荒廃した都市

闇王ジャラルダを始めとする闇を司りし者達———人々の間では世界に災いと破滅をもたらすと伝えられていた種族『人魔族』と『魔族』が住む、世界の中心に位置する小さな大陸ダクトレア。まるで外界を遮断するように大陸の周囲を覆う険しい岩山。空からの来訪を拒むように荒れ狂う乱気流。そして大陸全体を包む熱風と黒い瘴気。至るところに湧き上がる毒の沼。並みの人間が立ち入るだけでも危険の一言で語られる地獄のような荒野に、レウィシア達は立っていた。

「此処に闇王の本拠地が……」

まるで別世界に来たかのような異質な空気を肌で感じ取ったヴェルラウドは思わず息を呑む。

「うわー、なんてやな空気。さっすが闇王の住む場所なだけあるわね」

大陸中の澱んだ空気にスフレが嫌悪感を示しつつも辺りを探る。

「此処からは完全な敵地だ。闇王の居城までの道のりは遠くなりそうだが、気を引き締めて行かなくては」

リランは杖を地面に突き立てると、先端に魔力を集中させる。迫り来る戦いに備えての前準備であった。

「フン……確かに禍々しい気配が伝わるな。まあ良い。私も力を貸してやる」

ヘリオが扇を手に軽く息を吐き、大きく振り上げる。

「あなたが一緒だと心強いわ」

レウィシアが声を掛けると、ヘリオは無愛想な態度で返事した。

「何だか思っていた以上に恐ろしい相手が控えてそうだな」

周囲を伺いながらぼやくテティノ。

「だからこそ皆さんで力を合わせる必要があるのですよ。テティノ、しっかりと頼みますよ」

ラファウスからの一言に解ってるよと返答するテティノ。

「闇王の居城は……」

一行が上陸した場所は大陸の最南端となる場所であった。前方にうっすらと黒い瘴気に覆われた城のような建物が聳え立っているのが見える。あれが闇王の城だと確信したリランだが、城までの道のりはかなり遠く、周辺には岩山が囲んでいる。空から突入しようにも大陸の領域内の上空は乱気流のせいでまともに飛ぶ事が出来ず、徒歩で向かうしか他になかった。

「えー結局歩いて行かないといけないって事?めんどくさいわね」

「仕方ないわよ。ここまで来た以上、自分の足で前に進むしかないわ」

「ふん、いちいちあんたに言われなくてもわかってるわよ。あたしの足を引っ張るような事はしないでよね」

声を掛けてきたレウィシアに対して攻撃的に振る舞い、鋭い目を向けるスフレ。

「な、何なのよ……可愛げがないわね」

腑に落ちない様子のレウィシア。スフレは先立って前に進もうとする。

「おい待てよ」

ヴェルラウドが後に続く。

「スフレの様子……何か妙に引っ掛かるな」

オディアンは密かにスフレの様子が気になっていた。

「うーん、出来ればあの子と仲良くしたいけど……」

穏やかではない空気感にレウィシアは困惑しつつも足を動かし始める。

「何だかあのスフレっていうお姉ちゃん、レウィシアお姉ちゃんの事嫌いなのかな」

ルーチェがこっそりとラファウスに言う。

「あまり気にしない方がいいですよ。私達が下手に首を突っ込む事ではありませんから」

「でも……」

「本当にそれでいいのか?こんなところで女同士の揉め事とか勘弁してくれよ」

レウィシアとスフレのやり取りを陰で見ていたテティノもルーチェと同じように気に掛けていた。

「今はそんな事を考えている場合ではないでしょう。行きますよ」

冷静に振る舞いつつも足を進めるラファウス。

「くだらん話している暇があるなら足を動かせ。足手纏いになりそうなら別だがな」

高圧的な態度で一言言い残して足を進めるヘリオに、テティノが頭に血を登らせる。

「お前は黙ってろ!全く、誰が足手纏いになるものか」

テティノはルーチェの手を引いて歩き始めた。大陸内を進む一行に、湧き上がる毒沼と足場の悪い砂地、熱風竜巻といった障害が行く手を阻むものの、それぞれ力を合わせて乗り越えていく。

