26  論う陶酔

      あげつら陶酔とうすい




「しっ・・・」

 涼介は突然人差し指を口に当て、心地良さそうにしゃべっていたまゆみの動きを止めた。

「・・・・・」

 まゆみは涼介の強い眼差しに、浮かべていた微笑みに戸惑いとかげりを加えた。

「・・・・・」

 ワインで少し赤く染まっていたまゆみの頬までと顔を寄せた涼介は、止めた空気に余韻よいんぜた。

「・・・・・」

 ソファーに浅く腰掛けていたまゆみは反射的に顔を少し後ろにずらしたが、ぐに向きなおり、涼介の圧力に負けまいとあごを引き、上目遣いに力を込めた。


 涼介は芝居掛かった瞳でまゆみをとらえ、めた情熱を演出していた。

 まゆみにそなわる乙女心は、見つめ合う二人の瞳の奥底には嘘がないと願い、お互いの裸をさらす前に〝しとやかな恥じらい〟を披歴ひれきさせて欲しいと願っていた。

 知性や洗練せんれん微塵みじんもない、何時いつもと違う涼介の乱暴なキスにまゆみは襲われていた。

〝乙女〟はかない偶像であり、乙女心は絵空事ではないと、まゆみは懸命にキスと戦っていた。

 なごやかに交わしていた会話を何の脈略みゃくりゃくもなくキスという名の傲慢ごうまんで突然終わらせ、しかも無思慮ぶしりょな圧力で涼介は恋人同士とは到底思えない粗暴そぼうたしなみや乱雑らんざつをまゆみに繰り出していた。

 まゆみは涼介の無秩序むちつじょに身も心もき乱され続け、ソファーの背凭せもたれまで身体からだかたむける事を余儀よぎなくされ、冷静さを保とうとする心と、涼介にひれ伏せば極められる絶頂を渇望かつぼうする子宮の葛藤かっとうは、まだ目覚め切れていないマゾヒズムという性的嗜好せいてきしこうをまゆみに覚知かくちさせようとしていた。

 風雲急ふううんきゅうを告げた二人の曖昧あいまいな情熱は、かかげた理想を確かめる為に暴君ぼうくんであろうとする狼煙のろしを涼介に上げさせ、まゆみにはまた一つ、涼介が運命の人だとする強引な思い込みを本人から否定されるかもしれない厳しい現実を突き付けていた。しかし同時にまゆみは、全身に羞恥しゅうち屈辱くつじょくという精神的苦痛を性的興奮として受け入れようとする血流を全身に脈打たせ始めていた。


「・・・・・」

 涼介は強いキスでまゆみを圧倒しながら、左手に持ったままだったワイングラスを見えていないセンターテーブルに置いた。

「・・・・・」

 まゆみはかろうじて両手を涼介の肩に掛けていた。しかしその両手は涼介を受け入れ様とする動きではなく、荒くれ者から身を守ろうとする動きを見せていた。

 肩にわせていた右手で再びまゆみの髪をき乱していた涼介は、重ねていた唇を耳やあごまで縦横無尽じゅうおうむじんに滑らせながら左手でまゆみの腰をまさぐっていた。

 身動きが出来ず、涼介にしつこくじわじわと甚振いたぶられ続けているまゆみの身体からだは、羞恥故しゅうちゆえの快感を演じようとする五感とは裏腹に豪快に快楽をむさぼろうとする本能があぶり出され、その本能は脈打つ血流を子宮にじ込んでいた。


「はっ、はあっ、はぁっ・・・」

 重い圧でふさがれていた唇に突然自由を与えられたまゆみは、せきを切って流れ出した水の様に激しい呼吸を声にした。

「・・・・・」

 涼介は穏やかな眼差まなざしでまゆみを見つめていた。

「・・・あっ、あっ・・・」

 涼介を見つめられず頬を赤く染めていたまゆみは、音もなく両肘りょうひじの辺りまでがされたジャケットを体につなぎ止めて置こうと反射的に足掻あがいた。

「・・・・・」

 涼介はまゆみの自由を奪い、乳房を鷲掴わしづかんだ。

「・・・あっ・・いや・・・」

 まゆみは乳房の谷間が尋常じんじょうではない程汗ばんでいる事に強烈な羞恥しゅうちを感じ、首筋に伝う汗と赤くうるおう顔を隠そうと必死に涼介の背中をつかもうとしていた。

