死の山に挑む勇者〜崩壊した世界で血染めの金属バット片手に暗黒スパゲティの恐怖に抗う〜
mossan
第1話 死の山に向かう男
プスンプスン……
僕の乗ってきた車が壊れてしまった。道中魔物を轢き殺したせいなのか、アクセルを全開してもビクともしない。
こんな所で壊れるなんてツイてない。僕は後部座席からザックを取り出し、近くの街まで歩くことにした。
道中、ふと看板を見るとフェイマスベイレイクで開催されているボートレースについて書いてある。
ボートレースか。道中では魔物ばかりボコボコにしてきたせいで、人間らしい楽しみがなかったな、と思い直す。賭け事に興じる趣味はないが、たまには人間らしい楽しみを味わおうとボートレース会場まで行ってみた。
「ギョ!ギョギョギョギョ!ギョ!」
「ゲハ!ゲハゲハ!」
魔物しかいない。場違い感があるが、考えるのは止そう。面倒だ。
僕はチケット売り場で適当に舟券を買う。隣にいる魔物が僕の買った舟券をバカにしているのか指差して笑ってきた。ムカつくので指を折ってやった。
「SGレース“人間ダービー”、本日最終です」
アナウンスが流れてくる。どうやらタマタマ大事のレースにかち合ってしまったようだ。
僕の買った舟券は1−3−6の三連単だ。正直、適当に買ったので、当たるとは思ってない。
「フ……1−3−6とは思い切った買い方だな」
声に釣られて見ると、大きな剣を背負った男が立っていた。何だこいつ?こんな場所でコスプレか?
「1−3−6は大穴中の大穴。当たるはずもない。だが、お前にとって、舟券などどうでも良いのだろう?」
確かにどうでも良い。興味本位で買っただけだ。しかし、この男は何だろうか。馴れ馴れしく話してくる奴にロクな者がいた試しがない。
「俺はジークフリート……この竜殺しの剣、”グラム“の主人だ」
別に用などない。お前など知らぬ。だが、男は話を続ける。鬱陶しいな。
「貴様は失われた都市”アンシエント・フェイマス・ハウス“に行くのだろう?ならば、死の山にいると言う魔竜ファフニールに気をつけるのだな……」
思わせぶりなセリフを残して男は去っていった。一体何事かを思ったら、男は“イーストシーの踏破者”という雑誌を落としていった。
僕は雑誌を見ると、”アンシエント・フェイマス・ハウス“にある死の山について書いてあった。
死の山には魔竜ファフニールと呼ばれる竜が守る暗黒抹茶スパゲティがあると言う。得体の知れない料理だが、雑誌によると凄く甘くて量があるらしい。
伝説のハンバーグで腹を満たした僕は少し甘味が欲しくなっていた。よし、今度はデザートだ。”アンシエント・フェイマス・ハウス“にある死の山に行こう。魔竜だろうと何だろうと四天王を倒した僕には怖いものは無い。
バルクアップした体で前を進もう。
と、その時、背後から大歓声が上がった。電光掲示板に”1−3−6“の文字が浮かび上がる。舟券が当たってしまった。
僕は驚いた。早速換金所に行って、舟券を交換する。少ししか賭けていなかったが、五百万近く手に入った。
魔族たちが手に手にワンカップとイカ焼きを持って祝福してくれる。何だ、意外といい奴らじゃないか。
しかし、思わぬ大金には良からぬ者も近寄ってくる。競艇場を出ると、モヒカン男たちが僕に絡んできた。
「おおっと!?お兄さん、お金、たくさん持ってるね?俺たち、ちょっと金欠なんだよね。哀れな俺たちに恵んでくれないかなぁ?」
「いいだろ?そんな大金持ってんだからねぇ?それとも痛い目が見たい?」
僕に喧嘩を振るとはいい度胸だ。
”ガツン”
僕は男の一人の脛をバットでぶっ叩いた。男は泣きながらもんどり打つ。もう一人の男が色めきだってナイフを取り出す。
「コラ〜〜ケンカスルナァ!」
よだれを垂らした焦点のはっきりしない警察官が駆け寄ってくる。
またか……
僕は正当防衛を主張するとともに男が僕にカツアゲを仕掛けてきたことを説明した。
「ナニ!コイツハワルイヤツカ!ヨシ、シケイ!」
警察官がナイフを持った男の頭を拳銃で二、三発撃ち抜く。そして、倒れている男の頭にありったけの銃弾を放った。まったく、警察官が死刑にしちゃまずいだろ。司法制度はどうなってる?
「ゴキョウリョク、カンシャスル!」
どこかで見た様な光景を繰り返す。さて、イーストシー線に乗って”アンシエント・フェイマス・ハウス“に向かうか。
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