「みんな、気を付けて!」

一行の元に現れたのは、シャドービースト、シャドーデーモンといった影の魔物と剣を持った機械兵の群れであった。

「こんなザコ、さっさと片付けてやるわよ!」

魔物達が一斉に襲い掛かると、スフレが魔力を集中させる。機械兵はレウィシア、ヴェルラウド、オディアンによって破壊されていく。

「エクスプロード!」

スフレの爆発魔法によって吹き飛ばされる影の魔物の群れ。現れた魔物達は難なく退けられ、更に進む一行。半日程経過すると、一行は荒野を抜け、黒い瘴気に覆われた岩山地帯に辿り着く。岩山を探っていると、巨大な洞窟の入り口を発見する。

「つまりこの中を通れって事か」

洞窟を通る以外にこの先の道はないと確信した一行は洞窟に突入する。

「うっ……!」

思わず立ち止まる一行。瘴気が漂う洞窟内には腐乱死体が転がっており、腐敗臭が漂っているのだ。

「な、何なのよこれ……さっさと抜け出しましょうよ!」

スフレが酷い臭いの余り口を抑えながら足を速める。

「おい、気を付けろよ」

ヴェルラウドが後を追う。腐敗臭漂う洞窟を進んでいくと、水路が設けられた空洞に出る。更に足を進める一行だが、レウィシアと手を繋いでいるルーチェが突然待ってと呼び掛け、立ち止まる。

「ルーチェ、どうしたの?」

レウィシアが声を掛ける。

「……聞こえるんだ。魂の声が」

ルーチェは救済の玉を手に念じ始める。

「なーに?ボサッとしてると置いてかれるわよ?」

何のつもりだとルーチェに近付こうとするスフレを遮るヴェルラウド。

「おいおい、いきなり何だって言うんだ?」

テティノはルーチェの救済の玉をジッと見つめる。

「みんな、静かにして。此処には魂が彷徨っている。そして聞こえるんだ。魂の声が」

この場に存在する魂の声———それは怨念の類ではなく、ルーチェにしか聞こえない魂の負の力が発する悲しみの声であった。ルーチェは意識を集中させながら救済の玉を握り締め、強く念じた。



……ニンゲンニ……滅ボサレタ……


ニンゲン……正義……ニンゲンノ正義デ……我々ハ……



魂の声はそこで途絶える。更に意識を集中して声を探ろうとするルーチェだが、何も聞こえて来なかった。

「ねえ、一体何なのよ。魂の声だか何だか知らないけど、幽霊でも呼び出すつもり?」

ジッとしていられなくなったスフレがルーチェの元へ寄ろうとするが、オディアンに止められてしまう。ルーチェは一先ず魂を浄化させようと救済の玉に祈りを捧げる。浄化された魂は静かに昇って行った。

「むむ……ルーチェと言ったな。今のは?」

魂が昇って行くのを見たリランが興味津々に尋ねると、ルーチェは自身の聖職者としての使命について話す。

「成る程、まだ幼いのにそんな使命を背負っているとは……」

リランはルーチェの手元にある救済の玉をずっと見つめていた。

「ねえレウィシア。さっきから気になってたんだけど……あんた、今までずっとこんな小さい子を連れ回していたの?」

スフレは腰に手を当てながらレウィシアに詰め寄る。

「連れ回していたって……そんな人聞きの悪い事言わないでくれる?この子は……」

レウィシアはルーチェの事情について全て話す。

「あのね。よく考えてみなさいよ。この子はまだ子供でしょ?今まではあんた達が上手くやってたからいいにしても、これから控えている大きな戦いにまでこの子を連れて行く必要あるわけ?みんな無事で生きて帰れるかどうか解らないのに、今回は危険だからお城でお留守番させようとか考えなかったの?」

「うっ……それは……」

思わず返答に戸惑うレウィシア。ルーチェはスフレのレウィシアに対する掴み掛りように不快感を覚えるようになり、鋭い目で見据える。

「ま、何があっても責任を負うってならそれ以上は言わないでおくけど。王女様だったらよく考えなさいよ」

至近距離で迫るスフレに何も言い返せず黙り込んでしまうレウィシア。

「おい、いい加減黙れよ」

ヴェルラウドが苛立った調子でスフレに言う。

「ちょっと、そんな怖い顔しなくていいじゃない」

スフレがその場から離れると、レウィシアは安心すると同時に心の中でヴェルラウドに礼を言う。

「ところで、君は魂の声を聞いたとの事だが」

オディアンがルーチェに問い掛けると、ルーチェは聞き取った魂の声の内容を打ち明ける。

「人間に……滅ぼされた?」

ルーチェが頷く。

「ルーチェ、魂の主となる者は解る?」

横で話を聞いていたレウィシアが問う。ルーチェ曰く、何者かまでは判別出来なかったものの、彷徨っていた魂は嘆きと悲しみを象徴する深淵の色に覆われた魂であり、この地に住んでいた者———つまり闇を司りし者である事は確実だという。