「・・・・・」

 涼介の右手は無思慮ぶしりょに両乳房をいじり、乳首をもてあそび、固く立たせてははじき、つまみ、でていた。

「ああっ・・・」

 まゆみの脳には心地良い刺激ではなく、針で刺された様な得体えたいの知れない快感が襲っていた。

「・・・・・」

 涼介はオーブンでチキンを焼く様にゆっくりと時間を掛けてまゆみの胸を甚振いたぶるがまま、カットソーとブラジャーを更にり上げて乳首をんだ。

「あっ、ああっ・・・」

 まゆみは自分の胸にある涼介の頭を両手でつかみ、乳首から爪先つまさきまでと縦に伸びる快感に羞恥しゅうちおさえ切れず声をらし続け、大きく体をくねらせた。

 涼介はまゆみの胸を乱暴に可愛がっていた。

 まゆみはどうしようもなく熱く濡れあふれ、背中は雨に打たれた様にびしょ濡れだった。

「ああっ・・・駄目、駄目・・・」

 脇腹をなめらかに伝い、へその辺りでゆっくりと遊ぶ涼介の指先に鳥肌を立てていたまゆみは、次は大切な部分をもてあそぶだろう左指を拒否し、しかし同時にその指を待っていた。

「いや・・いや・・・」

 触られ、押し広げられれば容赦ようしゃなく愛液があふれ出てしまう恥ずかしさと、がソファーを汚した先にある絶頂ぜっちょう妄想もうそうし、気が遠くなり掛けていた。


「はあ、はあ・・・あっ・・あん・・いや・・・」

 余りにも遅い涼介の指先にまゆみは耐えていた。期待や興奮は否応いやおうなしに押し寄せ、たかぶり続け、爪先つまさきを握り締める程に耐えていた。

「・・・いや・・いやっ・・あっ、あっ、ああっ!!・・・」

 かろうじて維持していた緊張のすきを突いて、涼介はまゆみに差し込んでいた。

 穏やかさや柔らかさという優しさとは無縁の指先が突然、束となって大切な部分に襲い掛かっていた。

 ちつの中と外で、それぞれの指がそれぞれに動き回っていた。

 まゆみは両膝りょうひざに力を入れて自分を守ろうとしていた。

 内壁は涼介の指でき回されていた。

 クリトリスはこすられ、つまままれ、かれていた。

「あぁっ、ああっ・・・」

 濡れ光るちつや乳首を涼介に甚振いたぶられるがまま、まゆみは右足をソファーの上に乗せられ、立膝たてひざかされた。

 ひざの上で止まっていたスカートは大きく開いている足の付け根までり上がっていた。

 まゆみは戸惑とまどいなく動く涼介の指先にすべがないまま切ない声を小刻みにらし続け、涼介はその声に従い、指先を更に奥へ激しく突き動かしていた。

「あっ、あっ、ああっ・・・ううっ・・・」

 まゆみは何度も襲う怖い程の快感に大きくこぼし続けていた声を、涼介のキスで強引に止められた。

 涼介はストッキングを破り下げ、パンツをり下ろし、指先をまゆみの奥深くでうごめかせていた。

「うう・・ううっ・・ああ・・・」

 まゆみは髪の毛の先にまで涼介の指を感じていた。

 唇の自由を奪われたまま、崩れ行く姿勢のまま、ソファーの背凭せもたれに右足を掛けられ、両足を更に大きく広げられ、スカートは更に上へり上がり、両手の自由も奪われ続けているまゆみは、服を一枚も脱がないまま明るい部屋の中で乳首とちつだけをさらけ出していた。

