第38話またまた再会しました
花火工房を出てヘルメスを走らせていると、大きな街が見えてきた。
風に乗って聞こえてくるのは、笛や太鼓の騒がしい音色。
街を覆う壁はまばらで、隙間から沢山の人影見える。
リザードマンやドワーフ、普通の人間もいる。
どうやらここで間違いなさそうだな。
街へ辿り着いた俺は、近くで酒を呷っていた兵士に尋ねる。
「こんにちは、ここで祭りをやってるんですか?」
「おう、旅人さんかい? そうだよ、今日は年に一度の炎舞祭だ。楽しんでってくんな!」
例によって勝手に入っても特に問題はないらしい。
遠慮なく入らせてもらうとするか。
「にゃ! すごい賑やかさにゃ!」
「いろんな種族がいるのだ」
人、ドワーフ、リザードマンだけでなく、獣人だったり、耳が長かったり、背が高かったりと本当に様々だ。
おかげで雪だるま連れでもあまり目立たない。
「ていうか日が暮れてきたな。早く宿を探そう」
思った以上に人が多い。
祭りの前日だから泊まる場所くらいすぐ見つかると思ったが、侮っていたな……
この人の多さだと宿泊客もかなり多いだろう。
ヘルメスを押してながら、どこか泊まる場所はないかと探し歩く。
「すみません、部屋は空いてますか?」
「悪いけどもういっぱいだよ」
「すみません、部屋は空いてますか?」
「無理無理、他を当たってくんな」
手当たり次第に宿を当たるが、どこも満室のようだ。
うーん、困ったな。
家を出してもいいんだけど、これだけ人がいると相当離れた場所に出さないと人目についてしまう。
今からヘルメスを遠くまで走らせるのはちょっと面倒だし……そんな事を考えながら歩いていると、丁度ホテルから出てきたリザードマンと目が合う。
「おや、ユキタカじゃあないか!」
「あなたは……タバサさんですか?」
「当たりだよ、よくわかったねぇ」
流石に三度も会えばわかる。
姿形、声や喋り方も、よく観察すれば意外に特徴があるもんだ。
「さっき声が聞こえたんだけど、もしかして宿を探しているのかい?」
「えぇ、中々空いてなくて……」
「よかったら私の部屋に来なよ。あぁ別に取って食おうってんじゃないさ。チームメイトがまだ到着してないから、広すぎてスペースが余ってるんだ」
「てことは……」
「あぁ、炎舞祭の出場チームに選ばれたよ!」
胸を張り、親指を立てるタバサ。
そういえば以前会った時、祭りに出る為の予選中だとか言ってたっけ。
無事突破出来たようである。
「おめでとうございます」
「ありがとう、本選も頑張るから応援しておくれ」
「もちろんですとも! ……しかしチームメイトさんたちはどうされたんですか?」
部屋は取ってあるのに人はいないというのは不思議な話である。
何かトラブルでも起こっているのだろうか。
タバサもそれを案じているのか、少し顔をしかめる。
「ふむ、今日の今頃着くと言っていたんだが……まぁ遅れているんだろうさ。そのうち来るだろから、そうしたら少しだけ空けてくれればいいさね。いいから泊まっていきなよ」
「そういうことでしたら、お言葉に甘えさせてもらいます」
折角の申し出だ。世話になるとしよう。
人の親切を無下にしちゃあ罰が当たるぜ。
「ありがとにゃ!」
「かたじけないのだ」
クロと雪だるまも礼を言う。
「気にしなくていいんだよ。私も一人じゃ暇だったしね」
それを気にするなと言わんばかりに、タバサはカラカラと笑い飛ばした。
「さて、もう夜も遅い。夕食にしようかね」
「それなら俺が作りますよ。部屋を貸していただいてますし」
「そうかい? ならお願いするよ」
「では厨房を借りますね」
この部屋も厨房付きである。
俺はクロたちを連れて厨房へ入った。
「ユキタカ、カレー! カレーが食べたいにゃ!」
「おいおい、カレーはこの間作っただろ?」
流石に連続でカレーはきつい。
というわけで作るのはこれだ。
鞄から取り出したのは、ビンに入った真っ赤なソースである。
それを見たクロはびくんと身体を震わせた。
「にゃっ!? そ、そのソースは……」
「うん、あの時のソースだ」
以前、居酒屋に行った時に料理にかかっていた激辛ソース。
前に市場に行った時、買っておいたのだ。
この地方特産品で、基本的には唐辛子をペースト状にして瓶に詰めたものらしい。
ここらの人は常用しているとのことである。
名前はそのまんま、マグマソースというらしい。ちなみに値段は銀貨一枚。
「タバサに出すんだし、辛めの方がいいと思ってな。おいおいそう不安そうな顔をするなって、俺たちが食べても問題ないくらいにするさ」
「……マヨネーズたっぷりでお願いするにゃ」
あのマグマステーキがよほどトラウマだったらしい。
確かにこのソース、唐辛子の量が多いから辛いだけなんだよな。
「ちょっと手を加えるから安心しろって」
そう言って俺は精霊刀を取り出す。
市場で買ったトマトとタマネギをみじん切りにして炒めていく。
そこはソースを投入、ジュッと音がして、いい匂いが辺りに漂う。
「これをしばらく炒めれば……特製サルサソースの完成だ」
「にゃあ……」
フライパンの中に真っ赤ソースを見て、クロは顔をしかめた。
「少しだけ舐めてみるか?」
「雪だるま、お願いにゃ!」
「わかったのだ」
いつもは真っ先に食べたがるクロだが、よほどトラウマだったようだ。
雪だるまはフライパンに手を入れ、それを口元に運ぶ。
「では失礼して……む、これはあのソースとは全く違う味なのだ! 辛さはあるが、甘みと酸味が上手く溶け込み、より美味なソースに仕上がっているのだ! これならマヨネーズなしでも食べられるのだ」
「そりゃよかった」
サルサソースなんて作った事はなかったので適当だったが、上手くいったようである。
雪だるまが食べるのを見ていたクロが、興味津々といった顔でこちらを見ている。
「そこまで言うならボクも食べてみるにゃ!」
「はいよ」
少しだけ指で掬い、舐めさせてやる。
それを恐る恐る舐めたクロが、目を大きく見開いた。
「美味いにゃ! 辛いけど美味いにゃ!」
そして俺の指についたソースを綺麗に舐め取った。
どうやら気に入ったようである。
「それで何を作るにゃ? ステーキかにゃ?」
「それもいいが、実はパスタを作ろうと思ってな」
「パスタ……」
「とは何なのだ?」
二人は聞き覚えのない単語に首を傾げている。
そういえばこの世界では麺類を見た事がなかったな。
なら作り甲斐があるというものである。
「まぁ楽しみにしてろよ」
そう言って俺は調理を始めるのだった。
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