第40話世界をぐるりと見渡しました
街を飛び出した俺は、リザーディアの方へとヘルメスを走らせる。
「多分、移動中の事故だろう。この道中を行けばチームメイトがいるはずだ」
「魔物にでも襲われたのかにゃ?」
「だとしたら……ヤバそうだな」
いくらリザードマンが強靭な種族とはいえ、魔物を相手にするのは無理があるだろう。
とにかくできるだけ早く救助に向かわねば。
しばらく走ると俺は鞄から透眼鏡を取り出し、時折ぐるっと辺りを見渡す。
だが岩が透けて見えるとはいえ、線が重なったり空気の濁りなどで見渡せる範囲はせいぜい1キロメートルくらいか。
「……ダメだ、これじゃあ時間がかかりすぎる」
中央街からリザーディアへは半日くらいかかる。
それだけの広範囲をこんな探し方では、とても見つけられないだろう。
このままじゃ祭りに間に合わせるのは不可能だ。
何か手はないか……そうだ。
「クロ、俺を上空に飛ばせるか?」
上空から探せば見渡せる範囲は相当広くなるはずだ。
問題はクロの制御能力だが……
「もちろんにゃ! 任せるにゃ!」
自信満々に頷いた。
――怖い。だが手はこれしかない。
めちゃめちゃ不安になりながらも、俺はクロに頼む。
「た、頼んだぞ。マジで」
「にゃ!」
クロの全身の毛がぶわっと浮き立つ。
すると俺の身体が宙に浮き始めた。
ぎゃー! 怖い! 死ぬ!
だ、だが怖がっている暇は、ない……!
「ゆ、ゆっくり上げてくれ……」
「わかったにゃ」
「ゆっくりだぞ!」
俺の言葉の通り、ゆっくり上昇していく。
俺の不安を察してか、本当にゆっくりと、である。
クロの制御能力が高くて助かった。
一機に上げられたら気絶していたかもしれん。
下を見るとくらくらするからな。
もう百メートルくらいは上がっただろうか、クロと雪だるまの姿は豆粒くらいになっている。
最初は死ぬほど怖かったが、今は周りを見る余裕ができてきた。
――ふと、恐怖以外の感情が生まれた。
「……おぉ、すごいな」
見渡す限りの地平線、雲が、太陽が近い。
風が直に感じられる。
遥か遠くには大海が、雪の積もる大地が、雷の鳴り続ける黒雲が見える。
まさに『世界』を感じられる絵だ。
ここが異世界……来てよかったな。
その感動に俺は思わずため息を吐いていた。
「……はっ、そんなことしてる場合じゃなかった。リザードマンたちを探さないと」
我に返った俺は透眼鏡を構え、周囲を見渡す。
高い所から見渡せば、リザーディアの街まで見えるほどだ。
ここと中央街を結ぶ線を探せば……いた!
数人のリザードマンが倒れた馬車の傍にいる。
向かい合っているのは魔物の群れだ。
傷ついたリザードマンたちに今にも襲いかからんとする魔物の群れ。
まずい、今から降りて行っても間に合わない。
「……そうだ、あれを使えば!」
鞄に手を突っ込み、目当ての魔道具を探す。
アレでもないコレでもない……待て待て落ち着け、まだ慌てる時間じゃない。
冷静に冷静に……あった!
取り出したのは雷撃銃という魔道具だ。
これは狙いをつけた場所に強力な雷撃を放ち、敵を倒すというものだ。
使う機会がなかったから奥の方に放り込んでたが、ついに出番である。
「よく狙いをつけて……ここだ!」
引き金を引くと同時に、雷撃銃から光の帯が走る。
それは魔物たちの頭上に着くと、無数に分かれて魔物たちを貫いた。
よし、命中。
光に包まれた魔物たちは煙を上げながらバタバタと倒れていく。
その光景を目の当たりにしたリザードマンたちは驚き戸惑っていた。
ふぅ、間一髪だったがとりあえず無事みたいでよかったよかった。
「ユキタカー! どうしたにゃー!?」
地面からクロの声が聞こえてくる。
「あー、もう大丈夫だ! 降ろしてくれ!」
「わかったにゃー! ところでリザードマンは見つかったかにゃー?」
クロの問いに、俺は親指を立てて返すのだった。
「おっ、あれだな」
その後、リザードマンたちのいた方角へ向かうと、彼らを見つけた。
ヘルメスのアクセルを回し、彼らの近くまで行く。
「こんにちは、タバサのダンスチームの方ですか?」
「あぁそうだ。あんたは?」
「タバサの知り合いです。あなた方を探してくれと言われてここまで来ました」
「おお、そうだったのか! いやぁ魔物に襲われ絶体絶命……と思ってたら空から雷が降ってきて魔物が全滅したんだ。おったまげたぜ」
「あぁ、神の思し召しだ!」
それは俺の攻撃なのだが……まぁわざわざ言う必要もない。
「それはユキタカがやったのにゃ!」
ふんすと鼻息を荒くするクロ。
だから言っても仕方ないだろ。
皆さんキョトンとしてるじゃないか。
「え、ええっと。それより早く行かないと祭りに間に合わないですよ」
「おお、そうなんだがよ、サンドリザードが怪我しちまって動けないんだ。残念だが今年の祭りは出られないな」
残念がるリザードマンたち。
見れば確かに、サンドリザードは怪我をしているようだ。
さっきの魔物に驚いて転んだのだろう、脚に傷を負っている。
だがこれなら治せるかもしれないな。
「ちょっと待っていてくださいね」
鞄から取り出したのは、前に使った万能薬だ。
状態異常を治すだけでなく、砕いて粉にして傷口に塗ればあらゆる傷を瞬く間に治すという効果もある。
「少し見せて貰っていいですか?」
「あぁ、構わないぜ」
俺はサンドリザードの脚に万能薬の粉を塗ってみた。
すると淡い光がサンドリザードを包み、痛々しく血を滲ませていた脚の傷が癒えていく。
「おおっ!? き、傷口が塞がっていく!?」
あっという間に傷が塞がり、サンドリザードは立ち上がり、吠えた。
「グルゥ!」
何事もなかったかのように尻尾を振っている。
ふぅ、よかった。ちゃんと効いてくれか。
「おおおお! スゲェなニイちゃん! あんた魔法使いかい? 使い魔を連れてるしよ!」
「いやぁ、そんなんじゃないんですけどね」
悪いが魔法は全く使えない。
残念ながらこれは魔道具の力である。
「とりあえずタバサさんが待ってますよ。早く行った方がいいのでは?」
「おお! そうだったな!」
「これで祭りに遅れずに済むぜ!」
「ありがとよニイちゃん! この恩は忘れないからよ!」
リザードマンたちは礼を言うと、サンドリザードに乗り走り去っていった。
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