「はぁっ、あっ、いやっ・・・駄目、駄目・・・」

 まゆみは唇をふさがれながらも声を上げ、快感をむさぼる方向にかじを切ろうとする自分の身体からだをしていた。

 パンツは左足首辺りで小さくなっていた。

 激しく動く涼介の指先は何度もまゆみをらせていた。

 まゆみは羞恥しゅうちがされた意識の中で、部屋の明かりを消して欲しいと、見開く事が出来ない瞳で切望せつぼうしていた。


「はあっ、はあっ」

 姿勢を戻され、ジャケットをぎ取られたまゆみは、うつろにおよぐ瞳で呼吸を乱したまま涼介の胸にしがみ付こうと藻掻もがいていた。

「・・・・・」

 涼介は抱き付く事を許さなかった。まゆみの両肩を押さえ、まゆみの願いを慇懃無礼いんぎんぶれいにあしらいながら、まゆみに落ち着きを戻そうとしていた。

「・・・・・」

 呼吸と瞳に普段のつやが戻り始めていたまゆみは、浅く座っているソファーから床に両膝りょうひざを付けている涼介に寄り添いたい瞳を向けていた。

「・・・・・」

 涼介は穏やかで優しい眼差まなざしでまゆみを見ていた。肩に掛けていた両手はまゆみの髪をき整えていた。

 まゆみは抱いて欲しいと願っていた。

 涼介の眼差まなざしは更におだやかになっていた。


「・・・・・」

 涼介はゆっくりと立ち上がった。

「!!・・・」

 まゆみは微動だに出来ず、目を見開いていた。

「・・・・・」

 涼介はまゆみの髪を手櫛てぐしかし続けていた。

「・・・・・」

 鼻先に触れそうな距離で立つ、目に飛び込み続ける涼介の男根いちもつに、まゆみの脳は我慢にも限度がある事を予告するしびれを子宮に伝達していた。

 まゆみは手櫛てぐしで髪を溶かされ続けていた。

 動かしたい時間の動かない時間に、動かないで欲しい男根いちもつをまゆみは凝視ぎょうししていた。

「・・・・・」

 かたく反った涼介に両手を伸ばし、ほおり付けていた。

 うずく身体はなまめかしく溶けそうに動いていた。

 初めて嗅ぐ涼介の匂いに唇が半開きになっていた。

「・・・!!・・・ううっ・・・」

 感情がうつろになりかけた刹那せつな、まゆみは強引に目をつむらされ、反射的に両手で涼介の腰を強くつかんだ。

「ううっ・・・うぇっ・・・うぼっ・・」

 口の中で涼介がうごめいていた。

 歯を当てて止めたい程の熱い涼介が喉の奥に突き刺さっていた。

(・・・ううっ・・あっ・・・いやあぁ・・・)

 刺さり続ける男根いちもつを拒絶していたまゆみの両手は涼介の腰からがされ、その両手は上に引き上げられていた。

「うぐぅ・・・うぅ・・・」

 涼介と接触している部分は口唇のどだけだった。

(・・・涼介・・苦しい・・よ・・・)

 暴君ぼうくんと化し続けている涼介の傲慢ごうまんに、まゆみは何度もせ返していた。

 痛め付けられているまゆみは悲しい時に出る涙ではない一滴ひとしずくを両方の瞳からほおに伝わせていた。しかしその一滴ひとしずくは過去に経験した事のない、常軌じょうきいっした、比類ひるいなき興奮を呼び込む狼煙のろしとなっている事に本能は気付いていた。

「ううっ・・・はぁ、はぁ・・・うっ・・・」

 嗚咽おえつが何度も襲っていた。その度に大切な部分は濡れあふれ、喉奥からは粘度の高い胃液交じりの唾液があふれ、温かい氷柱つららのように細長く伸び流れ、まゆみの両腿りょうももを美しく汚していた。

「はあっ、はあっ、はあっ・・・」

 呼吸を許され、両手を自由にされたまゆみは、涼介を見上げる瞳で得体えたいの知れないをお願いしていた。

「はあっ・・・あっ!ううっ!!」

 まゆみはうつろな瞳のまま、自由になっていた両手で再び涼介の両腿をつかみ、更に耐える事を強いられていた。

「ううっ・・うぼっ・・・・うう・・・」

 込み上げて来るものを必死でおさえ、息が出来ないほど喉奥を刺し続ける亀頭にむせび、これ以上我慢出来ないと右手で涼介のももを叩き、足をばたつかせていた。

(うう・・ああ・・もう無理・・うう・・・)

