アンドロイド.ファンタジー ~夢姫伝説

じゅんとく

プロローグ




西暦2163年、世界の総人口は150億人を越えようとしていた。


人類は、自分達の住む場所を宇宙空間へと手を伸ばし、増え続ける人類の移住場所を遥かな広大な宇宙へと、その居場所を求め続けた。宇宙への移住は、人類の長き夢であったが...現実はSF小説の様に甘い物では無かった。宇宙移住計画には、国家予算に匹敵する程の額が動く、その上、わずか数名の人間を一年住ませるに必要な資金は、地球で数十万世帯の一年分の家計を足しても足りない程である。何よりも宇宙空間でコップ一杯の水を飲むのに千円以上もの値がする。さらに限られた空間内でしか生活出来ない、それを知った世間では…。


「宇宙へ行く事は、監獄に入るのと同じ事...」


「宇宙に行くのは、地球上で必要の無い人間だけだ...」


などと囁かれた。そんな噂話が的を射たのか、月面開発に送られる人間は、そのほとんどが前科歴のある人達であった。その為「犯罪=月へ」などと言う言葉が、ネットの書き込みに広がっていた。


「月へ行きたいけど、どうすれば良いかな?」


「公の場で、若い娘さんの肌をタッチすれば、無料で行けるよ。ただし...向こう(月)では穴掘りの日々だけどね...」


などと言うブラックユーモアな書き込みもあった。


人類の第2の移住都市となる宇宙計画は、予想以上に遅れていた。安易にロケットを打ち上げられない事から、宇宙に住む事に懸念を抱く人達も多くいた。

火星と月に何とかスペースノイドを送る事が出来ても、彼等を長期間宇宙で過ごさせる為の費用には、莫大な資金が必要となる。その費用を集めるのに最適なのが宇宙旅行だった。企画当初…数分間の無重力体験を楽しませる企画で話題を呼んだが…高額な上に無駄な時間が掛かり、その上無重力体験は僅か数分…この事に世間では…遊園地のアトラクションの方が、まだマシ…と、批判を受けて企画が難航していた。


簡単な無重力体験としては宇宙エレベーターが、大きな飛躍を遂げて、国際宇宙ステーションまでの移動に大きな活躍を見せていた。

その反面、地球上では新たな新都市計画が加速していた。南太平洋、赤道直下に位置する場所に太い鉄筋性のパイプの様な柱を数十本を使って、その上に街を建てられた。上空、約1000mその周辺に、硝子状のドーム型のコロニーを構築、その中に街を建設して行く構造であった。その形状は文字通り空中都市の様であった。太平洋プレートの位置から地震の心配も無く...その上、嵐に襲われる心配も無く、気温も一定等から、新天地として人々に関心を抱かれていた。


更に過酷である砂漠地帯の深緑化プロジェクトや、海底都市の開発が進み、人類を新たな住居に移住させる計画は別方向へと進んでいた。


全世界の総人口が増え続けている中、日本の人口は縮小していた。それまで1億数千万人以上いた小さな島国の人口密度は、ほんの一世紀半で、かつての人口の約半分近くまで減っていた。22世紀の日本は先進国だった頃の賑やかさを失いかけていた。結婚出来ない人と、地球環境による遺伝子染色体による雄の遺伝子が、誕生しにくい事から人口減少の歯車に加速が掛かっていたのであった。


その為に、政府関係者達の間で時折囁かれていたのが遺伝子操作による人工の雄、いわゆるクローン人間を誕生させる事であった。それにより国内の人口密度を一時的に一定期間、安定した水準に保てるだろうと言う企画であった。しかし...それによる課題は、その過程を遥かに上回るものであった。


「彼等(クローン人間)と人間との間に、子供は作れるのか?」


「もし...出来たとして、その子供はしっかりと育つのか?」


「社会的に見て彼等の存在位置はどう例えるのか?」


等...クローンの開発には一体の人間を誕生させる以前に、その存在意義を唱える評論家達の声が多く未だその前提から先へは進めていない状況であった。それ以上にクローン人間は基本テロメアが短い構造で、人間の平均年齢よりも短く、長生き出来ない事に研究者達は懸念を抱いていた。


減少し続ける日本の人口に少しでも潤いを与えようとする研究者達の中で、大きく飛躍し出てきたのが人造人間(アンドロイド)の開発であった。


『有機アンドロイド計画』


高齢化した老夫婦達の共として、もしくは結婚したが子供のいない家庭などに、少しでも潤いのある日常を与えようとする研究者達の考えから生まれたのがアンドロイド計画であった。アンドロイドを開発し商品として世に送り出した先駆者は『タナカ・コーポレーション』であった。彼等が世に送り出したアンドロイドは、それまでのプロトタイプのアンドロイドとは大きく異なり、天然ゴムやシリコンなどによる身体の皮膚や、あらゆるコードが皮膚下にあったり、金属性の骨組み等と言った…これまでのアンドロイドの概念を完全に覆し、人間の皮膚とほぼ変わらない形で世に送り出されて一躍世間の注目の的を得た。


