人だけど人じゃない

やなぎ

不可解な事件

町で不可解な空き巣事件が頻発している。今月になってもう5件目だ。

しかし空き巣といっても、モノ「は」取らない。


どの家も何かを取られた形跡はないのに、窓や玄関の鍵だけが壊されている。

しかも決まって旅行中や飲み会で家を空けている深夜に犯行が行われるそうだ。


犯行理由はわかっていない。


警察が必死になって犯人を探しているが、最初の犯行が発生してから3ヶ月経った今も犯人は捕まっていない。



僕は佐倉町という町に住んでいる。

最近、この町で空き巣事件が頻発していると聞いた。しかし僕は特段気にすることは無かった。犯行が“家を開けている深夜”にしか行われないと聞いたからだ。

僕は現在失業中の身。深夜に家を空けることはまず無い。失業してからというもの、できるだけお金を使わないように外出は控えるようにしている。

もうすぐ失業手当が貰えなくなる。再就職先を探さなければいけないとは思っているが何となく気が向かず、ずっと家で過ごしている。


深夜、僕は窓を開けてベランダへ出る。

夏ではあるが今年は冷夏のためか夜は気温が低く、涼しい。


スマホでご近所さんのあらゆるSNSを検索する。


今日は3件右隣の一軒家に住んでいる佐藤さん家族がうちを開けているらしい。

男は近くのコンビニまで買い物に行くかのようなラフな格好でアパートの外へ出る。


「やっぱり今年の夏は涼しいな」


男は誰にも聞こえないような声で呟く。


誰にも気づかれないように、約150m離れた家へ向かう。

門の前で少しだけ立ちどまり、目をつぶり掌を家に向かってかざし、家に人がいないことを確認する。


この男は異能力を使って家に人が居るかを確認することができる。男はその能力を使って人が留守にしているうちに忍び込む。


再び能力を使って家のドアの前まで1、2センチ地面から離れた少し浮いた状態で家の玄関まで進んで行く。男は能力を使い、鍵を壊す。



犯人が捕まらない理由はこれだ。

男は異能力を使うために指紋や足跡を残さない。だから犯人が特定されない。


「今日もひと仕事やっていくか」


ぼそぼそと小さな声で呟く。

鍵を壊して家に入り、リビングを探して家の中を歩く。

家の中で最も広い部屋、リビングを探し当てると部屋の真ん中へ行き、意識を集中させる。


どこからか溢れてきた赤や黄、オレンジなど様々な色の光が男の体に吸い込まれてゆく。

吸い込んだ光で男の体が青白く光る。


男は光を全身で吸い込んだ後、満足気な表情を浮かべて家に帰っていく。



「他人の思い出が僕にとっての食事」


思い出を栄養として取り込む、それが思い出星メモリーズ・プラネットで産まれた僕らの生き方。


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人だけど人じゃない やなぎ @yanagi77

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