 涼介に頭をつかまれ、髪の毛を乱され、前後する涼介の腰に逃げ場を失った喉奥は、苦痛を珠玉の快感に変えて欲しいと、それが唯一の逃げ道である事を未知の感覚をつかさどる脳に訴え始めていた。

「はあ、はあ、うう・・・ああ・・・」

 口の中からあふれ出している唾液もそのままに、まゆみは考えるひまを与えられず、うつろな瞳のまま身体からだを反転させられた。

「あっ!・・ううっ・・・」

 両膝りょうひざを床に付かされたまゆみは、ソファーの背凭せもたれに横顔を押し付けられていた。

(ああ・・駄目・・・おかしくなっちゃう・・・)

 腰をらされ、更なる本性をあぶり出されてしまいそうな屈辱的な恰好かっこうをさせられたまゆみは、乱れている呼吸やあふれ出ている汗が、今から起こるであろう快楽への期待にるものである事に混乱していた。

「あっ、いや・・・あっ、駄目っ・・・」

 涼介は左手でまゆみの両腕を取り、まゆみの背中でつかみ、体を起こす事を許さず、右指で敏感な部分を甚振いたぶっていた。

「・・・あっ、駄目っ、ああっ、ああっ・・・」

 まゆみはむしられるような悦楽えつらくと突き抜ける逸楽いつらく享楽きょうらくという悲鳴に変えていた。

(涼介・・・駄目・・・昇天いっちゃう・・・)

 そう思った直後、まゆみは涼介との最初の夜だからこそ最後まで守っていたかったを自らぎ取った。


「あっ、あっ・・ああ・・いや・・駄目・・・」

 涼介の無骨ぶこつな指は、まゆみの至る所で激しさと優しさを何度も繰り返していた。

(・・・あっ、あっ、いや・・・涼介・・・もうらさないで・・・)

 まゆみは辿り着けそうで辿り着けない、頂点なき快感に翻弄ほんろうされながら、ほんの数分前、自分の鼻先でいきり立っていた涼介の男根いちもつを脳裏によむがえらせていた。

「ああっ、もう駄目・・・入れ・・・て・・・」

 まゆみは気が狂いそうな程の刺激に体をくねらせながら、必死で自分の顔を涼介に向け、消え入りそうな声とうつろな瞳で涼介にそう訴えた。

「・・・ねぇ・・・欲しい・・・」

 滅茶苦茶にして欲しいと切望せつぼうする懇願こんがんを、まゆみは更に吐き出した。

 理性など端微塵ぱみじんに吹き飛んでいた。羞恥しゅうちや乙女心などという茶番ちゃばんな妄想は消えていた。瞳に焼き付いている立った涼介を子宮の奥で感じたいと渇望かつぼうしていた。目の前で熟視じゅくしした、もう忘れる事はない、そして何時いつ何処どこかで思い出せば、そのたびに必ず濡れてしまうだろう涼介を渇望かつぼうしていた。

 

「・・・・・」

 力なく顔を向け、うるおいいを増し、とした瞳で懇願こんがんするまゆみに涼介はと近づき、見つめ合っていた二人の距離を唇でゼロにした。

 まゆみのじれた身体からだのラインは女性の美しさと卑猥ひわいを発散していた。

 訴え、キスをまゆみは存分に堪能たんのうしていた。

 身動きが取れないまま、まゆみは自分の顔を二人の唾液だえきで汚し続けていた。

「・・・・・」

 脈打つ心臓の音が聞こえそうなほど興奮していた。

 涼介のがやっと手に入ると子宮が狂喜きょうきしていた。

「・・・あっ!!・・あっ、い・・や・・うう・・・」

 離れた唇から、まゆみは叫び声にならない声をらしていた。

(・・・ねえ・・あん、ああ・・・奥へ・・突いて・・あっ・・何で・・・)

 ちつを亀頭だけでとらえたまま動かない涼介に、まゆみは気が狂いそうなほど全神経を陰唇いんしんに集中させられていた。

 涼介は浅い抜き差しをゆっくりと繰り返していた。

 両手は背中から乳首へ伸び、指先でいじっていた。

(駄目・・ねえ涼介・・ああん・・ああ・・早く・・・)