「この地に住む者は闇を司りし者と呼ばれているけど、闇王って一体……」

レウィシアはルーチェが聞き取った魂の声の意味が気になりつつも、再び歩き始める。

「あなた、ルーチェ君だっけ?本当にそんな声が聞こえたの?」

スフレも問い掛けるが、ルーチェは睨み付けながら黙っている。

「な、何その目?」

「……ぼくはお姉ちゃんに意地悪する人は嫌いだから」

「あーっ、生意気な子!」

思わず言い返そうとするスフレだが、流石に子供相手に怒るのは大人げない上に説明しても面倒だし理解されないと考えてしまい、黙って引き下がる。

「……色々面倒な方ですね」

やり取りを見ていたラファウスもスフレは手の掛かる相手だと感じていた。

「何処までも下らん」

ヘリオは呆れた様子で言い放ち、レウィシアの後に続いて歩く。

「あれじゃあレウィシアとヴェルラウドも大変だな。ま、とりあえず行こうか」

「そうですね」

テティノとラファウスが歩き出すと、ヴェルラウドは鋭い目でスフレを見る。

「何なのよ、ヴェルラウドまでそんな目で見て」

「……もうこれ以上余計な面倒事を増やすな。お前が何を考えているのか知らんが、闇王との戦いを控えているんだからな」

「そんな事ぐらい解ってるわよ!今は決戦前だし、一先ずあんたを信じる事にするわ」

ヴェルラウドはウンザリした様子で溜息を付く。再び洞窟を進み、更に時間が経過すると、一行は突然立ち止まる。無数の魔物の骨が転がる広場に、半分機械の身体を持つ魔物が数体彷徨っているのだ。魔物達は一行の来訪に気付くと、唸り声を上げながら口から瘴気を放ち、目を光らせる。それはまさに現れた獲物を狙う目であった。

「みんな、気を付けろ!」

魔物達が一斉に襲い掛かると、一行が即座に武器を構える。燃え盛る炎を吐く魔物をオディアンの戦斧が打ち倒し、冷気のブレスを吐く魔物をヴェルラウドが迎え撃つ。電撃を放つ魔物が荒れ狂うものの、風円刃を手にしたラファウスとテティノが応戦する。魔物の群れは力を合わせた一行の敵ではなかったが、レウィシアは戦いの中で何かを感じ取っていた。まるで何かに苦しみ、深く嘆き、悲しんでいるような。狂ったように襲い掛かる魔物達の目から様々な負の感情が伝わって来る感覚に陥っているのだ。同時にかつての出来事が頭に浮かび上がる。ケセルの卑劣な手によって醜悪な魔物に変えられた人間と戦わされ、自らの手で殺してしまった忌まわしい記憶である。妙な予感を覚えたレウィシアは一旦戦いを止めさせようと考えたが、魔物達は既に倒されていた。

「やれやれ、こいつらは一体何者なんだ?何やら機械のような身体をしているが」

テティノが倒された魔物の姿に疑問を抱く。現れた魔物は、何者かの手によって改造を施された機械兵だったのだ。

「もしや、あのゲウドに……」

魔物の死骸を見たオディアンはパジン同様、ゲウドに改造された魔物だと考えていた。

「さてはこいつらも奴の仕業か?」

オディアンから改造されたパジンの事を聞かされていたヴェルラウドも、倒された魔物の姿を見てゲウドによる改造だと推測していた。

「もう敵は全滅したはずだ。先へ進むぞ」

一行が再び足を動かすと、レウィシアは煮え切らない胸中の余り立ち止まってしまう。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

ルーチェに声を掛けられると、レウィシアは我に返ったように足を急がせる。

「ねえ、ルーチェ。今現れた魔物の魂からも何か聞こえなかった?」

魔物の群れを見ている時に生じた不思議な感覚の答えを導き出そうとルーチェに尋ねるレウィシア。だがルーチェは魔物からは魂の声を感じなかったどころか、魂すらも存在しないと言うばかりであった。

