しろくまたばこ店 *冬
しろくまのたばこ屋さんがある町では、冬にも花火大会が開かれます。
花火はふつう夏だけなんだよ、と教えてあげたとき、しろくまさんはとても驚いていました。北極からやってきた彼はこの町しか知らないのだから、無理もありません。しろくまさんは泳ぎ着いたこの海で目にした花火に心を奪われ、ここに住むことを決めたのでした。
……だからといって花火の日に、お店を開かないのはまずいよ。夕方すぎ、店先でるんるんと身支度をするしろくまさんを見て、わたしはあわてて声をかけました。
大好きな花火を見たいしろくまさんの気持ちもよくわかりますが、今日はたくさんの人が町を訪れる日。お店に置いているサイダーとか、駄菓子とか、ちっちゃなおもちゃとか、そんなものが売れる、稼ぎどきなのです。
だから、たとえどんなにたこ焼きがおいしそうでも、りんご飴がきらきらしていても、あたたかい豚汁がほしくても、射的にすてきな商品があっても……と話せば話すほど、しろくまさんの目はきらきらきらきら輝いていきます。
どーん、と大きな音が鳴りました。あたりがぱあっと明るくなります。それ以上にぱああっと表情を明るくしたしろくまさんを、わたしはこれ以上ひきとめられませんでした。しょうがない、今回だけだよ、と言うのと、しろくまさんがお店のシャッターをしめるのは、ほとんど同時でした。
それから二人で、海に向かって坂をかけおりていきました。夜の闇に、うそみたいに明るい花が咲きほこります。
今日は、お店はお休みです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます