しろくまたばこ店 *冬

 しろくまのたばこ屋さんがある町では、冬にも花火大会が開かれます。

 花火はふつう夏だけなんだよ、と教えてあげたとき、しろくまさんはとても驚いていました。北極からやってきた彼はこの町しか知らないのだから、無理もありません。しろくまさんは泳ぎ着いたこの海で目にした花火に心を奪われ、ここに住むことを決めたのでした。

 ……だからといって花火の日に、お店を開かないのはまずいよ。夕方すぎ、店先でるんるんと身支度をするしろくまさんを見て、わたしはあわてて声をかけました。

 大好きな花火を見たいしろくまさんの気持ちもよくわかりますが、今日はたくさんの人が町を訪れる日。お店に置いているサイダーとか、駄菓子とか、ちっちゃなおもちゃとか、そんなものが売れる、稼ぎどきなのです。

 だから、たとえどんなにたこ焼きがおいしそうでも、りんご飴がきらきらしていても、あたたかい豚汁がほしくても、射的にすてきな商品があっても……と話せば話すほど、しろくまさんの目はきらきらきらきら輝いていきます。

 どーん、と大きな音が鳴りました。あたりがぱあっと明るくなります。それ以上にぱああっと表情を明るくしたしろくまさんを、わたしはこれ以上ひきとめられませんでした。しょうがない、今回だけだよ、と言うのと、しろくまさんがお店のシャッターをしめるのは、ほとんど同時でした。

 それから二人で、海に向かって坂をかけおりていきました。夜の闇に、うそみたいに明るい花が咲きほこります。

 今日は、お店はお休みです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る