つ。


チュンッ!チュンッ!


光の速さで、光線銃が何発か撃たれるが…ジュリは、光線銃よりも早くに自分の前に強力なエアバリアを作り出して光線銃を跳ね返す。


「そんなオモチャじゃ、私は倒せないわよ」

「クッ…」


ジュリはミヤギに向かって指を軽く折り曲げる。するとミヤギの手にあった光線銃がジュリの方へと飛んで行く。ジュリは光線銃を掴むと片手で簡単に握り潰し、それをミヤギの方へと投げ返す。


「しばらく、その場所に居なさい」


ジュリは、軽く手を振ると後方のシャッターが降りる。ミヤギは後ろを振り返り、そして前方のシャッターが降りる音に気付き前を見るとジュリの姿が視界から消えようとしていた。


「貴様ー!」


ミヤギは、1人通路の中に閉じ込められてしまった。



ジュリは相手の事など気にせず本社ビルのフロアへと向かう。本来ならば、人気が溢れ活気的な場所であるが…現在は、彼女が暴走した…事により、安全を重視してタナカ会長が職員達に避難指示出して、ビル自体をもの抜けの空にしてしまったからである。


ジュリは受付カウンターにあるディスプレイに手を押し当てると、複数のメインモニターを表示させる。そして、素早い指の動きで、独自のソースコードを作成し、オリジナルモニターをその場で、作り上げる。それにより、立体ディスプレイ式のモニターが完成されてジュリは、それを操作させる。それにより目の前に複数のディスプレイと共に社内の全ての監視カメラがジュリの目の前に現れる。様々な場所で避難している人々の姿が次々と現れる。


会話さえも聞こえて来た。ジュリは何十個以上もある監視カメラを流す様に捲って行く中、一ヶ所のモニターに目を止める。


(イチムラ、逃さないわよ)


ジュリは軽く笑みを浮かべる。



イチムラは、エレベーターで最上階に向かい、屋上にあるヘリに乗って郊外へと逃げようと思っていた。

その時、イチムラが乗っていたエレベーターは移動中に突然急停止した。


「え…何、どうしたの?」


通常ではあり得ない様な急停止にイチムラは唖然とした。


「ウソ、何コレ信じられない…こんな事…」


不安になりながら、イチムラはボタンを押す。しかしエレベーターは反応しない。

次の瞬間、急停止したエレベーターは、動き出すと同時に降下し始める。


「え、何で降りるのー?」


理解出来ないイチムラは、驚いた状態で手すりに捕まっていた。

チンッと音を立てて、エレベーターは1階に到着してドアが開いた。ドアが開いた先にはジュリが立っている事に気付いたイチムラは

「ヒィー!」

と、大声を出して後退りする。


「お久しぶり」


イチムラは驚きと恐怖に震えた。

ここまで、数体のアンドロイドがジュリを相手にした筈、更にミヤギも彼女の相手をした。しかし…ジュリは、それさえも軽く降り払い、今…逃げようとしていた自分を捕まえようとして、エレベーターを操作して来た。

イチムラは完全に逃げる意思を失った。それ以上に彼女に狙われたら、逃げる術など無いと知った。



相手が座り込んだまま動かないのを見ると、ジュリは工業用に使う頑丈なロープを持って来て、彼女の体を縛り上げて、フロアの中央階段がある辺りへと宙吊りにして置く。

ジュリは相手を見上げて言う。


「さて…と、貴女に一つ聞くけど…シンに暴行した人は誰なの?」

「オカモト・マコトと言う男性です…」


イチムラは泣きながら答える。


「何処にいるの?」

「分かりません…」

「そう…分かったわ」


ジュリは、受付カウンターへと戻ると、カウンターの中から社員用に置いてあるWBCを取り出す。そして画面を開きソースコードを操作する。

簡単なセッティングを行うと、ジュリはWBCに向かって言う。


「私は、こちらではアリサと呼ばれている者です。聞こえますか?」


その声は本社ビルと、他の工場にも声が聞こえた。


「私の恋人、オダ・シンに暴行させたオカモト・マコトと言う方、聞こえていたら今直ぐに本来ビル前まで出て来なさい。貴方に話があります。もし…出て来ない場合は…この施設内にある全ての建物を破壊します」


その言葉を聞いた社内の人達は驚いた。

ジュリはWBCを操作して、全ての施設内のモニター及びテレビ等に映像が見られる様にする。映像には駐車場に停めてある車が映っていた。


「今、ここに映っている車を破壊します」


ジュリが指をパチンと鳴らすと同時に、ボンッと、大きな音を立てて車が爆発した。


「皆さん分かりましたか?これは決して強迫では無いです。あくまで話し合いを求める上での行為であります」

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