この開発は『有機人工細胞』と言う、独自の研究によって生みだされたものであった。

ナノテクノロジーの更に上を行く、ピコテクノロジー(1ピコは、10の-12である)の研究が主な要因であった。それを可能としたのが…地球上には存在しない未知の鉱物、レア・ムーン・メタルと呼ばれる天然希少金属である。この天然希少金属を取り組む事で初めて実現可能となった。天然希少金属を光子化学で応用し、自然界にある細胞質を素粒子状まで細かく分解、そこから人工の細胞質を培養する方式を行った。ips細胞を持ち入りミリ単位上まで培養出来た人工細胞組織に、ナノシステムバイオコンピュータを組み込み、バイオコンピュータを取り入れた細胞達はリアルプリンターによる電子コードを用いて生態系の細胞へと変化を行う。


これにより人造人間の生体形は、金属やシリコンの身体から解放され、外観からは生身の人間と寸分違わぬまでの完成度を見せつけたのであった。X線や透視カメラを使って身体の構造を見ない限り、アンドロイドと人間の区別が付きにくい...と、言われる程の精密さであった。


生み出されたアンドロイドは、臓器の主要箇所(脳や心臓)と、身体の特定の箇所、主に骨のを形成するタンパク質の内部等に人工のバイオメカニズムを組み込む形で作り出されたもので、脳と心臓だけが別状の形で作られ骨の髄となる箇所は、形態上、早い段階で骨の髄にバイオメカニズムを取り込む構造になっていた。生態系としての形が出来上がった後に脳と心臓は取り入れる構造だった。


世間一般では彼等を『有機アンドロイド』と言う名義で呼ばれていた。彼等の基本スペックは…。

脳内に光量子コンピューター・コアプロセッサ、高性能半導体ナノチップを搭載(研究者達の間では通称Lコアと呼んでいる)システム容量最大10エクサバイト(1エクサは10ー18乗、つまり百京の位)を用い、光化学藍色ホログラム発光レーザーを内蔵。瞬時に100層までのデータ信号を読み取る事が可能。約1秒間に最大で1穣(穣は垓の4乗である。つまり10の28乗)までの計算処理速度を行う事が可能だった。

このLコアシステムを有機細胞に組み込み、人間と同じ形の脳内である大脳の奥にある中枢部神経の奥に取り組ませる事により、設定から最大100年間、人工知能(A.I)による自己学習能力と記憶機能を取り組める事が可能であった。


人間の構造と、さほど違わない形で作られたアンドロイド達...、ある評論家は口を尖らせて言った。


「何故、複製人間(クローン)が駄目で、疑似人間(アンドロイド)は、良いのだ?」


有機細胞によって生み出されたアンドロイドは、人造人間と言うよりも、『疑似人間』と呼ぶにふさわしかった。それゆえ評論家達の間では、しばしば俗称として『疑似人間』と言われる事があった。そんな評論家達に対して、政府関係者達は口を揃えて答えた。


「利用目的を子供のいない家庭に提供する事を前提に開発を進めている為であり。もし仮にアンドロイドと人間との間に、性交渉が行われても彼等との間に子供は生めない...」


「クローンは、元となる遺伝子情報(DNA)から人間を複製させる構造で行う。これは一部にプライバシーに関わる事にもなる。それに対して、アンドロイドは、ほぼ無の状態から作られる。何よりも、クローンは短命だが...アンドロイドは長寿である。人造人間である為に精子や卵子といった生殖機能も無い」


さらに言うなれば...クローンは複製型である。クローンにより生まれる人間はオリジナルと同じ形の人間である率が高い。一方アンドロイドは単体で願客の要望により、顔や身体、性別、年齢までもが、好みによって変えられる。同じ型の物は無いに等しかった。


そう言った内容からアンドロイドは口煩い評論家達の目を潜り抜ける事に成功した。開発元の販売側からすれば、アンドロイドの提供元の一番の願客は、若い独身者達であるが、少子化傾向が深刻化する時代に、結婚出来ない若者達に、アンドロイドを送り込ませる事は「一生独身でいて下さい」と、言うのと変わらない事である為、独身者には提供させない事を政府関係者達に言われていた。


彼等の研究には、神が掛かっている。そう...世間の誰もが信じて疑わなかった。


ある事件が起きる、その日までは...。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る