第33話 魔法を使えるようになった。

『オロナ〇ンC』

 子供の頃に、よく飲んでいた。

 当時は、本当に元気になるような気がした。

 エナジードリンクなんて存在しない時代である。


 子供の頃は炭酸飲料は苦い、辛い、そんな感じだった。

 甘さを邪魔する要因だったのだろう。

 私の祖父は、私に『オロ〇ミンC』を渡す前に、よく振ってから飲ませるのだ。

「なんで甘くなるの?」

「魔法だよ」


 幼い僕は、本当に祖父は魔法が使えるのだと思っていた。

 今なら解る。

 祖父はキャップを開けて、瓶を振り炭酸を抜いて渡していたわけだ。

「甘くなれ…甘くなれ…」

 呪文のように瓶を振る祖父の顔を今もボンヤリと覚えている。


 祖父は、私が幼い時に他界した。

 今でも自分の家族は祖父だけだと思っている。

 私には優しい祖父であった。


 久しぶりに『オ〇ナミンC』を貰って、幼い頃を思い出した。


「僕も…今なら魔法を使えるよ」


 よく振って炭酸を抜いて飲んだ『オロナミ〇C』は、少し切ない味がした。

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