「魂すらも存在しない?一体どういう事なの……」

「わからない。ぼくにはよくわからないけど、さっきの魔物達からは魂の力を感じなかった。もしかすると誰かに動かされているのかもしれない」

レウィシアは魔物の死骸をよく見ると、身体のところどころが機械化している事が伺え、破壊された機械部分から僅かに音声が聞こえて来る。コロセ、コロセという機械音声であった。

「そうか……この魔物達は身体を改造した何者かによって動かされているのね。それにしても……」

レウィシアは魔物達から感じ取った負の感情が何を意味しているのか、この魔物達は何を思っていたのか考えつつも足を速めた。険しい道のりを乗り越え、洞窟を抜けた一行が目にしたものは荒廃した都市だった。

「これは……!?」

リランが廃墟となった都市の状況を探る。数々の破壊された建物。中心に設けられた道を囲うように並ぶ無数の朽ちたエンタシス。まさに昔の時代にて一つの王国が繁栄していた事を物語っていた。道の向こうには黒い瘴気に覆われた巨大な城がある。

「あれが闇王の城だな」

聳え立つ巨大な城は間違いなく闇王の居城だと確信したヴェルラウドが険しい表情を浮かべる。だがレウィシアはどこか気持ちの整理が付かず、先へ進む事に躊躇を覚えてしまう。

「如何なされました?レウィシア王女」

様子が気になったオディアンが声を掛ける。

「あ、ごめんなさい。何でもないわ。えっと、あそこにあるのが闇王の城なのね」

あの魔物達から私は一体何を見ていたの?この落ち着かない心のざわつきは何なの?とレウィシアは自分に言い聞かせながらも、深呼吸をして一生懸命気持ちを切り替えようとする。

「ねえあんた、さっきから変じゃない?さては怖くなったの?」

妙に落ち着かない様子のレウィシアに見かねたスフレが絡んでくる。

「別に怖いわけじゃないわよ。ちょっと気分が優れないというか……」

下手に相手すると面倒なので上手く誤魔化そうとするレウィシアだが、スフレは納得いかなさそうに顔を近付けて来る。

「あのね。さっきも言ったけど、足手纏いになるようならすぐ帰ってもらうわよ。この戦いは私達にとって重要な戦いだし、あんた達は大事な助っ人なんだからね?解った?」

顔に吐息が掛かる距離でスフレに詰め寄られたレウィシアは内心苛立ちを覚え、反射的に顔を逸らす。

「わざわざ顔を近付けてまで言わなくていいでしょ!?あなた達の助けにならなきゃいけない事は解ってるし、足手纏いにはならないわよ!」

半ば感情的にレウィシアが顔を逸らせたまま反論する。

「待て。お前達、気を付けろ」

不意にリランが場を鎮める。

「クヒヒヒヒ……ヒャーッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!」

響くように聞こえ始める下卑た笑い声。ゲウドであった。一行が身構えた瞬間、空中浮遊マシンに乗ったゲウドが上空に現れる。

「貴様はゲウド!」

「クヒヒヒ、やはり来おったなヴェルラウドよ。有象無象どもも連れて来るとはのう」

醜悪な表情で見下ろしながら笑うゲウドに、ヴェルラウドは剣を構える。

「ヒヒヒ、赤雷の騎士ヴェルラウドと愚かな人間の諸君よ。本当の恐怖はここからじゃよ。今からワシの精鋭の兵器どもがお前達を血祭りにあげるのじゃからなぁ……我々の王国へ来たからには総動員で歓迎してやろう!」

ゲウドが水晶玉を取り出すと、玉から黒い瘴気の塊が次々と飛び上がる。巨大な瘴気の塊が前方に落下すると、それに続いて後方に次々と瘴気の塊が落下していく。現れたのは、かつてアクリム王国を震撼させていた醜悪な烏賊の魔物クラドリオであった。