 まゆみはらし続ける涼介に渇望かつぼうにじませた顔を向け、瞳にはという懇願こんがんを浮かべていた。

(あん・・あん、あっ!そこは・・いやっ、駄目っ!・・・)

 まゆみはどう反応してどう拒否をすればいいのか分からないまま、自分を誤魔化す様に思い切り目をつむり、心の中でそう叫んだ。

 ゆっくりと、浅く軽く、涼介は出し入れする亀頭で何度も陰唇いんしんでる事を繰り返し、時折り不意を突いた様にアナルに親指を入れ、その深さを楽しんでいた。

 まゆみの背中は汗がにじんでいた。

 ももには愛液こうふん幾筋いくすじも伝っていた。 

「・・・涼介・・おかしくなっちゃう・・突いて・・欲しい・・・」

 まゆみはと、願いを言葉にした。

 ちつは涼介を奥にいざなう収縮を繰り返していた。

 部屋は煌煌こうこうと明るく、室内の斬新なインテリアを浮かび上がらせていた。

 ソファーの向こうにあるキングサイズのベッドは、シーツをと張ったまましていた。

「ぎゃああっ!!・・ああっ!・・ああっ・・・」

 まゆみが閉め忘れたカーテンの向こう側には月が輝いていた。

 グラスは倒れ、ガラステーブルの上にこぼれた白ワインが乱反射していた。

 万感迫ばんかんせまる感情を集約し終えたまゆみは発狂したかのように叫んでいた。

 まんして、あるいは勿体もったいを付けた涼介は、その全てをまゆみの最深部まで強く激しく突きつらぬいていた。

「はああ!!はあ・・ぎゃあぁ!!ああ、あっ・・・」

 涼介の男根いちもつはまゆみの頭の先にまで届いていた。

 堅く強い刺激は電流となってまゆみの身体からだを駆けめぐっていた。

 濡れた瞳で懇願こんがんしたまゆみの子宮は優しさとは無縁の強打で涼介に痛め付けられ、よろこびを感じていた。

 強弱や緩急かんきゅうを繰り返す涼介のリズムは、押し広げられたままのちつに空気をまねき、恥ずかしさを通り越した音をズブズブと立てていた。

 前後に激しく揺れるまゆみの身体からだは電撃と激震を快楽に変え、耳が遠くなる程の絶頂を脳に伝えていた。

 まゆみは頂点を何度も刻み、粉々にくだけ落ちたい願望を悲鳴に変えて涼介をむさぼっていた。そしてその先に待つ更なる未知の絶頂を切望せつぼうしていた。


「はぁっ、はぁっ、はあっ・・・」

 涼介に後ろから叩き付けられながらまゆみは両腕を引っ張られ、上体をじり起こされた。

「ううっ・・・」

 唇をふさがれ、乳房を掴まれ、乱れた髪はまゆみの顔をおおっていた。

 ねじれた体はねじじられたまま、激しくつらぬかれ続けていた。

「はあっ、はあっ、ああ・・・(もっと・・・)あん、はあっ・・・」

 鷲掴わしづかみにされている胸を、愛おしい涼介の手で握りつぶして欲しいと思っていた。

 まゆみは愛する人に犯されている事に興奮していた。そして絶頂はたましいむさぼるものだと覚醒かくせいしていた。

「あっ、あっ・・ああぁ・・・あん・・涼介・・ああ・・駄目・・・」

 まゆみは涼介にって未知の世界へ引き込まれていた。そして何度も襲いかかって来る昇天しょうてんという頂点の記憶は、すでさらなる悦楽えつらく貪欲どんよく模索もさくし始めた本能と結託けったくし、未知の頂点を求めていた。そして最上の悦楽えつらくという記憶を上書き更新し続ける事を、今夜このまま何度でも涼介から奪い取りたいと思っていた。

 まゆみは涼介の匂いが自分の身体からだみ着いて欲しいと願っていた。

「はあ、はあ、ああ・・・いく、いく・・・昇天いっちゃう・・・」

 高まり続ける感度に限界がない事に、まゆみはある種恐怖を感じていた。

(・・・壊、れ、たら・・ごめ、ん、ね・・・)

 激しく突かれる身体に心の声まで途切れ途切れにさせられながら、少し余裕の出て来たまゆみは何度も打ち震えている子宮をあんじていた。そしてあんじさせる程鮮明に脳裏に焼き付く今夜のセックスを、会いたくても会えない、切ない一人の夜に涼介いちもつの匂いと共に思い出せば熱く濡れあふれ、妄想を掻き立てれば種類の違う至極しごくの快感を意のままに得られる事に思いをせ、昇天いき続けていた。


「・・・・・」

 涼介は荒々しく傲慢ごうまんで、粗雑そざつ居丈高いたけだかで、無思慮ぶしりょで投げりな裸をさらしている自分を、ゆるくぬるく、愛情とは乖離無縁かいりむえんめた熱と汗で身体をまみれさせ、苦渋くじゅうさいなまれ、相愛へいざなう為の恋愛が持つ性質や情緒じょうちょからもはるかに遠い、しゃに構えた心の中枢ちゅうすうで冷静を保ち続けようとしているもう一人の涼介に俯瞰ふかんさせていた。

 涼介はまゆみに残していた最後のカードを自虐的じぎゃくてきに切っていた。そのカードは手前勝手に思い上がった慇懃無礼いんぎんぶれい醜態しゅうたいを押し付ける不条理ふじょうりに満ちていた。そしてそのカードは二人の前途にいて重大な意味を持つリスキーな切り札だと理解していた。しかしそのカードを切らざるを得ないとした理不尽りふじんな先入観は、これからの今夜に存在するはずの達成感という、自己満足を利己的りこてきに追及する事でしか相性を吟味ぎんみする糸口を見つけられないだろうと、屁理屈へりくつの極みのような思惑おもわく充足じゅうそく辻褄つじつまを合わせようとしていた。

 涼介はありとあらゆる場面でまゆみの全てを冒涜ぼうとくし、これ以上ない程の野蛮やばんを振る舞っていた。

 ひたいを伝う汗もそのままに涼介はまゆみをつらぬき続けながら、まゆみが見せる狂おしい反応が視覚と聴覚から自身の脳に強く届いてくれる事を渇望かつぼうし、過去味わった事の無い最上の興奮を夢中でむさぼりたいと思っていた。

 涼介はセックスに委ねた自身の愛というの形を、その在り方と共にまゆみに気付いて欲しいと思っていた。それは恋をはぐくむ為に必要な所作しょさだという事に気付いて欲しいと思っていた。差し出し、差し伸べた独善どくぜんという自己都合と詭弁きべんせめぎ合う恋愛のぬるい部分や、自身のぬるい恋愛に気付いて欲しいと思っていた。

 涼介はしびれる快感を得るには程遠い自身の散漫さんまんな集中力をなげき、自己陶酔すらあげつらえない中途半端な性悪しょうわるでまゆみの身体を激しく甚振いたぶり続ければ、最終的には今夜の全てを正当化出来ると曖昧あいまいな結論に逃げ込む準備をしていた。それは虚空こくう虚無きょむという、自身を最大限満足させる為の結婚の条件として普遍ふへんの愛情を注いで欲しいと願う、雲をつかむような漫然まんぜんとした美意識こそ崇高すうこうだと崇拝すうはいする女性の心理に似ていた。あるいは一つの失恋だけで悟り切った様にうたいながら恋愛論を振りかざす、うるわしく瑞々みずみずしい女性の心理に似ていた。

 どちらも悪い事ではなかった。

 誰が悪い訳でもなかった。

 涼介はそういう結論を常に持ち歩いている自身に辟易へきえきしていた。

「・・・・・」

 まゆみの発狂を引き出す為に涼介は全身全霊を込めてつらぬき続けていた。

 吹き出す汗がまゆみの身体に飛び散っていた。

 まゆみは汗でつやを増していた

 優しさがるからこそ成り立つ極上のセックスとは別の極上に、まゆみは何度も何度も昇天いかされ続けていた。















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