「あれは……あの時の魔物!?」

アクリム王国を訪れた際に戦う事となったクラドリオの姿を見て驚くレウィシア。しかもその姿は触手と半身が機械で改造されている。

「囲まれたぞ!」

振り返ると、後方には無数の機械兵が立ちはだかっていた。機械兵達は亡者の群れのような唸り声を上げている。

「ヒャーッヒャッヒャッ!これで貴様らに逃げ道は無い!己の愚かさを悔い改め、そして死ぬがいい!」

機械兵達が一斉に襲い掛かり、クラドリオが目を光らせながら触手を唸らせると、ゲウドはマシンに乗ったまま城へ向かって行く。

「待て、ゲウド!」

ヴェルラウドが後を追おうとするが、クラドリオが立ち塞がっている。クラドリオの触手がヴェルラウドに向かった瞬間、一閃で斬り飛ばされる。レウィシアであった。

「レウィシア!」

「ヴェルラウド、此処にいる敵は私達に任せて。あなた達は闇王を倒すのが目的なんでしょう?」

そう言い残すと、レウィシアは炎の魔力を呼び起こし、果敢にクラドリオに挑む。

「後方はお任せ下さい」

後方の機械兵達はラファウス、テティノ、そしてヘリオが迎え撃っていた。

「ヴェルラウド、オディアン、リラン様。ここはあいつらに任せてあたし達は闇王のところへ行きましょう」

「何だと?しかし……」

オディアンとリランはレウィシア達の奮闘ぶりを見て躊躇する。

「あいつらも凄く強いんだし、きっと何とかしてくれるわよ。あたし達まで下手に消耗したら却って奴らの思うツボよ」

「……致し方無いか」

スフレの考えに賛同したオディアンとリランは隙を見つけて敵を振り切り、闇王の居城へ向かおうとする。

「ヴェルラウド!ボサッとしてないで行くわよ!」

足を急がせるスフレ。ヴェルラウドは醜悪な魔物と戦っているレウィシア達に感謝しつつも、闇王の居城へ向かう事にした。動き始めたヴェルラウドの背後をクラドリオの触手が狙う。

「はああっ!」

間髪で触手を切り落とすレウィシア。

「俺の為に済まない。此処は任せるぜ」

走りながらレウィシアに礼を言うヴェルラウド。暴走するクラドリオは切断された触手を再生させると、口から水色の液体を吐き出す。強酸の液だった。咄嗟に盾で強酸の攻撃を凌ぎ、反撃に転じようとした瞬間、二本の触手がレウィシアを捕える。

「うっ……があぁぁぁあっ!!」

触手は凄まじい力でレウィシアを締め付けていく。触手から逃れようとするレウィシアだが、更に電撃が襲い掛かる。

「がはああぁぁぁっ!!」

電撃を受け、叫び声を上げるレウィシアは地面に叩き付けられ、口元に運ばれていく。

「うぐっ……ああぁぁぁっ!!」

力を込めて炎の力を最大限に高め、真の太陽の力を目覚めさせたレウィシアは捕えているクラドリオの触手を焼き尽くしていく。身体の自由を取り戻したレウィシアは地面に落ちた剣を拾い、両手で構える。ふと後方の様子を見ると、ラファウス、テティノ、ルーチェ、ヘリオが次々と機械兵の群れを打ち倒していた。

「シャイニングウォール!」

ルーチェの光魔法による光の柱に飲み込まれる機械兵。

「ウォータースパウド!」

「ハリケーンスパイラル!」

テティノの水魔法とラファウスの風魔法による連携は巨大な螺旋状の水竜巻による真空波を生み、機械兵の群れをズタズタに切り裂いていく。

「そこを退け」

ヘリオは機敏な動きで舞い上がり、空中で扇を振り翳す。熱風と共に荒れ狂う無数の炎の蛇が機械兵を食らい尽くしていく。多くの機械兵が倒され、敵の数は残り僅かとなっていた。

「……今は戦うしか他に無いわね」

レウィシアはラファウス達が挑んでいる機械兵の正体が妙に気になり始めるものの、直ぐに考えを押し退け、クラドリオとの戦いに集中させる。


浮遊マシンに乗ったゲウドは、レウィシア達の協力で敵の群れを振り切り、闇王の居城へ向かって行くヴェルラウド達を見下ろしていた。

「ヒヒヒ……ヴェルラウドめ。仲間を捨て石にして闇王様に殺される事を選びおったか。まあ良い。奴ら等完全な復活を遂げた闇王様には敵うまい。ワシはもう少し街での戦いを楽しもうかのう」

ゲウドは再びレウィシア達が挑んでいる敵兵の元へ向かって行く。

「ほほう、あの小娘がケセルの言っていたレウィシア王女か。ヒヒヒ……確かに奴はヴェルラウド以上に脅威になりそうじゃな。そうとならば……」

クラドリオとの戦いを繰り広げているレウィシアの姿を見ながらも、ゲウドは水晶玉を手にニヤリと笑みを浮かべていた。

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